第二十一話 絆・愛情・全てが嘘
「じゃぁ、あたしがランと一緒にいけばいいんでしょ?」
魔女はそうつぶやいた。
「どういうこと・・・?」
私が聞くと、魔女は優しく笑ってくれた。
「まさか・・・」
「これで、リンはひぐらしとも泄とも一緒にいられるわ。」
なんて残酷な言葉なのだろう。
「待って!魔女っ・・サワさん!あなたにも生きる権利はある!」
でもサワさんは、ゆっくりとひぐらしに近づいていった。
「一緒にいきましょう、ラン。」
そう言って、ひぐらしが持っている槍を握った。
「やめて!」
瞬間、何かあたたかいものが二人を包み込んだ。
「どうしてっ・・・!」
温かいものが消えると同時にサワさんの姿は消えて、ひぐらしが力なく倒れ込んだ。
私はひぐらしの体を受け止めて、そっと涙をながした。
「どうして・・・」
私の涙は、すぐに海水と混ざって消えていった。
「リン・・・ごめん・・・。」
そして、ひぐらしは今度こそ本当に目を覚ました。
「・・・ばか!」
ひぐらしを突き放して、私は砂浜にむかって泳いだ。
全速力で。もう海にはいたくない。
また一つ、私の大切な人が消えていってしまった。
私のせいで。
「リン!」
前だけをむいて泳いでいる私。ひぐらしは、そんな私を追いかけて手を握った。
「リン!おれの話しをきいてくれ!」
ひぐらしは私の顔を真っ正面から見ていってくれた。
「おれは、確かにお前等を裏切った!でも、おれもお前と一緒にいたい!」
つかんでいる腕を引き寄せられて、私はひぐらしの腕の中に抱き寄せられた。
「頼む・・。おれと一緒にいてくれ。」
耳元で聞こえるひぐらしの声。
私は必死で抵抗した。ひぐらしの腕を振り払って、はやく誰もいないところに行きたかった。
「やっ・・」
「リン」
ひぐらしが私の名前を呼んだ。
瞬間、ひぐらしが私の頬をつかんだ。さぁっと血の気が引いていく。
「ちょっ・・んっ・・」
ひぐらしは、何の迷いもなく私にキスをした。
「・・・っ!・・やだ!」
ひぐらしを突き飛ばして、私は急いで海面まででた。砂浜のほうを見て、泄の姿を確認して
私は叫んだ。
「泄っ!!」
笑顔になった。泄の姿が見られたから。—でも。
瞬間。ひぐらしの手が私の腕をつかんで、海まで引きずり込まれた。
「泄っ!」
そう聞こえた気がした。
おれは立ち上がって、海をよく見る。そこには、笑っているリンの姿があった。
「リン・・」
でも、何か海に引きずり込まれるようにしてまた海の中に消えていった。
おかしい、直感でだけど。海が、おかしい。
「ぃや!放して!」
海の中で、私はまたひぐらしと言い合っていた。
「どうしてお前が人間のところへ行くのかはわからない。でも、忘れるなよリン。あいつは人で、お前は人魚。しょせん奪う種族と奪われる種族が、本当に一緒にいられるとおもってるのか?」
ひぐらしの言葉に、私は言い返せなかった。
たしかに、その通りだ。
「あいつはいつか気づく。お前が奪って、自分が奪われると。」
「・・・っ!」
ひぐらしはそのまま私の腕を引き寄せた。
「帰ろう。おれたちの場所に。」
強く強く、ひぐらしは私を抱きしめていた。そして私は気づいたんだ。
海の中で、静かに消えていく私自身の涙に。