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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年後期(三王国時代 中編)

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深い楔

 ラミは完成した薬の安全性と有効性を確認するため、まずは自分で服用を試みた。

 二日経った時、熱が引き、副作用も見られないことから、次はヒロに治験薬を投与する。

 目が虚で、言葉すら発することの出来ない彼の口元に匙で治験薬を運ぶ。

 それからも付きっきりで看病し、さらに数日が経過した時のことである。



 解熱し、血液検査でも有用性を示すことに成功したのだ。

 丁寧にヒロを診察し、これで何とか山は越えたと思ったのだが、ふと目の前が黒い煙に包まれている。


 急にハッとして、ラミは自分の腕をまくり上げると、既に花のような赤い斑点が腕中に広がっていた。



「失敗? そんな馬鹿な……。しかも私だけ!?」


 動揺と焦りがラミを包み込み、すうすうと寝息をたてて寝ているヒロの横に倒れ込んでしまった。

 その時点で既に、ラミは持てる力をすべて出し切っていたのだ。


 岩山で一晩過ごした時と同じように彼の髪を梳き、頬を撫でる。

 溢れる涙が頬を伝い、嘘のように顔色の良くなったヒロの上にポタポタと落ちた。


「…………ここまできて、私には治験薬が効かないなんて。やはり大陸の薬草は、大陸以外で生まれた者には効かないのか?」


 そしてヒロの顔を触ると、永遠に続くような長い口付けを交わした。



「これぐらい、許されるわよね。だって私はあなたの命の恩人だもの。癪に障るから、最後に少しだけ意地悪しちゃおっと。すんなりと二人が結ばれることのないように。ふふ、ごめんなさいね、ヒロ、あなたたちの間に深い楔を打ち込んであげるわ……」


 ラミは机に向かうと、自由の利かなくなってきた手で手紙を書きはじめた。

 書き終えたところで立ち上がり、ヒロが寝ている部屋の扉を名残惜しそうに閉めると、シーツを片手に持ち、重い足取りで地下室へと向かったのだった。






 目を覚ました時、今どこにいるのか全くわからなかった。

 よく見ると、手入れのよく行き届いた自室で寝ているようだ。


 次第に自分の置かれている状況が何となく理解できてきた。

 求婚に向かったのに、それどころではなく、眠ったまま目を覚まさないシキを見たこと。


 すべての元凶である、金髪の子どもだった男に会ったこと。


 そして誰かが優しく頬を撫でてくれたこと。



 ヒロは強い倦怠感が続き、頭がぼーっとしている。

 するとテルウが水を持って部屋に入ってきた。


「ヒロ……、目が覚めたの?」

 テルウはどことなく元気がない。


「俺はどれぐらい寝ていたんだ? シキはどこにいる? 俺は彼女に求婚しにいったんだ」

 ヒロは起き上がることができず、ベッドに横になったままテルウに質問を投げかけた。


「カイを連れてくる。ヒロも気持ちの整理がつかないだろうし」

 彼が意味深な発言をした後、しばらくしてカイやアラミスがヒロの元にやって来た。


 カイはこれまでに起こったことを、慎重に言葉を選びながらヒロに話した。

 あれから意識が戻らず、その後、疫病に感染したことや、ラミも共に感染したこと。彼女が開発した治験薬を投与されたこと。



 そしてヒロはすぐに起き上がると、血相を変えて部屋を出て行った。


 おぼつかない足取りなのは、病み上がりだからではない。

 現実を認めたくないのと、何故、どうして? という疑問が心に残り、まともに歩くことが出来ないのである。


 バタンバタンとあらゆる部屋の扉を開けて室内の様子を確認し、ヒロは「ラミ!! ラミ!!」と大声で叫びながら、無我夢中で彼女を探し求めた。



 そして別棟の最上階にある一番奥の部屋の扉を開けたところ、そこには夥しい数の紙に書かれた、治療薬開発の研究結果が部屋に散乱していたのだ。

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