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1.潜入

「もう、うんざりだ! 買出ししか出来ないお前なんかとパーティーを組み続けれるか!」


「そうよ、役立たずのアンタなんか出ていきなさい!」


「そ、そんな……!」


「テメェとは今日限りだ、二度とそのツラ見せんじゃねぇぞ」


「ねぇねぇ、お荷物がいなくなったお祝いにさ、パーっとやろうよ!」

 

 あっけなく仲間に見捨てられた少女は、ただただ呆然と地面に座りこんでいる。昼時で人通りこそ多いが、少女に声を掛ける者はいない。誰だって面倒事には関わり合いたくないのだ。


「大丈夫か?」


 そんな中、三人の美少女を連れた男が声を掛ける。


「なぁ君、俺のパーティーに入らないか?」


 皆が遠巻きに見る中でただ一人、手を差し伸べた男に少女はこう思った。


 

 ――え、マジで。もげろ。



 嫌悪である。











 ちょっと聞いてほしい。


 『各国で騒ぎを起こしている冒険者(バカ)を、帝国の利益になるよう裏工作しろ』。

 それって下手したら指名手配されてない?というか、利用次第では一国の利益になり得るような騒動って何?という数々のツッコミを呑み込んで、皇帝サマの無茶振りに応えるべく、私たち諜報員はせっせと冒険者(おバカさん)を探し出し、手っ取り早く情報を得るため潜入捜査することにしたんだけどさ、――これが物凄く難航した。 


 冒険者(おバカさん)御一行は、支援魔術師(男)、剣士(女)、攻撃魔術師(女)、回復魔術師(女)の全部で四人。前衛が足りてないので、格闘家である諜報員の男を潜入させることで全会一致。ハーレムパーティー、それも四人が納得済みの正式なお付き合いであることは調査済みで、男が増えても男女のトラブルが起きることは無い。荷物持ち要員は多いにこしたことないし。


 作戦をより確実にするため、リーダーである男が一年前にパーティーを追放されたときのシチュエーションを再現して同情を引くという完璧な作戦だった。……筈だったのだ。


 なんとリーダーである男は、一度も追放劇場を見ることなく、イチャイチャしながら通り過ぎたのだ。真横を。


 ……は? 


 思わず追放した(フリの)私たちと、追放された(フリして潜入する)男がハーレム一行を二度見しそうになったが堪えた。伊達に諜報員やってません。 


 まぁ、イチャイチャに夢中だったなら仕方ない。作戦を練り直せば良いだけのこと。 


 次は、仲間にしてほしいと直球で頼むことに。

 捻りも何も無いとか言わないでほしい。断じて考えるのが面倒だったわけでは無い。この時点では、まだ。

 下手なことをするより、愚直に訴えた方が人の心は動くものである。

 

 ただ、ハーレムパーティーに自ら入りたいという男がいれば、自分もウハウハしたいだけだと思われる可能性が高い。

 なので、ひたすら褒めることにした。


『支援魔術師として、的確なサポートで勝利に導くその手腕!まさに最強と名高いパーティーのリーダーに相応しい!』

『最強パーティーなのは強い仲間のお陰だと黙って影から仲間を支える謙虚さ、まさに男の中の男!』

『強い男に強い女が惚れるのは自然の理。三人の女性から一度に愛されているリーダーこそ世界一の男!』

 

 ……など、これでもかと持ち上げてご機嫌を取りつつ、あくまでリーダーに憧れていることを強調。

 後は、『そんな強いリーダーの下に弟子入りして俺も強くなりたいんです、故郷にいる妻と生まれてくる子供のためにも』とかなんとか言っておけば作戦完了。妻子がいる上に期間限定と分かればパーティーの参加を認める筈。



結果。



「あれだけ持ち上げて頼み込んだってのに頑なに拒否するとか、もう男じゃねぇ。もげろ。」

 

そう言い切った仲間の瞳に光は無かった。悟りきっていた。

 あんまりに可哀想だったので、一人一個ずつお酒のおつまみをプレゼントした。お酒は自腹だけど。いいじゃん、四個もおつまみ手に入ったんだし。全部同じだったけど。


 気を取り直して、三度目の練り直し。

 二度の痛い失敗から学び、私が潜入することになった。


 ……なんで?


 私の外見、八歳! 

 ハーレム男が女好きなのは正しいけど、八歳はどう考えても範囲外! いくら自分の嫌いなおつまみが四つもあったからって、八つ当たりとか見苦しい。彼女にフラれた理由がよく分かる。

 だいたい、八歳児が冒険者パーティーに入れる訳がない。出来る事がなさ過ぎる。なさ過ぎて、苦し紛れの買い出し係って何? 誰がそんな役立たずをパーティーに入れると?



 はい、居ました、此処に! もげろ!


 『もう何も怖いものは無い、俺が守ってやるから安心しろ』みたいな慈愛の笑みを向けてくるけど、ロリコンって危ないから。お前自身が一発アウトだから。本気で自分は真っ当で正義だと思ってる顔だよ、コレ。一番危ないヤツ!


 ロリコンの手なんて触りたくないので、突然の事に驚いて固まったフリをすると、はい、解決。ロリコン男を押し退けたハーレム要員の女の子たちに慰められ、好き勝手に解釈して設定を作ってくれた。考える手間も省いてくれて、ありがとう! チョロい、チョロすぎる。……今までの苦労って何?



 さて、問題です。

 年頃のハーレムパーティーに、八歳児(外見)が加入するとどうなるでしょう?



 答え。

 おままごとが始まりました。


 

 



「スゴイね、グリちゃん! あのぼったくりからこんなに安く買うなんて、さすがアタシの妹!」


 いや、普通の値引き額の範囲内。ぼったくられ累計額、幾らなんだろ、このパーティー。


「私たちの妹ですよ、キャル。

 グリの審美眼のお陰で、良質な薬や食料が手に入りますね」


 中堅冒険者とかベテランの主婦にも出来るから。店主を褒め殺しでも可。


「ベルちゃんとキャルちゃんばっかりずるいニャ、リカだってグリちゃんの手を握りたいニャー!

 あ、ここのお菓子屋さん、おいしいのに穴場だって宿の女の子が言ってたところニャン」


 宿の女の子がゲテモノ好きだって事は分かったから、無駄遣いせずに大人しく帰ろっか。豆のジャムって何? 正気?

 

「なら、グリの席は俺とリカの間だ。何でも頼んで良いからな、お兄ちゃんが腹いっぱい食べさせてやる」


 口を閉じて鼻をつまみ続けてろ、ロリコン!  

 私の頭に手を伸ばしてくるから、急いで後ろへ逃げる。両手は元気っ()とクールビューティー――キャルとベルに繋がれたままなので、引っ張られた二人が目の前に来て人間壁の出来上がり。ふぅ、間一髪。


「大丈夫だよ、グリちゃん。サポトさんは男の人だけど、全っ然怖くないからね! とっても優しいんだよ!」


「サポト様はとても素晴らしいお方です。出来損ないの私にすら手を差し伸べ、生きる意味を示してくれました。何も不安なことは無いのですよ、グリ」


「サポト君に全部任せれば大丈夫ニャ! リカみたいなバカでも見捨てずに幸せにしてくれたニャン、グリちゃんも信じれば救われるニャー!」


 なんで仲間(仮)から宗教勧誘されてるんだろ? 


「キャル、ベル、リカ、俺はそんな大した事してないさ、ただ困っている子を放っておけなかっただけで。むしろ、助けられているのは俺だよ、一人じゃ何も出来ないからな」


 困っている男(潜入に失敗した二人)は思いっきり見捨てたくせに、どの口で言ってるんだ、ゲス野郎。

 なんか一層と絆を深めたらしい四人が抱き合ってるけど、先に宿へ帰って良い? 駄目かー、潜入捜査って辛い。

 

 ハーレム要員の女子トリオが、私に『男にトラウマを植え付けられた所為で男が怖く、口数が少ない。でも買い出しなどの交渉は、仕事スイッチが入って男相手でもペラペラ喋れる』という設定を作り上げてくれたお陰で、黙っていても不審がられない。

 とっても有難いと思ってるから。一人放置されて寂しいとかないから。家族ごっこの再開は止めて!

 

 やたらと私を『妹』扱いしてくるけど、実質的には『子供』が正しい。結婚とか出産を意識するお年頃。自分たちの間に子供が産まれたらーって想像するのも無理はない。親子ごっこに巻き込まれた方は、たまったもんじゃないけど。

 

 というか、子供にしろ妹にしろ、保護対象を豆ジャムお菓子なんてゲテモノ店に連れ込むな。

 リカはハーレム要員の中では一番背が低いのに、獣人だけあって力があり、軽々と私を抱えたまま席に着く。当然のように隣にロリコン男が座り、キザに微笑んできた。


 気持ち悪っ! 下心が透けて見える、八歳児(外見)相手に! リカのミニスカートから伸びる太ももをチラチラと見るだけじゃ飽き足らず、触ろうとするな、子供(外見八歳児)の前で! ……いや、昨日から私(子供)がいるのに、隣の部屋といえどお熱い夜を過ごしてたから今更だけど。マジでもげろ。


 すかさず不埒な手を思いっきり叩き落とし、汚物を見る目でもげ男を睨みつけた。


「嫉妬したのか? 可愛いな。ちゃんとグリの事も大事にするから、心配するな」


 ヤバい、脳内お花畑の話が通じない奴だ! 凝りもせずに頭に手を伸ばしてくるな! リカに抱きしめられているから逃げ場が無い。払いのける事は出来るけど、変態の手に何度も触れたく無い!


「ふふ、サポト様とグリはすっかり仲良しですね」


「ねー。でもちょっとサポトさんが羨ましい」


「照れてるグリちゃんも可愛いニャ!」


 しっかりして、ハーレム要員! 微笑ましく見てないで、自分たちの男が取られそうになってるんだから、もっと必死に止めて! もげ男を取る気なんて全くないけど。


「ご注文はお決まりですか?」


 この状況を打開してくれて、ありがとう、店員さん!

 でも、このメニューは何? 豆ジャムをゼリーのように固めただけって、何その甘たっるそうな物。……と思ったら、これはまだマシだった。

 豆ジャムをスープ? 隠し味とかじゃなくて、ジャムをメインにお湯で溶かしたスープ? え、東の国では普通のお菓子? 東の国の食文化ってどうなってるの?


 極めつけは、フルーツを豆ジャムで覆い、更にお餅というもので包んだ物。そのお餅とやらは喉に詰まらないように気を付けなければならないって、本気で何を考えてるの、東の国。しかも、豆ジャムスープを含めて、多くのお菓子でお餅が使われてるって狂気の沙汰過ぎる。お菓子って命懸けで食べる物だっけ? そこまで食料に困ってる国だったとは。


 一番おかしいのは、この説明を受けてなお楽しそうに目を輝かせてる仲間たち(仮)だけど。

 もっとクッキーとか普通のないの? もう嫌だ、誰か助けて! こんな仕事、さっさと終わらせてやる!

 豆のジャム→あんこ


 豆ジャムをゼリーのように固めた物→羊かん


 豆ジャムのスープ→お汁粉


 豆ジャム&フルーツを餅で包んだ物→フルーツ大福

 

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