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憶測

 二人は下を向いて必死に笑いを堪えていた。

 一応、自覚はしているんだ……。


 ヒロはダリルモアの最初の息子なので、この三人の中では昔から長男という扱いになっている。

 しかし最後の最後で詰めが甘くて、何かとやらかしてしまうことも多く、同年のカイの方がよっぽど長男みたいだし、テルウの方が実際頼りになる助っ人だった。

 そんなヒロがやらかしてしまった尻拭いを長年してきた二人は、彼自身が以外にも、その事を自覚していたことが、面白可笑しくなってしまったのである。

 そしておっとりして温厚で優しく、穢れを知らない無垢な瞳で自分たちを癒してくれる。そんなヒロがかけがえのない存在であることも。


「ふふ、ハハハハハハ!!」

 突然、アラミスがそんな彼らを見て、お腹を抱えていきなり笑い出した。


「つまり、殿下はお二人がいてようやく一人前と言う訳ですね。

 そんな君主聞いた事ないが、まあいいでしょう。

 勿論、あなた方を引き裂こう何て毛頭ない。こちらも人手不足ですし。

 それに側から見ていると良く分かる。

 あなた方は、殿下を中心に宰相と補佐としての役割分担が明確になされている。

 そういった信頼関係は今日明日で培われるものではなく、長い年月かけて築き上げていくものだが、もうほぼ完成されている。

 あなた方の養父は意図してそのように育ててきたのか、それとも単なる偶然なのか?」


 そのアラミスの言葉はカイの中にスッと入ってきた。


(また、カイは同じ本を読んでいるんだね。本が好きかい? ごめんよ。あまり買い揃えてあげられなくて……)

(いいんだ、父さん。俺は彼らみたいに武芸者ではないでしょ。

 だから深く学問を究め、将来は立身して君主を支えるような人材になりたいと思っているんだ)


(ハハハ、ひょっとするといつか、その願いは現実のものになるかもしれないよ……)


 そう言い、頭を撫でてくれ、軽く微笑んだダリルモアのことを思い出した瞬間、今まで疑問に思っていた事が払拭されたのだ。

 大陸一の剣士と呼ばれたダリルモアは、山奥で王太子であるヒロを育てながら、表舞台に立つ日に備えて、孤児である自分達に臣下としての教育を施していたのではないか?

 西の皇帝を暗殺し、恐らく追われていたであろう彼は干渉を受けない山脈の森の奥深くに潜伏して、その日が来るまでじっと機会をうかがっていた。

 もしかすると指輪を渡し全てを打ち明けた時がその日だったのかもしれない。

 ところが、嵐の日の翌日に金髪の子どもが現れ、打ち明けるどころか家族はバラバラになってしまった。


 しかし、その憶測が正しければ、完成形とさせるためにはどう考えても一人足りない。


 子どもたちの中で圧倒的に強く、あの大陸一の剣士ダリルモアが絶賛するほどの剣豪だった彼女。

 将来、軍の要人としてジェシーアンを育成していたとしても十分その理屈が成り立つ。

 それこそ、父が描いていた俺たちの未来の姿だったのだろうか?


 同時にカイは、彼女にやられっぱなしの屈辱的な体験を思い出す。


(ほら、どうしたのカイ? もう音を上げたのかしら?)


 狼のことをテルウが苦手なように、三歳年下のジェシーアンのことがカイは昔から苦手だった。

 当時はまだ幼かったということもあり、彼女は手加減を知らず、そのせいで剣術を取り入れた《遊び》で一回も勝った試しがなく、カイはいつも遠くまで吹っ飛ばされ続けた。

 そのため怪我がちであり、絶えずセラに薬草で治療してもらっていた痛々しい過去を思い出し、背筋を何か冷たいものが一気に走り抜けた。


 ぶるっ!


「……急に悪寒が」


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