第十八話 逢えたなら、別れを告げよう
「泄!!」
私はありったけの声で叫んだ。
もう、絶対に放さない。そうおもって、泄を抱きしめた。
「リン・・ちょ、苦しいっ・・」
「あ・・ごめ・・」
私はそこで正気に戻って、泄を放した。
「泄・・・魔女に生気を吸われたんじゃ・・」
「おれは、平気だよ。今も生きてるじゃんか。」
もう隠さない。そうおもった。
この気持ち、もうかくさない。
大好き、泄。私、泄が一番大切。
だから、きっとあなたにもこの気持ち伝わるはず。
「魔女。」
私は、改めて魔女を見た。
「そんな・・まさか、ありえない・・」
「魔女!こんなことしてもランって人は喜ばない!だから、もうやめよう?全部やりなおそう。」
魔女は、迷ったように陸を見ている。
「ラン・・・」
そう小さくつぶやいた気がした。
でも私は、何も言わずに魔女を見た。
「あたし、間違ってたのかな・・・?」
そして、握りしめていた杖を落とした。その衝撃で、杖についていた生気玉が音をたてて割れた。
瞬間、一つ一つの光の固まりが海に入っていく。
しばらく、沈黙が続いた。誰も何も言わない。
私は、人間の姿のままそこに立ち尽くしている。
「リン、海に誰かいる。」
泄が、言った。
私はうつろな瞳で海を見た。
「・・・う・・そ」
そこにあったのは、一人なんて数じゃない。大勢のマーメイドの姿。
「みんな・・・」
涙が出てきた。100年以上も前に眠ってしまった、私の仲間たち。
「リン、行ってこい。」
泄が私の背中をおしてくれた。だから、私は海に向かって飛び込む。
全部、全部が夢だったみたいに。
「リン!」
その声は、何年もの間待ち続けていた声。
「ひぐらし・・?」
もぐって、姿を確認する。間違いない。あの綺麗な青い尾びれ。
「リン!」
ひぐらしは、まっすぐ私にむかって泳いできて、そして私を抱きしめた。
「ちょっ・・・」
「逢いたかった!!」
強く、ひぐらしは私を抱きしめる。動けないくらいに。
「おれ・・おれ、ずっとお前が好きだったんだ!!」
そして、ひぐらしは私の肩に手をおいた。
「なぁ。戻ってこいリン。魔女を、倒そう。」
どうして、そんな事言うの。
「リン、あいつはおれたちの敵だ。おれたちの生気を奪ったのも、お前から全部奪ったのも!」
「ち、違うのひぐらし・・聞いてっ・・」
「あいつは敵だ!心を許せば、自分が奪われる!・・・・おれみたいに・・。」
最後にそうつぶやくひぐらし。どうして。
「魔女は確かに私たちから奪った。でも、魔女の過去を知ってる?どれだけひどいめにあったか」
「あぁ知ってる。だから、もう返さない。」
―!?
「魔女をたおして、リンを海に取りもどす。」
「ひぐら・・・」
「みんな同じ意見だ。リン。」
いやだよ、ひぐらし。
「海にかえってこい、リン。陸は、お前の場所じゃないんだ。」