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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
荒地の子どもたち編

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健気な依頼

「それは、なあに?」

 メンデューサは強い興味を示す。


「これは帳簿だよ。この村の財産目録や、経費精算書。収支報告書もある。これで村の財政状況を把握できるんだ。村長から賃金を上乗せするからやってくれないかとせがまれてね」


 それは毒親と二人きりの狭い世界に住むメンデューサにとって未知の世界だった。

 虫が踊っているようにしか見えない紙の上に、村全体の情報が詰まっていると言うのだから。

 同時に毒親の躾が如何に無意味でくだらないかをまざまざと見せつけられたような気がした。


「凄いわ! あなたはもうそれでお給金を頂いているのね!!」


「まあ、そうなるね。でもペンダリオンの方がもっと詳しいよ。彼は以前、領主の金庫番も務めていたぐらいだから。それだけじゃない。剣術だって、武術だって、本当は誰よりも秀でているのに出来ないフリをする。おかげですぐ自分にお鉢がまわってくる。それがとても腹立たしい」


 ロウェナは日頃の鬱憤をメンデューサにぶち撒けた。

 その様子を見ながら、メンデューサは弟子同士の関係を推測していた。

 愚痴っている位だから、今のところペンダリオンに特別な想いを抱いているようには見えない。


「でも羨ましいわ。あなた達は大陸中を旅して、あたしが知らないことも沢山知っている。あたしはいつの日か西の大国、カルオロンのような大都会に出てみたいの。でもお金もないから無理ね………」


 首を垂れて、がっかりしているメンデューサを見て、ロウェナはふとある名案を思いついた。


「ねえ!! 良かったらこの仕事を手伝わないか? 勿論、分け前も与えよう。その金を元手にして都会に出ればいい。それと引き換えにと言ってはなんだが、実は君にお願いがあるんだ」


 ロウェナは先程よりもさらに顔が真っ赤になっている。擦れている自分と違い、そのあどけない表情があまりにも可愛らしく、メンデューサは心の中で、くっそー、可愛い顔しやがってと苦虫を噛みつぶしていた。


「師やペンダリオンには内緒で、君の所作や、女性らしい話し方を教えてくれないか? 私は幼い頃から男社会の中で育ったから、このままじゃ男勝りな性格になってしまい、嫁の貰い手がなくなりそうで」


 かあーーーー!!!

 何と健気な依頼だろう。


 悩殺されそうになっているメンデューサの前に、いつの間にか先日の少年が立っていた。

 少年は、何でお前がいるんだよ?? と言わんばかりの様子だ。

 横には彼らが師と仰ぐ人物も一緒だった。


「これは、これは。綺麗なお嬢さんだ。このようなむさ苦しいところへようこそ」


 師は優しい物腰で、丁寧な挨拶をした。

 ロウェナは慌てて書類を片し、戻って来た師のために剣を受け取ったり、コートを脱がせたりとせっせと動き回る。


 それとは対照的にペンダリオンという少年は縦の物を横にもしない。

 客人をもてなすようにと師からの御達しがあったため、面倒くさそうに新しいお茶を淹れ直した。


 メンデューサの目から見て、この三人はなんとも奇妙な印象であった。

 師とペンダリオンは一見すると親子のようにも見えるが、不可解なことに、彼らは師のことを「先生」と呼んでいる。

 そして師は軽く書類に目を通した後、すぐ自室に戻って行ってしまった。


 聞けば、剣士の修行には厳格な規律と秩序が求められるという。

 師は絶対的であり、同じテーブルを囲んで食事することは愚か、許可を得てから発言するというのだから息が詰まりそうだ。


 こうした特殊な環境で育ったせいか、ロウェナは始終楽しそうで、孤児だった自分たちが互いに良きライバルであることや、ここまでの旅の思い出話を延々と話していた。


 それからメンデューサは空き時間を使ってロウェナの手伝いをしている。

 こうして経営者に必要な技能を磨いていく一方で、ロウェナは女らしさを身に付けた。


 女同士の絆が深まるなか、悪魔の足音が穏やかだった荒地の村にゆっくりと忍び寄っていたのである。


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