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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
荒地の子どもたち編

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334/421

分身

 導火線に火がついたかのような勢いで怒りまくっているメンデューサを見て、母親や服飾品商人の男は目が点になっている。

 召使いに至っては驚きすぎて、宝石の入った大きな鞄をボトっと落としてしまう始末。


「ちょ、ちょっとメンデューサちゃん。婚約者の前で何を言っているのかしら? オホホ。あまりの幸運が舞い込んできて、この子ったらおかしくなっちゃったのかしら?」


 何とかその場を取り繕おうと母親は必死である。

 御機嫌を取るため、慌てて男に酒を注いだ。


 その行動を見て、さらなる激情に駆られたメンデューサは婚約指輪を鷲掴みにし、男目掛けていきなり投げつけたのだ。



「なんであたしがこんな土竜と結婚しなくちゃならねぇんだよ。しかも、一番小さな指輪って、お前らの目は節穴か。どんな査定してんだ!!」


 婚姻指輪は破壊力のある直球で男の額にスコーン! とぶち当たった。


「うわあああ! ご、ご主人様、大丈夫ですか!!?」

 仰け反るようにそのまま床に倒れた男を助け起こす為、召使いが慌てて駆け寄る。


 男は倒れたまま頬が紅潮している。

 だがすぐにがばっと跳ね起き、小走り気味に駆け寄るとメンデューサの手を両手で握りしめた。


「いやあ、これは実に素晴らしい!! 私が長い間探し求めていたのは、君みたいな竹を割ったような性格の女性。目が悪くて先ほどはよく見えなかったが、近くで見れば見るほど美しい宝石のようだ。嫁ぐ際は一番高価なピンクダイヤのティアラを頭に飾ろうではないか。では明後日私のところに嫁いでくるのを楽しみにおりますぞ」


 よほど気に入ったらしく、男はメンデューサの手の甲にねっとりとした唇で口付けをした。

 背筋にぞわりと冷たいものが走っている間に、母親は大喜びで婚約指輪を受け取っている。


 貯めていた金も毒親に奪われ、逃亡しようにも逃げられない。

 しかも悪態をついたことがかえって逆効果となり、相手に好感を持たれてしまった。

 そして明後日、哀れな娘は金持ち土竜の妻にされるのである。


 御伽噺じゃあるめーし!!!


 次の日、引き払う準備に追われている母の目を盗んで家を抜け出すことができたのは、彼女が寝静まった夜半過ぎだった。

 くすんだ色の外套を羽織り、愛しい隣人の元へと真っ暗な夜道をひた走る。


(綺麗だな。何もしなくとも、あなたは今のままで十分美しい……)


 無理やり結婚させられることを話したら、ペンダリオンは引き止めてくれるかもしれない。


 そんな淡い期待を抱いているメンデューサが森の中で見たのは、愛しい隣人ペンダリオンがロウェナを背後から抱きしめている姿だった。

 心臓がはちきれるくらい痛くなると、じっとしていられず、話している内容を聞き取ることができる距離まで移動し暗がりに身を潜めた。



「リヴァとの果たし合いは結果的に私が勝利した。先生がお戻りになったら、正式にお前を妻に迎えたいと承諾を得るつもりだ」


「な、なんですって!? 果たし合い??」


 驚きのあまり振り返ったロウェナとペンダリオンは月明かりに照らされた。

 側から見れば、二人の姿は合わせ鏡のようにも見えるが、今ここで秘密を知っているのは明るく照らす月のみである。


 そしてペンダリオンはその秘密を知らずに、分身となるものの動きを封じると、嫌がる彼女に無理やり口づけをしたのだ。


「じゃあな、おやすみロウェナ。もし逃げ出したら、あいつがどうなっても知らないぞ。フフッ」


 ペンダリオンは充実感に浸りながら屋敷の方に戻っていった。

 反対にロウェナは脚の力が抜けてその場にへたっと座り込んでしまう。


 決闘などせずとも、錯乱状態に陥らせばいとも簡単に彼を葬り去るだろう。

 どうしたらあの隙のない、完璧な男からリヴァを守れることができるのか。


 八方塞がりの状態に陥っているロウェナのことを、メンデューサは暗闇に身を隠して見つめていた。

 噛みしめた指先からはいつの間にか血が滲み出し、唇が鮮やかな赤色に染まっている。


 これでついに、金持ち土竜へのお嫁入りが現実となりそうだ。

 気持ちがむしゃくしゃしているメンデューサの頭に浮かんだのは、彼らを引っ掻き回してやりたいという気持ちと、二人の気持ちを独り占めしているロウェナに対する女の嫉妬だった。


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