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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年後期(三王国時代 後編)

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呪いからの解放

 リヴァに抱きかかえられたシキは、幾度も意識が遠のきかけた。しかし、どうにかして耐え抜き、アーロンやタリードと共にフォスタの国境近くまで辿り着いた。


 鬱蒼と茂る森の奥深くに、ひとりの女性が倒れている。

 光沢を放つ茶色の髪は地面に広がり、身に纏う黄金色のドレスは、まるで太陽の色のようである。

 高貴な雰囲気を纏う彼女の姿を目にしたアーロンとタリードは、慌ててその傍らへ駆け寄った。


 虫の息となった女性を介抱すると、アーロンはもう手の施しようがないと無言で大きく首を横に振った。無情な沈黙が場を包む。だが、女性は最後の力を振り絞り、震える手をシキに向かってそっと差し伸べた。


「……バミルゴのシキ様ですね。お父様から聞いていた通り、なんと崇高なお姿。この身が朽ち果てる前に、貴方にお目にかかれたこと、心より感謝いたします……」

 掠れる声で紡がれた言葉には、既に運命を悟った者の悲壮感が滲み出ていた。


「城は既に、大国の手中に落ちました。その少ない手勢では内部への侵入は至難の業となりましょう。必要であれば、王族にのみ伝わる秘密の抜け道を、お教えいたします。それこそ、お父様の命を奪わなかったあなたへの、私なりの感謝の印として……」


 女性が教えてくれたのは、自らの命を賭して脱出した際に用いたというフォスタの城の別棟へと通じる秘密の通路であった。

 伝え終えると、女性は静かに息を吐き、そのまま二度と動くことはなかった。


 その静寂はとても深く、そして重い。

 何も為すことができなかった無念さと、やがて自らも辿るかもしれない運命とが重なり合い、シキには深い絶望が広がる。


 その胸の内を敏感に察したリヴァは、次第に力を失いかける彼女の身体を、迷うことなくしっかりと抱き寄せた。

 そして、足早に秘密の通路へと向かったのだった。


 王族専用の狩猟小屋の地下道。そこを進めば、別棟の地下牢へと辿り着くという。

 リヴァとアーロンは、シキの体調を案じながらも、足音を潜め、慎重にその暗く湿った地下道を進み始めた。


 やがて、戦況の偵察に向かっていたタリードが戻ってきた。


「カルオロン軍、フォスタ軍を問わず、兵の半数以上が脱出し国境を抜けたらしい」


「……脱出、だと?」


 アーロンは眉を顰めた。戦場の最中に兵士の半数以上が戦線を離脱するという異常事態に困惑を隠せない。この非常時における大規模な脱走は、明らかに異常である。


「どうやら彼らの多くは心を奪われ、洗脳されていたらしい。パシャレモの王太子がその洗脳を解き、兵士たちを脱出させたそうだ。今、城内に残るのはまだ洗脳が解けぬ者たちだけだ」

 タリードの低く沈んだ声が、リヴァの心に重く響く。


 あの恐ろしい呪縛から、半数以上の者が解放された事実は、輝きを放つ一条の光である。


 そして、その光をもたらしたのは、木の実の殻を剥くことだけが取り柄の、純粋無垢な瞳を持つ青年だった。彼がついに、洗脳を打ち破る方法を見出したのである。


「……ヒロ」

 シキはぽつりと呟き、遠く地下道の奥に目を向ける。


「大丈夫です、もうすぐきっと彼に会えますよ」

 リヴァはその言葉に力を込め、シキの心から希望が消え去らぬようそっと支えた。


「俺たち二人がお前を援護するから、頑張るんだ」

 アーロンは力強くそう告げると、迷いなく行動に移った。

 タリードもまた無言で頷き、戦火の気配が漂う城へと、足早に進み始めたのだった。




 一方、シュウは相変わらず玉座に深く腰掛け、次々と届けられる報告に耳を傾けていた。

 しかし、突如としてその場を立ち上がり、窓辺へと歩み寄ると、静かに外界に視線を注いだ。


 どこからともなく白く光り輝く力のようなものを感じる。

 だが、その意識はまとまらず、全く集中することができなかった。

 かつて自らの腕の中に収めたそのまばゆい光は、今やその輝きも、かつての面影さえ留めぬほどに微弱なものとなっていたのである。



 そんな中、白鷹の姿となって上空を旋回していたタイガは、ついに窓から顔を出した赤の皇帝の姿を捉えた。

 しかし次の瞬間、猛烈な勢いでいくつもの火の玉がタイガの元へ向かって飛来する。視線の先には、赤の皇帝が掌に炎を生み出し、次々とタイガに向けて放っていたのだ。

 タイガはその火の玉の狭間を縫うように飛び抜け、皇帝の死角なった建物の背後へと素早く回り込むや否や、鋭く急降下していった。


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