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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年後期(三王国時代 中編)

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旧知の間柄

 引き出しや棚の中身は全て放り出されて床がまったく見えず、足の踏み場もない。

 大きな天蓋ベッドのみが置かれている他の部屋も確認してきたが、どの部屋も似たようなものだったのである。


「物とり目的で忍び込んだのかな? そこでメンデューサと鉢合わせしたとか?」

 そう言いながら、ヒロは高級娼館内部を物珍しそうにきょろきょろ見回している。

 しかし、テルウは記憶を頼りにメンデューサの部屋を中心に黙々と手がかりを探していた。


「………血だ。メンデューサを抱き上げた時、彼女からは外傷が見当たらなかった。他の部屋にも所々についていたところから推察すると、メンデューサが亡くなってから。もしくは川に彼女が落ちてから物色したんだろうな。メンデューサはここの経営者で、ああ見えて、やり手で用心深い。部屋に縄梯子を用意しているくらいに。だからなのかこの部屋を重点的に物色している。隠し場所を特定し、上手い具合に探し物が見つかったのかどうか」

 テルウはソファについている血痕を見て、カイのように分析し、持論を展開している。


 すると、浅からぬ因縁があるメンデューサとペンダリオンが線でつながり始めた。

 きっかけは床に転がっていた美容液が入った容器を見た時だった。


 シキの従者であるリヴァは若作りしていたメンデューサの本当の年齢を知っている数少ない一人で、また彼女の顧客でもあった。

 そして、リヴァとペンダリオンは、剣の師匠だったダリルモアのところにいた頃の知り合いであるとリヴァは言っていた。



 剣士の修業年数から考えると、三人が若い頃からの知り合いだった可能性は高い。


 あれこれ考え事をしていた時、本が雪崩を起こし、しゃがみこんでいるテルウの頭を直撃した。それと同時に、最後にメンデューサと交わした会話を断片的に思い出したのである。



(あなたのことが私は大好きでしたよ、若様。だからこれ以上、本気になってしまう前に、悪女は悪女らしく退散いたします。いつも素敵な夜をありがとう。貴方と飲んだお茶の味を私は生涯忘れませんわ)


「お、お茶!! 用心深い、メンデューサならやり兼ねない!!」


 転びそうになりながらテルウはメンデューサが使っていた小さな机へと走り、置かれてあったティーポットの中を覗き込んだ。

 すると底に丸められた紙が入れられている。

 それを取り出し、慌てて駆け寄ってきたヒロに読み聞かせた。


「親愛なるリヴァ

 恐らく貴方に手紙を書くのはこれが最後になるでしょう。

 病に蝕まれたこの身体がいつまで動くのか。

 だから決着をつけるため、ペンダリオンが探していた歴史書を手に入れたの。

 彼は躍起になって取り返しに来るわね。きっと。

 その時、彼には全てを打ち明けるつもり。

 ダリルモアがしたためていた日記の存在を。


 それと、最後にお隣さんのよしみで教えてあげる………」



「なに、病? それに日記!? 父さんは日記をつけていたのか? しかもあの父さんの弟子だった従者とお隣さんってなんて世間は狭いんだ! もしかしたら父さんの行方も知っているかも」

 ヒロは話を遮り、かなり動揺している。

 そして仕切りにペンダリオンの頭に巻かれていた布を、なぜメンデューサが持っていたのかと首を傾げていた。



 ――――そう、世間は広いように見えて、実際は思いのほか狭い。

 思いがけず、シキの従者とメンデューサが知り合いだったことや、雇用主であるペンダリオンとつながりがあったことなど。この大陸が決して広い世界ではないことを物語っていたのだ


 そして思ったとおり、あの三人が旧知の間柄であることがわかった。

 それにメンデューサが病に冒されていたことも。

 夢かと思っていた彼女の肌の温もりは現実そのものだったのだ。

 メンデューサが妖艶な微笑みの裏に隠していた真実を知り、深い悲しみに覆われていたテルウは手紙をじっと見つめると、やがて読み上げるのをやめた。


「どうした、その先を読めよ」

 ヒロは先を読めと急き立てるが、彼は押し黙ったままである。

 しびれを切らして、テルウから手紙を奪い取ると、声に出して読み進めた。



「なになに? 最後にお隣さんのよしみで教えてあげる。ペンダリオンは貴方に罠をかけるために、白の聖帝を誘き寄せようとしている………。そして彼女はそのまま奪い去るつもりらしい。急ぎキルアを治める豪族の長のもとに………向かい阻止せ……よ」


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