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赤梟城

 金に執着しないスピガは、シュウたちが不在の五年間、販売していたおみくじの売上すべてを、暖炉の上に飾ってある絵の裏側に隠された金庫の中にしまい込んだ。

 その莫大な資金で最高級の馬車と、自分達のために最高級の服を誂え、ジェシーアンには護衛させるための装備も用意する。

 その後、シュウは起つべき時がきたと言って、最高のタイミングでカルオロンを目指すこととしたのだった。



 カルオロンでは皇帝ヒュウシャー亡き後、貴族たちによってなんとか政権維持されてきた。皇帝だけが持つという指輪は現在も行方不明で、政治は勿論のこと経済も完全に荒廃しきっていた。

 そんな国を取り仕切っていたのは、ヒュウシャーの遠縁である宰相アイリック。

 時代にそぐわない見た目ばかり気にし、国民からは能無しだと揶揄される人物だ。


 シュウたちはそんな失業者や物乞いが溢れかえっている城下を豪華な馬車で城へと向かうと、当然のように人々はお溢れに預かりたくて馬車に寄ってくるが、スピガは馬を操りながら、鞭を振るい退けていた。


「どうだ、ユイナ、十年ぶりの故郷は? お前はその目で何を感じている?」

 切れ長な彼の目は、そんな光景を冷たく見つめている。


「どうって、自暴自棄になっている人々の悲痛な叫びしか聴こえてこないわ。お父様の時代は今よりまだ良かったと思うけど……」

「……だろうな。あいつがのさばっている限り、この国に未来なんてものはない」

 ジェシーアンはユイナの隣に座り、窓から見えるカルオロンの街並みや行きかう人々を唯々もの珍しそうにキョロキョロしながらみていた。

 やがて、その見上げる先には彼女がこれまで見たことがない、真っ赤に燃えているような巨大な城が姿を見せたのだ。



 カルオロン城。

 国章である梟と、カルオロンを象徴する赤色の外壁から別名、赤梟城と呼ばれ、岩山の上に築城された難攻不落の城であった。


 シュウとユイナの父、ヒュウシャーは西の小国に過ぎなかったこの国を一代で急激に発展させた。

 頭脳明晰な彼が重きを置いたのは、色分けにより徹底的に管理された軍隊とそれを支える産業だったとされる。

 大陸に幾つもの鉱山を所有する貴族の令嬢と婚姻する事で、潤沢な資金を得て、圧倒的な軍事力で近隣諸国を次々手に入れていったのだ。


 また、飴と鞭をうまく使い分け、国民に経済の潤いを与える一方、恐怖で支配することによって、独裁政治体制を確立する。


 しかし、栄華を極めた時代もあっけなく終わりを迎えた。

 大陸一の剣士と呼ばれたダリルモアによって皇帝ヒュウシャーは暗殺され、独裁者のいなくなった国は衰退の一途を辿る。


 資金源だった鉱山業の経営が傾き、カルオロンは資金源を失い、経済が回らなくなっていく。ついには手に入れた国も次々に離脱し、残された巨大な城だけが、かつての栄華を虚しく物語っているのだ。


 そんなカルオロン城の玉座の間で、宰相アイリックは昔と変わらず、口髭を触りながら、こめかみをひくつかせてシュウを見ていた。



 シュウの右手親指には皇位継承に必要な、あのダリルモアに奪われた指輪がはめられ、父ヒュウシャーが纏っていたような、豪華な出立ちで城に現れたのだ。


 貴族や兵士は無論のこと、一番驚いたのはアイリックだった。

 十年前、亡き者にしようと企てたにもかかわらず、すんでのところで逃してしまい、今こうして奪われた指輪を取り返して、ヒュウシャーと同じ金色の玉座に堂々と座っている。


「久しぶりだな、シュウ。ずっと行方不明だったから心配していたぞ。どこで生活していたんだ。それにしてもあの馬車にその服装。随分と羽振りがいいんだな?」


 よくもそんな白々しいことが言えるものか。

 怒りに身を震わせながら、ユイナは隣に座っているシュウの只ならぬ殺気に危機感抱いていた。


 いくら兄様でも、こんな人目のある場所でいきなり公開処刑なんて品位のないことはしないはず。

 恐怖で政治を行っていた、自分たちの父親と同じ轍を踏むとは思えない。



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