表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年前期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/421

輝きを失った瞳

 ある時、お茶がなくなりシュウが使用人を探し回っていると、玄関ホールで声がしてミカエラは、連れ込んだ男に「またね」と言って手を軽く添えて送り出しているところだった。

 その言葉には愛情の欠片も無く、名残惜しそうに何度も振り返っている男とは対照的に、シュウと似たような冷たい表情を浮かべていた。

 恐らく、次にまた会いたいと男が言ったところで、亡き皇帝の嫡子たちがいるからといいようにだしに使われ、二度と会うことは叶わないだろう。


 シュウは幼くして、そんな言葉ばかり並べているミカエラのことを昔から「薄っぺらな女」と影で呼び蔑んでいたのである。



「それで肝心の要件は何? 叔母上」

 ミカエラは急に話の腰を折られ、隣で深々と腰掛ける夫に向かい意味ありげに目配せした。

 夫は話しを振られ、まともに話すどころか、下を向きそのまま黙りこくってしまう。

 もお! と憤慨気味のミカエラは気を取り直して、今度は首を傾け、ねこなで声を出した。


「あのね。私の夫をあなたの傍においてやってほしいの。わかっているとは思うけど、この国では生活が成り立たなくて……。聞くところによると、あなたは事業で成功して大変なお金持ちらしいし、指輪も取り返して近々皇帝の座に就くという。亡くなったお姉様の遺言であなたたちをあそこまで育ててあげた恩を返すつもりだと思って。ねえ、いいでしょう、シュウ?」


「つまり仕事を与えろというわけか?」

「察しがいいわね。そういうこと」


 僅かでもこの女の血が自分にも通っているかと思うと、憤りしか感じない。

 甘ったるい耳障りな声を聴いているだけで、鳥肌が立ちそうなシュウはそれでもぐっと堪えてミカエラに尋ねた。


「それは本心? 俺たちが城に引き戻されてから牢獄に閉じ込められていたこと、すでに聞き及んでいるはずだ」

「………!!」


「恩を返すだと? ふざけるな! 叔母上は、俺たちのことずっと邪魔だったはずだ。小さな子どもがいれば、招き入れた男たちと逢瀬を重ねることも難しいからな。皇帝の座に就けないかもしれない俺を見限り、アイリックから俺たちを城に呼び戻したいと持ちかけられた時、あっさりと了承してそこにいる男の元へ嫁いだんだ。あの二人の身の安全は保障してくれるのか? と白々しく嘘をついて」


「…………っ。あの時の話を聞いていたの?」

 驚きを隠せない表情をしている夫には目もくれず、過去をほじくり返されたミカエラはダダっと走って、シュウの傍で話を聞いていたユイナのことを、ぎゅう、っと力の限り抱きしめた。


「可愛い私のユイナ、あなたならわかってくれるでしょ! 女が一人で生きていくのがどれだけ大変かって。シュウにもあなたから言ってちょうだい!」


 すると、ミカエラは抱きしめているユイナの異変に気付いた。

 よく見るとその瞳は以前のくりくりとした大きい瞳ではなく、ずっと遠くを見ているような輝きを失った瞳をしている。


「ひっ! あなた、目をどうかしたの?」


「……可哀想に見えていないんだ、叔母上。俺たちは、城の牢獄に閉じ込められてから、ここに辿り着くまでに、数多の苦難を乗り越えてきた。ユイナのもう見えない目はその証だ」


 掴んでいたユイナの袖をミカエラは震えながらゆっくりと放し、次はドレスの裾を両手でたくし上げて、玉座の間から小走りで出て行った。

 しばらくして、再びパタパタという音をさせて、一人の男の子と一緒に舞い戻ってくる。


 その子は見た目クーと同じ七、八歳位で、はち切れそうなウエストに黒髪と容姿だけはミカエラの夫と瓜二つだった。


「さっ、さあ、こちらにいる次期皇帝にご挨拶なさい!! 私のお姉様の御子。つまりあなたの従兄弟なのよ!」

 男の子は口の周りにお菓子をいっぱい付け、急いで連れてこられ息が切れかかっている。

 生活が苦しいという割にはお菓子を与えすぎているのか、歯はもはや全滅に近いほど虫歯が進行していた。


 この女の育児は菓子を与えることしか脳がないのか!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング

最後までお読みいただきありがとうございます。


精一杯頑張りますので、温かい目で応援して頂けるとすごく嬉しいです。

「小説家になろうアンテナ&ランキング」参加中!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ