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美しい幻

「……カイ」

「なっ、なんだよ! 今、目が離せないんだ!」

「……もう限界、吐く」

「おい!? こんなところで?」


 胃もたれを起こしていたテルウは黄色の液体をみた瞬間、気持ち悪いのがぶり返し、その場でおえっと吐いてしまったのである。

 カイは大事な時に、なんでいつもこんな役まわりなのだと思いつつ、テルウの背中を擦っていた。

 すると、そんなカイはヒロと目が合う。

 いつもの純真無垢な青い瞳ではなく、真っ赤な炎で焼き尽くされているかのような血走った眼をして、ヒロはカイの方に一歩ずつゆっくりと向かってくる。


「ヒロ?」


 彼はカイの問いに対し、何の反応も示さなかった。

 それは物心つくか、つかない頃から一緒に過ごしていたにもかかわらず一度も見たことない姿。

 彼が術師の口の中に何かを無理矢理押し込んでいる、残虐な行為だって。

 あの穢れを知らない彼からは到底想像できないものだった。

 そして近づくにつれ二人に向かってゆっくりと剣を構える。


 何故? ヒロ俺たちがわからないのか!?


「テルウ、しっかりしろ! 立つんだ! ヒロは正気じゃない、あの赤い眼は変だ」


 ところがテルウは吐いた後もえずきながら自分のことに精一杯で、身の危険を感じている余裕もなかった。カイが何とか引きずって担ぎ上げようとしても、今度はゲホゲホ咳き込む始末だ。


 ヒロは二人の目の前に立ちはだかって、高く剣を構え、そして、血走った眼で一気に剣を振り下ろしてきた。




 ああああ、もう駄目だ、間に合わない。

 最期はずっと兄弟として一緒に育ったヒロにやられてしまうんだ。


 絶えず一緒に生活してきて、ずっと側にいたにもかかわらず、あのような一面を持ち合わせていることに気が付かず、そしてまた彼が抱える闇にも気付いてあげられなかった。

 カイにはただただそれがとても悲しかった。




 誰かが横から猛烈な勢いで滑り込んできて、ほぼ同時に振り下ろされた刃と刃同士がキーンという音とともに激しくぶつかり合う。


 カイがあれ? やられていない? と恐る恐る思わずギュッと閉じてしまった目を開けると、そこには二人を庇う真っ白な外套に身を包んだ人物が現われた。

 ヒロの剣を向こうに押しやり、それでもなお向かってくる彼と何度も剣を交えて激しく戦い続けている。

 お互い一歩も譲らず、戦い続けるうちに外套のフードが徐々に捲れあがると、そこには銀色の髪をした少女の姿があった。


「………銀色の髪?」


 カイは美しい幻でも見ているのではないかと思った。

 五年前にバミルゴで一か月間を共に過ごした彼女が目の前にいる。

 しかもヒロはいつか迎えに行きたいと恋心を打ち明けたにもかかわらず、あの真っ赤な変な眼をして彼女を殺しにかかっているのだ。


「二人とも下がって!」

 シキはそう叫んで、ちろっとカイを方に目をやり、再びその翠色の眼差しをヒロの方へと向けた。


「あっ、あの子バミルゴの! なんでこんなところに?」

 すべてを吐き切りスッキリしたのか、ようやくテルウは状況が次第に飲み込めてきたようで、「……あの子……凄いな。ヒロと互角? いやそれ以上か?」と驚いた様子で二人を見ていた。


「五年前、兵法の本を探していた時に、彼女がバランスを崩して倒れそうになったことがあっただろう? 俺は咄嗟に腕を掴んだけど、あの時に鍛えられた腕だったからすぐ分かったよ。ヒロも気づいていたのに。一番会いたかった相手じゃないのか? なんで、彼女に刃を向けているんだ。あれじゃあ、あれじゃあ……」

 カイは急に言葉に詰まって何もいえなくなってしまった。


「………あれじゃあ?」

「愛想を尽かされても仕方がないな……」

「確かにそうだね」


 カイはこの絶望的な状況を何とかヒロに知ってもらうため、彼らのもとに向かおうと立ち上がった。このままではどちらかがやられてしまう。そんな哀しい結末見たくない。何としてでもその前に止めないと!


 しかしそんな時に、

「近づいては駄目だ! 身体が粉々になるぞ」

 誰かがカイの肩を掴み、あちらに行っては駄目だとばかりに庇うような仕草をした。



「……あなたは」

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