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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年後期(三王国時代 後編)

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叶わぬ恋

 脳裏にシュウやユイナと過ごした記憶が次々と浮かび上がってきた。苦難に満ちた日々も少なくなかったが、いつも傍らにはシュウがいた。


 人に心を開かず、どこか不器用で、誰よりも愛情に飢えている子どもみたいな人。

 皇帝と将軍として、まるで一対の翼のごとく、次々と領土を広げていった。


 ―――そして、叶わぬ恋と知りながらも、ジェシーアンは彼を想わずにはいられなかった。冷徹な外面の裏に隠された彼の孤独と、時折見せる深い優しさに気づいた瞬間から、ジェシーアンの心は彼に囚われていたのだ。


 ジェシーアンは、ユイナの顔にそっと手を伸ばした。



「シュウ………、いや違う。あなたはユイナね。彼の妹の………」


 記憶の断片が一つに結びついた瞬間だった。

 シュウに口づけされた時の情景が蘇り、ジェシーアンの頬には静かに涙が伝う。


 苦しげに嗚咽をこらえながら、ジェシーアンはユイナに告げた。


「ユイナ………。幻島ダズリンドの主クーは、修業を終えたシュウの中に怪物を誕生させたの。その怪物はシュウの中でどんどん大きくなって、今にも彼を飲み込もうとしている。彼はバミルゴの女王陛下シキ様と精神的に繋がっていて、心の拠り所にしていたの。もうほんの僅かしか残っていない彼自身は、彼女を現実に手に入れることで怪物を打ち破れると信じている。もうシュウは限界なの……」


 ジェシーアンの言葉に、ユイナは初めてシュウの真の心の内を知った。ずっと感じていた彼の違和感、その正体がこれだったのかと悟ったのである。


 シュウの胸には、常に隠された哀しみと孤独が宿っていた。彼が抱え込んでいた重荷は、他者に決して見せまいと努めていたものだった。

 そして彼が唯一心の拠り所としたのが、あの真っ白の彼女であったのだ。





 それから暫くたったある日のこと、

「ねえ、ねえ。テルウ様。今晩、部屋にお邪魔してもいい?」と、テルウお気に入りの侍女が、食堂で食事している彼に水を汲んで渡しながら、すかさずその首に手を回した。


「駄目、駄目! ついに長年思い続けた本命の女が現れたんだ。だから、もう俺は浮気しない」と、テルウは毅然と答えた。


「なーーんだ、つまらない。あんな凶暴な女のどこがいいのかしら」と、侍女は不満げに席を立つと、足早にどこかへ去っていった。


 実際、テルウはあれ以来、ジェシーアンの部屋に入り浸っている。そのため、彼を取り巻く侍女たちは、失神させられたこともありジェシーアンに対する恨みを抱いていた。テルウの関心を引くことすらできず、内心面白くないのである。


 しかし、テルウはそんなことを一切気にも留めない。急いで食事を済ませると、まるで風のようにミッカが愛していた庭へ向かった。彩り豊かな花を摘み取り、意気揚々とジェシーアンの部屋へと歩いていく。



 こんなにも充実した日々が自分に訪れるなんて、テルウは思いもしなかった。かつてのように、ジェシーアンの喜ぶ顔が見たいという一心で、彼は軽やかな足取りで部屋に入った。


 だが、彼の目に飛び込んできたのは、窓辺に立ち、外を見つめているジェシーアンの重苦しい表情だった。


 過去の記憶はすべて戻ったはずなのに、何をそんなに気に病んでいるのだろうか。

 テルウは、彼女の表情を見るたびに心が締め付けられるような痛みに襲われた。


 もしもあの時、畑で会っていたら、彼女を不安にさせたり、悲しませたりすることなどなかったはずである。


 そんな思いが溢れ出すと、テルウは気持ちを抑えきれなくなり、後ろからそっとジェシーアンを抱きしめた。


「ちょっ! ちょっと、テルウ、何するのよ! どさくさに紛れて抱きつかないで!」

 ジェシーアンは振り向きざまに強烈なストレートパンチを繰り出そうとする。


 しかし、テルウはその手を力強く受け止め、彼女の怒りに満ちた眼差しに、幼い頃のジェシーアンの姿を重ね合わせた。何も確かめずに怒る彼女の姿が昔と何ら変わっておらず、無性に愛おしく感じられる。


「離れ離れになる前日、畑で待ち合わせしていたの、覚えているか?」

 テルウは優しく問いかけた。

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