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第十九話 今はまだ小さくても

おれは、少し後悔していた。もしリンがこのまま帰ってこなかったら、おれは南やクラスのみんなにどう言えばいい。それだけじゃない。おれは、どうすればいい。

 波は静かに揺れている。月明かりに照らされる海は、まるで一つの絵のようだった。

「ねぇ・・・泄くん。」

おれの横で、ふと声がした。

「魔女・・・まだ何か企んでるのか?」

「あたし、償いたいの・・・。泄くんや、人魚たちに。」

それは、おもってもない言葉だった。

「じゃぁ、おれじゃなくてリンに言うんだな。リンは、きっとお前の味方になってくれるから。」

「リンが・・・?」

信じられないという表情だった。

「あいつは、自分のことは嫌いでも人のことは一番に考えるやつだから。」

「でも、あたしは許してもらえないとおもうわ・・・。あたしは報復で、リンから全てを奪う自分を止められなかった。だから、きっとリンもあたしを怨んでる。」

確かに、そうかもしれない。

リンは、魔女から好きな人も家族も居場所も全部取られた。おれだったら許してない。

でも、リンは違う。

「リンは、信じてもいいとおもう。」

「え?」

「もうちょっと、人を信じてみたらどうだ?もしかしたら、リンがあいつらを説得してくれるかもしれない。」

おれは、いつもリンや南たちと一緒にいるから寂しいなんておもったことないけど、こいつはきっと違うんだろう。何百年もの間、ずっと一人で孤独だったんだよな。

「あたし、海に行ってくる。・・・・ありがとう、泄くん」

魔女は、そう言ってにこりと笑って海に入って行った。一人取り残されたおれは、浜辺に座り込んだ。


「ひぐらしっ、人間に裏切られたからって魔女に手出しする必要はないじゃない!」

「何言ってんだ!魔女はおれたちをを殺しかけたんだぞ!?もしリンが生気玉を割らなかったら、おれたちは永遠に海のそこで眠り続けてたんだぞ!?」

ひぐらしは、私の腕を強くつかんだ。

「この腕の入墨を入れたのは誰だ!?海の魔女じゃないのか!?」

痛い。入墨の痛みじゃない。ひぐらしが強く握っているせいだ。

「いたっ・・・ひぐらし、やめてよ!私はこうして生きてるし、ひぐらしたちも目覚めたんだからいいよ!」

「リン。お前、どうして魔女の味方をするんだ!!」

そのとき、声がした。

「リン・・そうよ。どうしてあたしなの?」

それは、まぎれもなく魔女の声。その声に、ひぐらしが反応する。

ひぐらしだけじゃない。母様も、私の仲間全員が反応する。

「魔女・・・おれは、お前だけは絶対に許さない!」

ひぐらしは、もう私の話しなんか聞いていない。魔女に復讐してやる。

心の中は、もう闇だ。

「リン。あたしはもうどこへも行けない。もういいわ。あたしは奪いすぎた。」

「魔女っ・・待って!私には、魔女の気持ち痛いくらいわかる!私が守る!」

必死に叫んだ。すると魔女は、すごく優しく笑って目を瞑った。

「・・魔女を囲め!!」

ひぐらしたちが叫ぶ。

一体何をする気なんだ。

「もう二度と海を見ることはできないとおもえ。」

「ちょっ・・!」

ひぐらしたちは、何故か腕の中にとても古い槍を持っていた。

ま、さか。

「これは、数百年前に人魚を殺した特別な槍。水中でも使える槍。」

それは、魔女の愛人『ラン』を殺した槍。そして、魔女自身も殺されかけた槍。

「魔女!」

魔女は怯えていた。槍を見て、怯えていた。記憶が蘇っているのだ。

魔女の中の、消したい記憶が。

「去れっ、海の魔女!!」

誰か男の人魚が叫んで、一斉に槍が投げられた。

「ぃやぁあああああ!!」

私はどうしようもなくただ叫んだ。消えないで。

瞬間。魔女の周りの空間に、亀裂が入りはじめた。

「―!?」

「これはっ・・!」

この光景。私は覚えてる。

「アトランティスだ・・・。」

光は強さを増して魔女を取り囲む。

「どうして・・」

私は、ただ呆然としていた。アトランティスが魔女を助けた。

一体、どうして。

「人魚の青年ひぐらしよ。これは、罪なるぞ。」

「あっアトランティスが、どうして魔女の味方にっ・・」

「我は、いつでも正しき者の側にいる。魔女は、自らの死を覚悟してまで其方たちに償おうとした。なのにどうしてそれを聞かぬ。汝等はどうして一度誤った者をここまでして傷つける。」

私は自然と、涙を流していた。

「人魚の少女リンよ。汝は、魔女を守りたいと言ったな?」

アトランティスが、こちらをむく。なんて、優しそうな笑顔なのだろう。

「はい・・。」


「ならば力をやろう。大切な物を守る力を。」



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