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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年後期(三王国時代 中編)

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客人

 床を踏みつけるように足音を立てて廊下を歩き、最上階の部屋へと向かう。

 ノックした後、少しだけ開いた扉から半ば強引に部屋の中へ押し入った。



「驚いたな、女将軍が直々にお出ましとは」


 ペンダリオンは真っ昼間から酒を飲み、外套のフードを脱ぎながら入ってきた人物がジェシーアンであるのを確認すると、ドアを開けたロイに軽く目配せをした。


 ロイは驚きつつもジェシーアンに椅子を勧めるが、長居するつもりは無いのか、彼女は手で断りの仕草をした。


「結構よ。今日にもここを発つと聞いたから、面倒な手続きを踏むより直接交渉したほうが早いと思ってこんな所まで足を運んだの」


 見れば、すでに荷造りは終えている状態であった。

 彼らは皇帝に拝謁したあと、本拠地に戻らずここにしばらく宿泊している。

 多額の情報料を受け取ったのだから、こんな場末の旅籠でなくとも、もう少し高くてまともな旅籠に宿泊すればいいのに。

 そう思いながらジェシーアンはちゃらちゃらと音が鳴る袋をポケットから取り出してテーブルの上にドンと置いた。


「個人的に仕事を頼みたいの。シュウが支払った情報料とは雲泥の差かもしれないけど」


「悪いがこれから北に向かうんだ。待ちに待った情報が得られたんでね。不穏な動きを見せるものの目を欺くため、こんな場末の旅籠に潜伏していたのさ。どんな仕事内容かは知らないが、君が指揮する兵を使えば簡単じゃないのか?」


 ペンダリオンは将軍からの個人的な仕事の依頼を受けるつもりはこれっぽっちもなかった。

 それは、あの狂気の皇帝のあずかり知らぬところで下手に動くと地雷を踏みかねないからだ。


 愛妾候補だというこの娘ならいざ知らず、こっちはあっという間に捻り潰されるだろう。

 目の前の報酬は、命と釣り合うだけの価値があるとはとても思えない。


 しかし、ジェシーアンは一旦断られたものの、目を閉じてふうーっと大きく息をしてから覚悟を固めたような顔で目を大きく見開いた。



「………シュウに彼女を差し出そうと思う。だから手を貸してほしいの」



 ――――ガシャン!!

 という音と共に、遠路はるばるやってきた客人にお茶を運んできたロイはかなり動揺している。

 しかしペンダリオンの冷ややかな視線を感じて、粗相をしないよう慌てて奥へ引っ込んでしまった。



「それは表立って活動できない皇帝陛下の意思なのか?」

「いいえ、私自身の意思よ」



(一刻も早く、あの人を手に入れなければ。この絶望を終わらせるために)


 シュウに何らかの異変が起きていることにジェシーアンは恐怖を覚えていた。

 異常行動は前よりもさらに酷くなっている。

 情報屋に依頼してまで探している彼女と向き合うことで何か変わるかもしれない。



 とびきりいい女。

 シュウが探しているというその人を見てみたかったのもある。

 極度の人間嫌いなシュウが探しているのだから、たぶんユイナのような非の打ち所がない、一日中、織物に没頭している深窓の御令嬢なのだろう。


 女性ながら、剣を振り回して戦闘に挑む自分とは違って。


 そうして出会った二人が、晴れて廊下の突き当りにある絢爛豪華な皇帝の私室に居住することになったとしても、悔しさを胸の内に秘め傍で支え続ける。

 花を生のままつまむのではなく、せめて栄養のある調理した美味しい食事を食べてほしかったのだ。


「彼女を差しだすのは容易じゃないな。なぜなら彼女は皇帝陛下と同じく力の使い手だ。それに極めて高い地位にある。常に忠実な従者やならず者集団、万を超す神官たちといったお付きのものに守られている。………だが、策がないわけではない」


 ワザとらしく、ペンダリオンは実現する可能性があるような言い方をした。

 この依頼は命に釣り合う以上の価値がある。

 彼にとっては願ってもない絶好の好機。



「何か策があるのね? 教えて。彼女をここまで連れてくるためなら、どんなことでもするわ!」

 ジェシーアンは子猿みたいに顔を真っ赤にして意欲満々の様子だった。


「………誘き出すのさ。ごく少人数の護衛だけ伴うように裏で工作してな。彼女を護衛たちから引き離し、力を使えなくした所で、君が連れ去ればいい。皇帝陛下はさぞお喜びになることだろう」


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