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破壊の神

「それは嫁になってほしいという事だろ。今まで男しかいない情報屋をしていたから気にならなかったけど俺たちはもう十七歳だ。そろそろ婚姻を意識する人だっている。でも迎えに行くなんて、この大陸ではごく限られた人の話だ。ほとんど婚姻というのは家と家とを結びつける手段なのだから。それに何処ぞの国の王太子だというなら尚更だ。好きな相手となんか結ばれないことの方が多い」

 カイはきっぱりと言って、すたすた歩き出した。


「俺たちは違う! 《おみくじ》は当たらなかったぞ。だってこっ、恋人同士になったのだもの」

 今まで見たことがない位、林檎のように真っ赤になっているヒロを見たテルウは興味津々で妙にくっついてきた。


「何、何!? ついにそうなの? そこ詳しく聞かせて!」

 カイは全く興味無さそうだったが、テルウは話すまで納得しなさそうなので、カイの後を歩きながらぼそぼそと恥ずかしそうに彼に話した。


「……く、口づけをした。彼女と」


 テルウはピクッと反応し強い好奇心を示して、どんな風な感じだったとか、どんな気持ちだったかと経緯を事細かく聞いてくる。

 少し大人の階段を昇ったという一種の優越感に浸り、ヒロは嗅いだことのない匂いに包まれたとか、抱きしめた時の感触とか、一緒に眠ったとか、あれこれぺらぺらと喋りまくっていた。


 正確に言うとその後、気持ちが抑え切れず彼女を崖から突き落としてしまったのだが……。

 そこには敢えて触れずに。


「でも結局、また離れ離れになったのだから《おみくじ》は案外当たったんじゃない?」

「うるさい! うるさい! 黙れ! 黙れ!」

 耳を塞いで、現実逃避的にテルウの話を聞かないようにヒロはしきりに首を振っていた。


「俺はお前たちの恋話に興味はないが、むしろ興味があるのは、アルギナは結局のところ男か女か? どうなんだ、テルウ?」

「はあ?」

「抱きしめられた時、どっちだった?」

「しっ、知るか!」


 カイはそちらの方が気になるようで、テルウの首に腕を廻して思い出すようにしきりに催促をした。

 そうして三人は術師たちが持ち去ったタバンガイ茸の情報と、辞職の意思を伝えるべくベンダリオンがいる山脈の麓にある情報屋の屋敷へと急いだ。




「君たちのおかげで無事、タバンガイ茸を手に入れる事ができたよ。お手柄だったね」


 ヒロ達を前にし、今回の任務について、ペンダリオンと部下のロイは、労をねぎらう言葉をかけたが、彼らはいつになく神妙な面持ちでペンダリオンを真っ直ぐに見ていた。

 相変わらず机の上には食べきれない量の食事が並べられているが、一切口を付けなかった。


「………協力してくれた、賞金稼ぎの女性には気の毒な事をした。あの屋敷の貴族も遺体で発見されたよ。結果的に自分が雇っていた術師たちに寝首を掻かれてしまった。それほどまでに卓越した能力を持つ術師たちは危険な存在なんだ。もはや人の感情など持ち合わせていない化け物だ。それでも滅びない肉体を求めて術師になりたいと願う者が後を絶たない」


 術師たちの恐ろしさを、あらためてヒロは実感した。

 結局、屋敷の主は殺され、子どもたちは無事救出できたが、それと引き換えにベガを失ってしまった。

 慈悲深い母のような愛情で包み込み、自分の進むべき道を指し示してくれた、生涯忘れることの出来ない女性。



「それにしても、ヒロが亡国パシャレモの王太子だったとは驚いたよ」

 ヒロは黙ってペンダリオンの方を見ていたが、カイはすかさず訊いた。

「知っているのか?」

「いや。この事業を創めた時はもう滅びていた国だったからね。でも農業の盛んな豊かな国だったと聞いたことがある。おおよその場所は見当がつくから目的地までの地図を持たせよう」


 ようやくヒロは口を開き、いつになく冷たい視線をペンダリオンに向けるが彼は気にも留めていないようだった。

「……フォスタで助けてもらってから、これまで五年間、兄弟で世話になったことに改めて礼を言う」

「良いんだ、そんなことは。実際、君たちの働きには私もロイも感謝しているよ」


「もう会うことはないと思うが、二人ともお元気で」

 彼ら三人によほど思い入れが強いのか、初めて会った時以上に哀しい顔をして下を向いているロイを見て、ペンダリオンは彼の肩をポンポンと叩いて励ました。


 そして、部屋の扉から出ていくヒロに向かいペンダリオンは


「………比類なき、破壊の神の祝福を」


 と今までに見たこともない奇妙な笑みを浮かべていた。


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