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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年前期

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白黒

 テルウはまだ食べ続けていたが、満腹になりつつあるヒロは男が淹れてくれた木の器でお茶を飲みながら、質問を投げかける男の方に顔を向けた。


「少し前に知り合った女性だった。卓越した力を持つ術師から俺を庇って亡くなってしまったが、彼女は自分がパシャレモという国の妃の侍女をしていて、ずっと賞金稼ぎをしながら行方不明の王太子を探していると言っていた。本名を尋ねられ、他にその名を証明するものはないかと聞くから、養父より貰ったこの指輪を見せたんだ」


 そう言ってヒロは首に下げられているミッカの遺品だという指輪を男に見せた。

 ベガはすぐに内側を丹念に調べていたが、男は一瞬ちらりと見ただけでまた肉を口に運び、それほど興味は示さなかった。

 ひとしきり猪肉を削ぎ落とし、次は解体をするように大腿骨をバキバキと外し始める。その度に肉汁が炭火に落ちジュウという食欲をそそる音で、ヒロはついつい肉に手を伸ばしてしまう。


 そして、男は大きな骨を持ち上げながら思いもよらない言葉を口にした。


「それはそれは、お待ち申し上げておりました、王太子殿下。…………とでも、この私が言うと思いますか? その指輪だってどこで手に入れたのかもわからないのに? 確かに私はあなた方が探しているアラミスに間違いありませんが、名は名乗らない様にしています。何故だかわかりますか?」


 ベガと違い、驚きもしなければ、迎え入れるわけでもなく、自分がアラミスであると断言した男はナイフを下に向け、そのグレー色の瞳を大きくカッと見開く。


「あなた方のように、無職で暮らしが困窮し、自分が王太子だと主張する輩が後を断たないからです。だからいつの頃からか、私は名を名乗らないようになった。それに今さら、国の王太子を名乗っても誰も信用しないでしょう。私だって本物の王太子かどうか指輪を見ただけでは判断がつかない。しかし赤子だった王太子と会った方がいるのです。もはや彼女しか白黒つけられないでしょうな」


「彼女とは?」

「山脈にいる森の女王ササです」

「まっ、真っ白な大狼ササのことか!」


 ヒロはダリルモアから幾度となくその名を聞いた。

 その姿を一目見れば、誉れを手にできるとされる誇り高き森の女王。

 また、ダリルモアの宿敵で、圧倒的なカリスマ性と知性を兼ね備え、デルタトロス山脈のすべてを司ることから白き神と囁かれることもあるという。


「そうです。彼女は赤子だった王太子と面識があります。何故ならば、王太子が行方不明になって幾月が過ぎた頃、一匹の黒狼が私のところにやってきました。その黒狼は口に王太子が生まれてからずっと足に嵌めていた銀の足環を銜えていたのです」


「それなら単純に、彼らに取り殺されたとは思わなかったのか?」

 肉を手掴みで食べることにいささか困惑していたが、それでも空腹に耐え切れず、親指と人差し指で摘まみ、なるべく手を汚さないように器用に肉を口に運びながらカイはアラミスに訊いた。


「ええ。全く思いませんでしたね。この国の国章は狼です。それは山脈の大狼のことを意味します。それを彼らも知っていて、敢えて王太子が生きていることを知らせるササからの言伝をしに来たのだと暗黙のうちに理解しました」


「だけど、十七年も経って本人って判別できるのかなあ? もし別人だって審判されたらどうなるの?」

 満腹中枢がまだまだ満たされないテルウは口いっぱいに肉を頬張りながら、気になってアラミスに尋ねてみた。


「すぐに、喰い殺されるでしょうな。あなた方の口の中にある肉と同じように。彼らの鋭い牙が肉を切り裂き、むしゃむしゃ、ぴちゃぴちゃと音を立てて。やがて喰い散らかされた後には、私が持つこのような骨だけが残されるという悲惨な結果になりますね」


 テルウは血の気が引いたように青白い顔をして、アラミスの方を向いたまま、焦って両手で口を覆った。

 今、口の中にある肉が自分の体の一部だと想像した途端に、食欲が一気に失せて口が止まってしまう。

「でっ、でも審判されるのはヒロだから。よっ、よかったあ、俺は部外者で。ヒロ、大変だけど頑張って! 絶対に認めてもらえるよ」


 そこへすかさずアラミスが、「何を言っているのだ! 君たちも一緒に行くに決まっているだろう。彼が正統な王太子であると主張するなら臣従したまえ」と一喝したのだ。


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