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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
荒地の子どもたち編

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明るく照らす星

 小高い山をさらに進むと小さな村が見えてきた。

 小さな村と言っても人も多く、通りは賑わいを見せている。


 とりあえず、市場が立ち並ぶ通りで子に与える乳を探していたところ、ぽんぽんと背後から誰かに肩を叩かれた。


「もしかしたら、あんた、亡くなった夫の同僚だった人じゃない? その後、別邸で公女様には会えたかい?」


 肩を叩いてきたのは背が低く太り気味の女性で、驚くべきことに予言者の女の事を教えてくれた元使用人だったのだ。

 女性はすぐ、ダリルモアの胸に抱かれ泣いている双子に目が留まると、ついて来いと言わんばかりに、袖口を引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。


 やがて連れてこられたのは村の外れの荒ら屋で、女性以外にも多くの家族が小さな家にひしめき合って暮らしていた。


 その一室で女性は双子に乳を飲ませ始めた。

 特に娘の方は予言者の女にとてもよく似ているため、暗黙のうちに母親が誰かはわかるのだろう。目元や口元が彼女に似ているだの独り言を言いながら、もう一人の息子をあやしている。


「かたじけない………。産んですぐに母親が亡くなってしまい、途方に暮れていた」


 ダリルモアが申し訳なさそうに深々と頭を下げると、「公女様が? 御気の毒なこと。出産は命懸けだから。いいよ、別に。私も飲んでくれる赤子がいなくなってしまい、胸が張ってたんだ」とどこか切ない感じのする目をして言った。


「赤子? あいつとの間に子がいたのか?」


 ダリルモアがあいつと呼ぶのは共に主君に仕えていた同僚で、彼女の夫のことである。

 主君や親友たちと同じように、ダリルモアの身代わりとなって狼に噛み殺されてしまったうちの一人だった。


「うん、最近ね。生まれて一ヶ月だった。うちの人に似ている男の子だったよ。息子と二人で生きてゆこうとしていた矢先のことだったの。あのお屋敷を離れてからはずっと実家暮らしさ………」


 大陸において、乳幼児の死亡率は依然として高く、抵抗力が弱い子どもたちは、小さな風邪をこじらせただけでも簡単に命を落としてしまうのである。


「ところでこの子たちの名は?」


 女性にそう言われてダリルモアは口を噤んでしまった。

 いろいろなことが怒涛のように押し寄せ、名前を考える余裕すらなかったのだ。


 子の名は様々な願いを込めてつけるものである。

 幸せな人生となるようにと親が名をつけることもあるだろう。

 しかしダリルモアは父親であるにもかかわらず、この双子に一線を引いている。


 心のどこかで、甘んじて受け入れている冷めた自分がいるのは事実だった。



「亡くなった御子息の名は何という?」


「ペンダリオン。星の名前みたいでしょ。夜空を明るく照らす星みたいになってほしくて名付けたのよ。本当に星になっちゃったけどね………」


 娘に乳をやりながら、バスケットの中でご機嫌に過ごしている男児の頬をそっと撫でながら女性が言った。


「どうだろう。その名を私の息子に譲ってはくれまいか? もし其方が良ければ、その、何というか、双子の乳母になってくれないだろうか。この子らはあの別邸の相続権を持っている。もちろん、御家族も一緒に別邸で彼らを育てて欲しい。私は雇われ騎士として働き、日銭を稼いで其方たちに毎月送り届けよう」


 諦めにも似た失望感から、思いも寄らない言葉がダリルモアの口を衝いて出てきたのだ。


「この家よりも大きい、公女様の別邸で!?」


「ああ、引き受けてくれるね? それと公女の本当の名前も教えて欲しい。娘に名付けたいんだ」


 これはちょっと意外に感じた。

 子どもまでできた間柄なのに、相手の名前も知らないというのだから。


 しかし、女性にとっては願ってもない申し出だった。

 雨漏りが発生する荒ら屋よりも、小さな池のほとりの別邸は部屋数も多い。それに乳を与え面倒を見るだけで、日銭を受け取り、家族を養うこともできるのである。


 そして何よりも先ず、もう一度子を育てられるという純粋な喜びであった。しかも相手は仕えていた貴族の血筋を引き継ぐ双子だ。

 再興の暁には、恩賞が与えられるかもしれない。



「………ロウェナ様。公女様の名前はロウェナ様です。ご安心ください、騎士様。亡くなられた公女様に代わり、私が立派に御子様方をお育て申し上げます」


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