第二十三話 幸せはつかみ取って
パシャァァンッ・・・!何か海面ではねる音がして、おれはすぐにその方向を見た。
でもいるのは、ただのイルカだった。
沈黙が続く海。おれは諦めかけて、下を向いていた。
さっきのイルカが、「キュゥン」と嬉しそうに鳴いている。おれは、立ち上がってその方向を見た。
「・・・!!」
声に出なかった。あまりに嬉しすぎて。
もう絶対に帰ってこないと、おれは思っていたのに。
あいつはいつだっておれと真逆のことを考えているんだ。きっと。
「泄、帰ってきたよ。」
おれが瞬きをする間に、人魚の姿のリンは消えて、そこには篠崎リンが立っている。
「リン・・・!!」
おれは迷わずにリンのもとへ駆け寄った。
「どうしてっ、やっと仲間に会えたんだろ?!」
「え・・・」
リンは驚いたような顔をして、おれを見ている。
おれはリンの肩をつかんで、揺さぶる。
「泄は、私といたくないの?」
おれはそこで気づいた。リンの顔に、泣いた跡がはっきりと残っていること。
どうして、泣いてたんだ。リン。
「私は泄と、・・それからみんなとまだここにいたいから・・。泄は私といたくないの?」
「そんなんじゃない!」
おれは、なんだか泣きそうだった。どうしておれは、言葉を伝えるのがこうも下手なんだ。
「大丈夫だよ。私はいつでも側にいる。そのつもりだよ。」
目を瞑った。強く強く。涙なんか見せたくない。
おれはリンから少し離れて、顔を痛いほどこすった。
「おかえり、リン。」
改めてそう言うと、リンは今まで見たことのないような笑顔を見せてこう言った。
「ただいまっ、泄!」
言いながら私は泄に抱きついた。もう絶対に離れるもんか。
だって、だってだって。
ここが、私の場所だもの。
太陽がやっと重苦しい雲をはね除けて顔をのぞかせた。
その日差しが私を照らす。
瞬間、私の体中にある入墨が明るく光った。
「えっ」
稲妻のように私の体を覆ていた入墨は、その模様を変えていった。
その模様は、まるで波。
波が私を覆っている。これはきっと、海とも繋がっているという証。
だから私は少しだけ泣いたの。
「魔女は・・・きっと幸せになっているはず。だからこれは、きっと魔女からの贈り物。」
そうつぶやいて、私は泄の胸に顔を沈ませた。
これできっと、みんなハッピーエンドだから。