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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
荒地の子どもたち編

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新たな弟子

 複雑な想いが交錯するなか、ダリルモアのもとに新たな弟子が一人加わった。

 ロウェナは献身的に看病に励み、名もない少年に古いセプタ語で希望を意味する《リヴァ》という名をつけた。

 リヴァが加わったことで、ダリルモアにも心境の変化が生まれる。


 弟子たちと一緒に食卓を囲むようになったのだ。

 側から見ればそれは一家団欒のようである。

 その日にあった出来事を弟子と共に語り合い、リヴァの心に温かい思い出を残すように努めたのだった。


 そして、当時の彼の状態についてダリルモアはこのように日記に記している。



 ――――リヴァはロウェナが歌う唄を聴くと安心するようである。それは彼女の歌う波長が脳や自律神経などに大きく作用するからなのか、唄の旋律が効果的なのか、現時点では分からない。


 また、彼は膨大な書物に触れる機会があったのか、読み書きは勿論のこと、文学に対する造詣が深い。時折話す内容を聞く限りにおいて、家柄、年齢に関係なく誰でも受験できる高等文官を目指していたと推察される。


 ただ残念なことに、名前や年齢、生い立ちなどは完全に欠落しており、自身の記憶に障害をきたしている。


 さらに興味深いのが、剣術における心得についてである。

 数多くの騎士を見てきたが、彼のように寸分の狂いもない正確無比な刀捌きは見たことがない。

 それはまるで機械仕掛けのようであり、カルオロンは彼みたいな兵士を大量に作り上げたと言っても過言ではないだろう。

 まずは精神的安定を図ることが急務である。――――



「でも、あたしには嬉しいことばかりだわ。こうしてあんたとも一緒にいられるし、ロウェナの仕事を引き継いでお金は儲かるし」


 メンデューサは池のほとりでペンダリオンと密会する機会が格段に増え、うれしい悲鳴をあげる一方で、ペンダリオンには何一つ楽しい事がない。


 毎日のように香水のきつい女は近くに寄ってくるし、ロウェナはリヴァに付きっきりのため、雑務は全てこなさなければならない。

 しかもロウェナはメンデューサ仕込みの女性らしい身のこなしや言葉遣いを身に付け、日に日に優雅で清楚な美しさに磨きがかかっていく。

 そんなロウェナとリヴァの距離が縮まっていくのを傍で見ていると、お気に入りのおもちゃが奪われたみたいにイライラが抑えられなくなるのである。



 さらに月日は流れ…………。


「ねえ、いい加減好きって言ってよ!!!」


「断る!!」


 池のほとりの密会場所でメンデューサとペンダリオンは、このようなやりとりをかれこれ二年も続けている。

 メンデューサが無理やりキスしても、押し倒してもペンダリオンはその気になってくれない。

 年齢的にも、このままでは婚期を逃すかもと、焦る気持ちを抑え切れないメンデューサなのだった。


 しかしこの後、穏やかな日々が一変し、最悪の方向に運命の歯車は大きく動きだすのである。




 ある日のこと、村長に急遽呼び出されたダリルモアは神妙な面持ちで話を聞いていた。

 リヴァの精神もようやく落ち着きを取り戻し、平穏な日常を過ごしていたなかでの突然の依頼。

 加えて、その相手である。

 荒れ果てた地に足を運ぶことさえ異例中の異例。こともあろうに一般的な倫理観が通用しない相手だった。



「御前試合ですか?」


 ロウェナは意外そうな表情を見せていた。どうしてこんな場所で? というのが誰もが思う率直な感想だ。


「さよう。この荒地に立ち寄る豪族の長が退屈凌ぎに自分の騎士団と我々とで技量を競いたいのだそうだ」


「それは願ってもない申し出ではないですか? 我らの実力を広く世に知らしめることにも繋がる。もっと好条件で雇ってくれる人物も現れるかもしれない」


 何となく浮かない顔をしているダリルモアと対照的にロウェナは意欲的である。


「……ロウェナを御前試合に出場させるつもりはない」

 ダリルモアは弟子たちを前にして、椅子に腰掛けたまま苦渋の表情で言った。

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