第六話 どうしてここにいる
「ぃんやぁーやっぱ海はいいなぁ!なぁ泄!」
さっきから南はそればっかり言っている。
「そーだなぁ・・。」
俺も、さっきからこの返事していない。
「なぁなぁ。なんでさっきからずっと篠崎見てんだよぉ。」
「見てねぇよ!」
口ではそう言うものの、確かに俺は篠崎を目で追っている。
「はぁ・・・俺どうしちまったんだろ。」
軽く頭を叩いて、俺は南と一緒に海に入った。
「ディティ・・・ディティ、いる?」
人気の無い岩場まで歩いていき、私はこそこそとディティを捜していた。
「ディティ?いるんだったら・・・」
そこへ、誰かの足音が聞こえた。
「ディティって・・・恋人?」
バレたっ・・!!
「それとも、海の中に誰かいるの?」
嫌味を言っているのは、朝の二人組。
「あなた達・・朝からうるさいのよ・・。」
そう言って、私は二人を睨みつける。
「人魚って、海水かけたらどうなるのかしらね。」
「えっ・・。」
私が驚いていると、バケツを持った女がいる。
「そぉ・・れっ!」
「ちょっ・・」
バシャァアンと、私に海水がかかる。
「・・あぁ・・私、とうとうキレちゃった・・。」
波が岩場に押し寄せる。ザァアンと、私の後ろで波が5メートルくらいの高さまで上がる。
「私を馬鹿にしたこと・・後悔させてあげる。」
私は、力を使うときだけ瞳の色が人魚の瞳、赤になる。
「さぁ、行きなさい。もう止めないわ。」
私は二人を指差した。その瞬間、波が一斉に二人を襲う。
「・・!!」
「く・・るしいっ・・!!」
波に呑まれた人間が、顔を引きつられ倒れ込む。
「・・しばらく寝ていろ。」
そう言って、私は座り込んだ。
力を使いすぎた。ひどく疲れる。
「はぁ・・。速く魔女を捕まえないと・・・。」
じゃりっ・・と、また誰かが近づいてくる音がする。
しまった、今は目が・・・。
「篠崎?」
・・最悪、しかも泄だ。
「あっ・・くっ来るなっ!」
「は?」
また波が岩場に押し寄せる。やばい、力のコントロールが利かない。
「逃げてっ・・」
いやだ、泄を傷つけたくないっ・・!!
「篠崎っ・・落ち着けっ・・・。」
ふわっと、私の体を何かが包む。
「・・!!ぃや!」
それは、まぎれもなく泄だった。
「いや!!」
波が高さを増して私と泄を襲う。
バシャァァアアン!と、私と泄が二人で海に落ちる。
(ヤ・・・バイッ!)
私は人魚の姿に戻り、泄は気絶してしまった。
「泄!泄っ、しっかりしろ!」
急いで泄を抱きかかえ陸へ上がり、そっと寝かせた。でも目覚める様子はなく、私は絶望で胸がいっぱいだった。
「私が・・泄を・・泄を殺して・・」
私が、泄を殺してしまった・・・?
「ん・・ぅ・・」
私が硬直していると、泄が目覚めた。
「・・リン。」
「・・私・・泄を殺しかけて・・・」
「違う!俺が勝手に・・・」
「違うんだ、私がっ力のコントロールができなくてっ・・」
私が振り上げた手を、泄が力強く受け止めた。
そしてそのまま、私を抱きしめた。
「泄っ・・!?」
耳元で、かすかに聞こえた。泄の声。
「どうして・・ここにいるんだ?」