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種子

「何、何、どうしたの? 悪寒?」

 テルウはカイの複雑な表情に、好奇心旺盛な様子で顔を近づけてくる。

 勘が鋭い彼のすうっと伸びた高い鼻をカイは急いで指で摘まむと、胸の内を悟られないようアラミスに尋ねた。


「ところで、国を発展させるという何か策はあるの?」

「いいえ。……残念ながら何もありません。殿下を前にして申し訳ないのですが。ここは敗戦国ですし……」

「この国は、もともと農業国だったのでしょう? 歩きながら見てきたけど、不毛の土地というわけでもないみたいだし、何より川から近く、水源もある。俺たちはずっと薬屋を営んでいた養父たちの元で、幼い時から薬草を育てていたんだ。

 それもただの薬草じゃない。一般には殆んど出回らない高価な薬草ばかりだった」


 ヒロは澄んだ青い瞳を大きく見開き、そう言えば……と思い出したような驚きの表情をしており、テルウはカイに摘まれた鼻から息が漏れてふがふがと何かを言っている。


「でもカイ、山脈から持ってきた高価な薬草は五年前、バミルゴですべて売っちゃったよ」

 心配そうに言うと、彼はにたりと笑って薬屋の衣の腰に巻きついている茶色のベルトを外し、数多くの小さなポケットを一つひとつ丁寧に開けて、中からいくつかの小さな包み紙を取り出した。


 カイ以外の三人が興味深く観察していると、その包み紙から小さな無数の黒い粒状のものが見えた


「これは何ですか?」

「薬草の種子だよ。山脈から下山するとき、持ちきれない分はこうして種子を保管していたのさ。でも五年前のものだから、きちんと発芽するかどうかわからないけれど。

 この希少価値の高い珍重されている薬草を栽培し、国をあげて商売にしたらどうかな? しかしそれだけじゃあただの薬屋と変わらない。

 ペンダリオンは薬屋と称して目に見えない《情報》を金に換えていた。俺たちに出来ることと言えば、何だと思うヒロ?」


 彼はずっとうーん、うーんと唸って腕組をして考えていた。

 きっと答えは導き出せないだろうなと思っていたが、今日に限って珍しく解答が返ってくる。


「わかった、治療だ!」

「当たり。前にベガが木から落ちて怪我をしただろ。あの時はお前が彼女に治療を施した。だから治療院を備えたらどうかな? いつかは大きな薬局と治療施設を作るんだ。国外からも大勢の人が足を運ぶような!」


「……君は本当に抜かりがないな」

 アラミスは非常に感心したらしく、うんうんと頷いてカイの話を聞いている。

 まさに、この呪われた城に彼ら三人は新しい風を運んできてくれたかのようであった。


「王太子殿下。本来ならあなたのことを陛下と御呼びすべきなのでしょうが、私はまだまだあなたに君主として学んで欲しい事が沢山あります。そしてこの国の上に立つものと認めるまでは、殿下と呼ばせて頂きます。


 では殿下、まずは何から始めますか?」


 ヒロに視線が集中し、彼は抱いている王冠を手で剥ぎ取るように外した。

「これは今の俺には必要ないな。まだ誇れるものが何もない俺には。

 王冠の権力を振り翳したいとも思わないし。

 そうだな……、まずは……」


「まずは?」


「掃除からだな。今のままじゃあテルウ、この城ではビビって眠れないだろう?」


 カイはけらけらと笑って、テルウの肩に手を回した。そしてヒロも笑いながらもう片方の肩に手をかけて、三人は笑い転げながら湖から城の方へと歩いていく。

 そんな三人の背中を頼もしく見つめたまま、アラミスは遠い目をして今は亡きミッカの事を思い出していた。


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