表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/23

第十話 陸は、汚れた世界?

「ひぐらしがっ・・私達を裏切っていた・・?」

―敵

「そうよ、ひぐらしは街の入り口から城のどこにクイーンがいるかも教えてくれたわ。」

あの日、魔女からの襲撃を受けている間、私は何も知らずに陸から海を眺めていた。

でも。あまりにも静かすぎる海を見て、少し時間には早いが海に戻った。

そこで見たものは。

破壊された街、崩れた母様と私の城、そして倒れている街の人達、私の大切な人も同じように。

「―・・・!」

一瞬で頭の中が真っ白になって、私の中に眠る人魚の力がうまくコントロールできなくなっていった。

そして、私が自我を保とうとしているとき、奴は囁いた。

’’母様はもういないの。私が、食べちゃったから。’’

その瞬間から、私の記憶はとんだ。

気がつけば、私の体中には入墨がドス黒く光っていて、私は腕を押さえて魔女を睨みつけていた。

’’また100年後・・ね。’’

魔女はそう言い残して、海の何処かに消えていった。


「・・あの日、私は確かに人魚の生気を奪ったわ。でも、それだけじゃ足りないのよ・・」

とても、嫌な感じがする。

「あと一人、人間の生気が手に入れば私はアトランティスを消すことができる・・。そうすれば、私に敵はいなくなるわ。だから、ね?いつもあなたと一緒にいる、あの綺麗な男の子を、ちょうだい。」

―予感はばっちり的中、だ。

「ここにはいない。絶対に来ない。」

それが泄であることは、一瞬で理解した。

「あら、ごめんなさい?あなたはあの子のこと大好きだったのよね?」

「違う!」

それは有り得ない。泄は、いい友達だけど恋人じゃない。私は人を愛さない。愛せない。

私が愛した人間は、以前塵となって消えていった。だからもう、恋はしないっ!

「最後の注告よ・・・。今すぐ、消えなさい。」

そう言っても、魔女が撤退する分けない。それは、分かっていたのかもしれない。

でも、言う。私はもう、失うのはご免だ。

「クス・・・心配ないわ、全部上手くいく。それに、私がやり遂げなくても魔神がやり遂げてくれるもの・・ふふふ。愚かね、実に愚かね。私を殺したって、封印したって、すぐに魔神がこの世を破壊してくれるわ・・。」

「ごちゃごちゃ言ってないで・・・」

この時だった。

「―リン」

気のせいだと願いたい。でも確かに、あいつの声が聞こえた気がしたんだ。

「・・え・・い」

後ろを振り返る。魔女が笑うのが分かる。

泄はこっちに向かって走っている。

「―・・!!来るなぁあっ!!!」

私は泄に向かって思いっきり怒鳴った。

その瞬間、さっきまで引いていた潮が、今度は大波になってまっすぐ泄に向かってくる。

魔女がまっすぐに泄を指差している。

「くそっ・・!!」

手を上げて、私も波をつくる。

「っつ・・・!!」

「リン。」

「馬鹿野郎!!なんで来た!あいつの狙いはお前だ!早く逃げろっ。」

それでも泄は動かない。おかしいくらいに動かない。

「泄!ちょっとお前話し聞いてるの!?」

それでも泄は、私の話しなんか聞かずにうつろな目で海を見ている。

「まさかっ・・・魔女!!?」

魔女を睨みつける。「言ったじゃない。全部上手くいくって・・。」と言って不気味な笑みを浮かべている。

やっぱり、魔女に操られてきたんだっ・・!!

「泄っ。おい泄!しっかりしろ馬鹿!お前は、それでいいのか!!」

私も必死で叫ぶ、今手を休めることはできない。休めたら、大津波が泄や南やこの街を襲う。


どうしたらいいんだよっ・・!!


「心配ないわ・・全部上手くいく・・ふふふ・・さぁおいで泄。私が、優しく生気を吸ってやろう・・」

魔女は不気味な笑いを浮かべ、泄を手招きする。

泄はふらふらとした足取りで魔女のほうへゆっくりと進んでいく。

「まっ・・泄!!」

津波の勢いは収まるどころか増している。このまま私が波を放っておけば、確実にこの街にいる人は死ぬ。

どうして私が、こんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!

「泄ってば!」

止まること無く、泄はゆっくりと一歩ずつ魔女のほうへ進んでいってしまう。

「魔女っ!!泄を解放してよ!!私の生気を奪えばいいじゃない!!」

ピクッと、泄が動きを止める。その様子を、魔女が楽しそうに見ている。

「私はこの子が欲しいの。ごめんねぇ。あなたの生気は、あと100年間かけてじっくりと奪ってあげるから。」

そして、目の前まで来た泄のシャツのボタンを開け始める。首筋から生気を吸うつもりなんだ。

「やめてっ!!!」

私の絶叫に近い悲鳴が上がる。魔女はまるで子守唄を聴いているみたいな顔をしながら、そっと泄の首筋に触れる。私は堪えきれずに、叫んだ。

「私の泄に、触らないでよ!!!!!」

その瞬間、信じられないけど泄の手が動いた。

「やめろ。」

そう聞こえた。

「そんな・・まさか・・」

魔女も信じられないようだった。

「俺はアトランティスの意志を継ぐもの。お前の幻術には、かかったふりをしていたまでだ。」

にやっと、泄は笑った。そして、泄の額に何かの紋章が浮かび上がり、それが強く光った。

「ぁの・・・・・光・・」

温かく、私を包むその光。私は見たことがある。

「海の神、アトランティスだ・・・。来てくれたんだ・・」

魔女の津波も私の起こした波も消えていき、いつものおだやかな海に戻っていった。

「ちっ・・!」

魔女は舌打ちをして、またどこかへ消えていった。

助けてくれた・・海の神様、アトランティスが・・。

「泄・・・?」

「り・・ん・・」

そう言って、泄は私の肩にもたれかかるように倒れ込んだ。

私はそれをしっかり受け止め、平らな岩にそっと寝かせた。

「ありがとう・・。」

意識はあるようだ。うっすらと目を開けて、私を見ている。

「俺、さっきなんか言ってた・・?」

「覚えてないの?」

「あぁ。」

そうか、じゃぁあれはアトランティスが泄に乗り移っただけだったのか・・。

「何にもなかった。いきなり倒れてきてびっくりしたんだからな。」

「あ・・わりぃ。」

素直に謝る泄。今の泄には、どこか弱気な部分が感じられた。


「あっ、篠崎!大丈夫だったか!?」

そこへ、南が泥だらけの格好でやって来た。

「南、その格好・・」

「山から土砂崩れがあってさぁ。聞いて聞いてっ、俺ん家超やばかったから!」

そういう南は、まるで話しを聞いてもらわないとグレてしまう子供のようだった。

「冬真・・?」

泄がゆっくりと起き上がって南を見る。

「えっ・・泄!!!お前っ、俺がどれだけ心配したと思ってんだよ!おばさんなんか心配のしすぎでぶっ倒れるところだったんだぞ!?」

と、言いながら泄の襟を掴んで前後に揺する。

「わりわり!おふくろにはあとで自分で言うから」

「ったりめーだ!しっかも嵐の中二人っきりでこんな岩に囲まれた人気の無いところへ・・お、お前まさかここで手ぇだしたんじゃっ・・」

「ちっ!!ちっげぇよ馬鹿!!」

泄が顔を真っ赤にさせている。手を出すとは、一体どういう意味だ(無知)

「泄・・・」

「ちっ!!ちげぇってば!!!!!!」

全力で否定している泄。なんかよく分からないけど、どーすればいいんだ。

「でもさ、さっきの津波・・どうなってんだろうな。」

(やばっ・・!!)

「何かさ、この街に向かってくる津波と、街から海に向かって出てる波がぶつかり合ってたわけ。」

はい。そりゃもう目の前で見てたんで、充分解ってますけどっ!

「しかも海の中に女の人がいて、すぐそばに泄がいんだよ!しっかもシャツのボタン外されてやんの!」

―・・・・・!!!!!!!!ぁあらまぁ。

「はぁ?そんなわけねぇだろ?俺は、さっき・・・何してたんだっけ。気づいたら、ここで篠崎といて・・。なぁ篠崎、俺何やってた?」

そ、それはー・・。そのぉー・・。ねえ。

「ぅ、海で溺れてたよ。だから人が岩場まで運んでやったってのに、あんた覚えてないの?」

(頼むっ、誤魔化せてくれ!)

「へぇー・・俺が、溺れる・・。」

「う、うん。」

「本当か?俺、泳ぎには自信があるんだけど・・」

(いーやーぁ。なんで泳ぎ得意なのよぉー。)

「溺れてたったら、溺れてたの!じゃぁ、私はここら辺で帰ります!さよなら!」


辺りを見渡すと、最後に時計を見た時刻からすでに2時間は経っていた。

「11時か・・。今日は、海に帰りたくないな・・・。」

そんなことをつぶやきながら、私は確かに一歩ずつ海の中に入って行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ