第五話 敵多き世界に
私は洞窟から出ると、真っ先にディティのところに向かった。
「ディティ、あのっ・・・」
’’リン、人間が好きなの?’’
―ドクンッ・・。心臓が脈打った。
「バレてたんだ・・私が人間と会ってること。」
’’バレバレ。僕に隠し事できると思ったの?’’
「いずれ・・自分から言おうと思ってたの・・・。」
ディティは悲しそうな顔をして、その短い手で私の頭に手を乗っけた。
’’本当に、お母さんそっくりだよ。’’
そう言って、ディティは私をじっと見た。
私もディティを見る。すると、ディティは’’やれやれ’’と苦笑いした。
’’海の魔女は、最近海だけではなく陸にも勢力をのばしている。このままじゃ、陸も僕たちの街みたいになっちゃうかもね・・・。’’
「陸にいるの・・海の魔女が?」
’’うん。リンと同じように化けてるんだって。’’
「・・なんで知ってるの?」
’’魚の連絡網なめないでくんない?’’
「ご、ごめん。」
思わず謝る。
’’海の魔女は、子供の多いところにいる。’’
「じゃぁ・・もう一度、学校に通う必要があるわね・・・。」
’’気をつけてね。時間があったら絶対に海に来てね!’’
「えぇ・・。もちろん。」
私はディティを抱きしめて、そして陸に向かった。
(待ってろよ海の魔女っ・・!!)
「じゃぁ、出席をとりまーす。藍堂くーん」
ガラガラッ・・!
先生が、出席を取り始めたときだった。
「篠崎さん!?」
「なんですか。」
あいつ、篠崎リンが教室に堂々と入ってきた。あまりに堂々と入ってきたもんだから、俺は思わず吹き出してしまった。
「ぇ・・と、じゃぁ篠崎さんは出席と・・。いやーん3ヶ月ぶりの全員出席ぃ!」
そんな先生を完全に無視して、篠崎はとっとと自分の席に座った。
「ぅわー・・あいつ今頃になって登校するって・・すげぇ根性だな。」
「あぁ。」
俺は南に適当に返事をして、篠崎を見た。
相変わらず、無愛想である。しかもまだ暑いというのに長袖だ。
「・・・?」
篠崎が頬杖をついて外を見ていると、かすかにだけど腕が見えた。
でもなぜか、そこには黒い入墨があった。
(あの入墨・・まさかっ・・あの時の人魚!?・・間違いない、あいつはきっと人魚なんだ。)
「もしかして、泄って篠崎に惚れてんの?」
「ばっ・・!ちっげーよ!」
「ほほぅ。その否定具合が怪しいねぇ。」
二人でばか騒ぎしていると、篠崎がこっちを見ていることに気づいた。
「ほれ、篠崎も泄のこと見てるで!」
「やめろ!お前はっ・・!」
そのままふざけていると、いつの間にか俺達の目の前に先生が来ていた。
「あっ・・。」
「二人とも、退場しますか?」
そして俺達は、その後みっちり怒られた。
(馬鹿な奴ら・・。)
私はあいつらを見ながらそう思った。
でも、あの志貴泄って奴には気をつけなきゃいけない。あいつは確かに私を見ていた。
私の腕の入墨を見た途端に顔色を変えた。
きっとあいつは気づいてる。私の正体に。
「篠崎さん、久しぶりねぇ。」
隣の席の女の子が話しかけてきた。
「・・そうね。」
「3ヶ月もどうしたの?」
「入院。」
私は嘘をついた。まさか本当のことを言えるわけがない。
「もう平気なの?」
「だから来たの。」
名前も分からないこの女の子。勇気を出して私に喋りかけたつもりだけど、結局びくびくしている。
まぁ、別にどうでもいいけど。
一刻も早く海の魔女を捜さないと、一番怪しいのはあの担任だな。
子供の多い場所に魔女はいる。ディティの言葉が本当なら、この学校で私に味方はいるのか?
「ねぇ人魚さん、どうしてそんなに無愛想なの?」
―ピクッ・・!!どこからか、そんな声と笑い声が聞こえた。
声のするほうを見ると、そこには2人組の女の子がニヤニヤしながらこっちを見ている。
(私に喧嘩ふっかけてんのか・・。)
「ねぇどうしてそんなに怖い目でこっちを見てるの、人魚さん。」
その言葉も無視して、私はただ外を見つめた。
私は学んだ。相手にすると、余計にあいつ等は調子に乗る。
「はーい!それでは、今日は校外学習で海に行きますよぉ!」
先生がすごく嬉しそうに言う。
(海か・・。)
私も、少し口元が緩んだ。
やっぱり、帰ろうか・・海に。
そんなこと考えながら、わたし達のクラスは海に向かった。
やっぱり私には、敵が多いみたい・・。