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本音と建前

「……ハハ、ハハハ。なあ、俺は今どんな顔をしている? こんな時になぜ笑っているんだ?」


 もう息継ぎが上手く出来ず、話しているのもやっとだった。

 心と顔の筋肉のバランスが完全に崩れ、どうしたものか顔が引き攣りヘラヘラと笑ってしまう。

 そんなヒロを見たカイが思わず声をかけた。

「右も左もわからない赤子だったんだ。罪はないよ。そうでしょう、アラミス?」


 彼は相変わらず瞬き一つせず、ジッと怖いくらいの真顔でヒロを見つめていた。

「ええ、仰る通りです。部屋にはミルフォスの兵も大勢いた。遅かれ早かれ彼らに討たれていたことでしょう」



 そんな慰めなんて、気休めにもならない!


(……みんなお前のせいなんだ! お前の本当の母親は悪魔の子を産んだんだ!)


 あの時、鏡の中で、子どもだった自分に罵られた言葉は嘘じゃなかった。

 本当の母親はその命が燃え尽きる瞬間、赤い眼を光らせた赤子の自分を抱いたまま、何を思って逝ったのか。

 そんなことを考えただけで、心と精神がバラバラになって今にも崩壊しそうで、真っ暗な闇に堕ちかけた時、シキのハスキーな声が耳元で囁くように聞こえてきた。



(私はその自分の弱さと向き合わなければ真に強くはなれない。私とあなたが持っている力は途轍もなく強力だけど、そんな力に頼らずとも強くあるべきだと思ったの)



 あゝ、そうだね。鏡の中で君が言った通りだ。


 ここで乗り越えなければ、俺は真に強くなれない。


 そして、これからも君と再会を果たす為に戦っていくんだ……。



 目を閉じて、彼女の姿を思い浮かべる。鏡の中で口づけを交わし、しっかりと抱き合った時のことを。



 何とかその場にヒロは踏み留まった。


 ふらつく身体を支えるために足に力をいれて一生懸命に踏ん張り、意識を集中してアラミスに向かって話始める。


「………ありがとう。話してくれて。あなた自身も話すの、とても辛かったと思う。

 それでも俺はこの国を建て直したい。

 あなたの話を聞いて、心の底から笑い転げていたような人達が、そこら中にいる豊かで笑顔溢れる国に」


 アラミスは相変わらずヒロに視線を注いでいたが、最初とは違った印象を持ち始めていた。

 第一印象はぬぼっとした、無垢な青年という印象であったが、こんな衝撃的な内容にもかかわらずうろたえることなく、しっかりと受け止めている。

 しかも、狼たちの執拗な追跡と攻撃をかわし、あの森の女王ササに接見し王冠を授けられた。

 これまでどんな人生を歩んで来たのか知らないが、これはひょっとしてひょっとすると当たりなのではないか?

 そう思っていた矢先、カイが言いにくそうに口を開いた。


「でも、国を建て直す何て実際のところ可能なんだろうか? だってミルフォスという国に撃ち破られしまったんでしょう? それならこの領土はその国のものじゃないの? 勝手に建て直すなんてこと許されるの?」


「ええ、建前上は、その通りです」


「建前上? じゃあ本音があるってこと?」

「十七年前、この国を壊滅させ、彼らは劇的な勝利を収めた。最初は我が物顔で闊歩していましたが、途中から統治し切れなくなりました。それからは、ほとんど野放し状態となっております」


「何で?」

「国王が長らく病を患っているからです。まだ後継の王子も幼いらしい。

 結局、上の娘を有力な豪族の元へ嫁がせて、その豪族に防衛して貰うことで、何とか自国の政権を維持しているような状態です。

 ですから長らく行方不明となっていた王太子が突然発見されたとしても、この国までは手が回らないと思われます。

 しかしながら、それには我々がこの国をミルフォス以上に発展させて国家運営をすることが前提ですけれど。


 そしてもう一つ気になるのは、あなた方についてなのですが……」


 そう言って、アラミスはカイとテルウに冷たい視線を向ける。

 ヒロは思わずハッと顔色を変え、大声で叫び出した。


「だっ、駄目、駄目、駄目だよ!

 カイとテルウは物心つく前からずっと一緒に兄弟として育ってきたんだ。

 俺はカイみたいに頭も良くないし、テルウみたいに見た目が美しい訳でもない。

 俺の足りない未熟な部分を彼らが補ってくれているんだ。

 一人では何もできないけど、三人揃えばどんなことだって出来る。だからぜーっったいに駄目! 離れたくないし、ずっと一緒じゃないと意味がない! ……ふーぅ、ふーぅ、ふーぅ」


 息苦しかったのに、物凄い勢いで興奮してしゃべってしまい、最後には酸欠になったようになってしまった。

 そんなヒロを見た、カイとテルウは二人して小刻みに肩を震わせている……。

 しまいに、テルウはうつむいて手で目頭を押さえてから、うっと声を漏らした。


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