第二十話 人魚の過去
ザァァン・・・。
海は静かで、少し不気味なぐらいだった。
そこに現れた、海の神様。’’アトランティス’’。今まで散々私たちを見捨ててきた海の神。
「ならば力をやろう。大切な物を守る力を」
アトランティスはそう言った。でも、私は迷った。
私の大切なものて、何?
母様?ひぐらし?魔女?泄?それとも、自分?
「人魚の少女リンよ。もっと自分のことを知るがよい。そうすれば、血は流れない。」
アトランティスが持っている杖が光る。
「―・・・っ!」
その光が、私の中に入っていく。
温かい。すごく、あたたかい。
「ひぐらし。もう、やめて。」
私は改めてひぐらしを見た。
「リンっ。どうしてっ・・・」
「魔女は間違った。でも、今はそれを後悔してあやまりにきてる。なのに、どうして殺そうとするの?こんなことが繰り返されるから、人魚の過去は血塗られてるんだよ。」
「リン・・・あたしなんかかばわなくても」
「魔女にも生きる資格はある。」
私は言いきった。そうだよ。誰にだって生きる資格はある。
それが当たり前のことのように、間違えるのも当たり前だ。間違えない生き物なんて、いない。
「それは・・・魔女の味方になって、おれの敵になるってことか。」
「違う。ひぐらしはわかってない。ひぐらしは私たちを裏切った。そして魔女の生気を奪われた。だから復讐しようとしてる。それは、ひぐらしの勝手。」
そう。ひぐらしも間違った。でもその間違いを正すことが、魔女を傷つけることだなんておかしい。
「ひぐらしは間違ってる。だから、私が正す。」
ひぐらしは笑った。おかしい。こんなことでひぐらしは笑わない。
どうして?さっきからまるでひぐらしの体を誰かが使ってしゃべっているみたい。
「もしかして、魔女は薄々気づいてるんじゃないかな。」
いきなり、ひぐらしの口調が変わった。
「・・・僕だよ。」
この一言で魔女は理解したようだった。
その場に硬直して、口元が少し震えている。
「・・ラン・・?」
やっと口からでた言葉は、信じられない言葉だった。
「ランって・・・まさか・・・」
私はひぐらしを見た。
「そう。僕はラン。あの日、船長に殺されてしまったけれど。」
どうして、この人が魔女を・・!?
「やっぱり・・・ランだったのね」
魔女はもう驚いてはいない。まっすぐにひぐらしを見ている。
「君を魔女にしてしまったのは僕のせい。だからけじめをつけにきたよ」
どうしてひぐらしが魔女の思い人なの?!
「ランは、やっぱりひぐらしに取り憑いてたのね。」
「えっ・・」
「ひぐらしから出てって、ラン。その子は、リンの大切な人よ。」
「できないよ。ひぐらしは、自分の意志で僕に体を使わせてくれてるから。」
私には、理解できなかった。どうしてひぐらしが、体を使わせているのか。
一体、何のために。
「ひぐらしっ・・!」
「ひぐらしはもういないとおもうんだな。人魚の少女リンさん」
低く暗い声だった。
「どうして・・・」
「僕は、サワと一緒にいたいんだ。」
サワ・・?
「君のうしろにいる海の魔女。それがサワ。僕の、大切な人」
「え!?」
「君ならわかってくれるよね。サワと一緒にいたい気持ち。大切な人を守りたい気持ち。」
それは痛いほどわかる。でも、私は一体どうすればいいの?




