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疑問

 その後、アラミスはササに対面するために出発の手筈を整えるという。

 それまでは彼の家にそのまましばらく滞在することになり、小さな部屋で、三人は寝具に身を寄せて横になっていた。


「………何とも言えない雰囲気で、掴みどころのない御仁だな。まあしかし、もっともな言い分だ。ヒロが本物の王太子かどうか指輪だけでは判断できないから大狼に審判を仰ぐとは考えたものだ」


「おっ、俺は嫌だ。行きたくない! もしも別人だって判明したら、そのまま狼の腹の中に直行してしまうんだ。ねえ違うよね。ヒロは本物だよね? カイだって本当は行きたくないでしょ?」

 テルウは先程まであんなに勢いよく食べていたのにもかかわらずすっかり怯えてしまっていた。ずっとシーツに包まり、行きたくない、行きたくないと呟いている。


「俺は恐怖心よりも好奇心の方が勝るかな? 考えてもみろ、父さんの話ではその姿を一目見れば、誉れを手にできるとされる白き神だぞ。それよりもずっと気になっているのはその父さんのことだ」


 ヒロは二人の掛け合いを横で仰向けになり、天井を見つめ黙って聞いていた。

 自分が本物かどうかで、この二人の運命も決まってしまう。

 その後ろめたさが、言葉少なにさせるのだが、カイの投げかけた言葉に思わず反応して横を向いた。


「父さん?」

「そう父さん。何故あの指輪を持っていたかだ。そして嵐の前日にお前に渡した。多分この事を伝える為だったのだろう。ペンダリオンは昔、両親は本当に薬屋か? と尋ねてきたけど、ずっと俺も疑問だった。そもそもあんな山奥で暮らしていたことに説明がつかない」

「それは薬草を栽培するためでしょう?」

「ペンダリオンの薬草園はあんな山奥じゃなかったぞ。本当に薬屋ならもっと頻繁に行商に行っていてもいいはずだ。どちらかと言えば人目を避けて暮らしていたと言ってもいいような。それにヒロはともかく、孤児だった俺たち兄弟を一緒に育てていたのも不可解だ」

 カイは月明かりが差し込む部屋の中でじっと天井の一点を見あげている。


「人目を避けて……。父さんの宿敵だったという、森の女王、大狼のササに接触できれば、ひょっとすると何かわかるかもしれないな」

 ヒロは向きを変えカイと同じように天井を見つめ、行方不明以後五年間会えていない養父ダリルモアのことを想い起こした。



 数日後、アラミスは彼らのために三頭の馬を調達してきた。

 そしてササがいる森の大まかな場所を教え、手をヒラヒラと振って三人が山脈に向かうのを見送った。


 アラミスはずっとそのグレーの瞳で彼らが見えなくなるまで手を振り続けた後、ポケットから掌に乗るほど、ちっちゃい銀の足環を取り出す。


 かつて王太子が生存していることを伝えるため、狼が口に銜えてきた足環。

 身寄りのない子どもたちを城で引き取り、聖母のように彼らに接してきたミッカ。

 万が一取り違えられたり、行方不明になったりしても王太子であると判別できるよう、愛する我が子を思う気持ちから、生まれてすぐの赤子にミッカが付けたものだった。


 アラミスはその足環をぎゅっと片手で握りしめ、かつての豊かだった面影を一切残さず廃墟と化している呪われた城へと足を向けた。

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