第十三話 滅びた街で
風は強く、私達3人を包んでいた。
「すっげぇ・・」
南は目をまん丸くして洞窟に入って行く。泄もそれに続いて、ゆっくりと洞窟に入る。
(全然・・変わってないな・・。)
洞窟の中はしっとりと湿っていて、所々に大きな水たまりがある。
「ここ来たことあるのか?」
突然、泄が私に聞いてきた。でも、私は嘘をついた。
「ここ、懐かしい気がして。」
苦笑。解ってしまうだろうか、私の気持ちが。泄に隠し事をするのが、私は苦手だった。
知らないほうがいい。何も関わらないほうがいい。
だって、私といると’’誰かが傷つく’’のだから。
「あれ・・・?さっきの子・・・。」
コツン・・と、足音を立たせながらあの人がやってきた。
「誰、あいつ。」
南は敵意丸出しで男の人を睨む。
「さっき、男の人に絡まれてるの助けてもらった。」
私は、二人に向かって言った。南はまだ納得してないようだったけれど、泄はそこまで警戒していなかった。
「なーんだ。君もここ知ってたのか。」
「・・いえ。初めて来ました。」
苦笑い。通じるだろうか。私の気持ちが。
「・・・そう。じゃぁ、俺は帰るよ。・・・また会おうね。」
「え―?」
またって・・どうして。
「冗談だよ。」
くすくす笑って、男の人は去って行こうとした。でもそれを、信じられないけど私が引き止めた。
「あのっ・・」
泄も南も驚いたように私を見る。私も、自分自身が信じられなかった。
「名前・・は。」
「俺?俺は、大城航介。」
大城、航介・・。
「君は?」
「篠崎リン・・・。」
不思議なぐらい。どうして私は名前を聞いたんだろう?しかも、どうして自分の名前も言ってしまったんだろう。だって、この人はひぐらしを心の中に住まわせてるんだよ?それは、海の魔女の仲間ってことかもしれないんだよ?
「また、ね。」
手を振って、彼は去って行った。
どうしてだろう・・・。
どうしてあの人の面影は、あんなにもひぐらしに似ているのだろう。
「・・ひぐらしっ・・」
強く拳を握り、海を見つめる。
今も波は、静かに揺れている。まるで、私を惑わせるように。
’’リン。’’
今も思い出す。あの懐かしい日々。壊されたあの日。懐かしい人の、私を呼ぶ声。
「リン!」
泄の声がした。その声のおかげで、私は我にかえった。
「あ、ごめん・・。ぼーっとしてた。」
「お前、最近無理してないか?」
「え・・?」
顔をしかめて泄を見る。でも、泄は私をただじっと見ている。
「どうして・・そんな事言うの?」
私は顔を反らして、海を見つめながら言った。
「私は、全然平気だよ。」
そう言いながら、私は海に静かに足をつけた。ひんやりしている海。
それはまるで、あの時のようだった。
「泄っ・・ごめん、私ちょっと用事思い出したから海に帰るっ・・南にも伝えておいて!」
そう言って、私は海に飛び込んだ。
なんだこの悪寒。なんでこんなに不安な気持ちになるのっ・・!?
海深く潜る。太陽の光が届かない深海まで泳ぐと、私達の街が見えてきた。
「・・気のせい、だったのかな・・」
そこは、今も変わらない街。崩れた城、全壊している人魚達の家。
見ているだけで、心が痛んでくる光景だった。
街に背を向け、私が海面に向かって泳ぎだした頃だった。
「おいっ・・お前、この街の人魚かっ!?」
信じられないけど、声がした。
「・・だれ?」
振り向かないまま、私は尋ねた。声の正体は、上ずった声で私に問いかける。
「魔女の襲来の、生き残りなのか・・・?」
魔女がつけた入墨を押さえて。私は振り向いた。
「・・・!?」