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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年後期(三王国時代 中編)

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鮮明な夢

「それは脳が起きていて体は眠っている状態だからだ。そういう時は鮮明な夢を見やすい。寝る前は何をしていたんだ?」


 カイは一仕事終えて執務室で本を読みながら、テルウに睡眠段階の話をした。

 昨夜の鮮明すぎる夢のことが気になるテルウは医学に精通しているカイに見解を尋ねたのである。


「どうやらメンドューサから受け取った手紙を読もうとしていたらしい。枕元にこれが置いてあったから。それに頭がズキズキ痛むのも治っていない」


 その手紙をテルウから受け取るとカイはさっと最後まで一気に読んだ。

「風邪だな。お前はいつも真っ裸で寝ているから。それよりこの手紙の情報によると、バミルゴがフォスタを配下に置いたらしいぞ。ヒロ」



 詳細が書かれた手紙をヒロに手渡すと、彼は一読し、「よかった、彼女は無事のようだ。躍進の立役者である女王陛下はこれにより南側一帯を治める。と書いてある」と安堵の溜息を漏らす。


「断崖絶壁からの奇襲攻撃とは、よく考えたものだ。エプリトの軍神はあの子の性格をよく理解している」


「どういう意味だよ、カイ?」


「俺たちも立ち寄ったフォスタはカルオロンに次ぐ規模の大国だ。正攻法では勝ち目がないから、敵の意表を突く作戦を立てなければ勝利を掴めない。能力の高いシキや従者のリヴァみたいな者は、どんな事にでも果敢に挑戦し、すぐに実行に移す事ができる。普通なら足がすくみそうな断崖絶壁でも彼女の性格なら絶対に駆け下りると軍神は踏んだのだろう」



「妻に先立たれたエプリトの軍神か。彼女とは強い信頼関係を築いているという証拠だな……」

 カイの戦評を聞いていたヒロは、小さな声で呟いた。


 そして焦燥感からさらに続けて「じつは俺、彼女に会ってみようと思っているんだ」と真剣な顔つきになって二人に向かって言ったのだ。


 カイとテルウはヒロのほうを見て大いに驚いた顔をしている。


「それはどういう意味? あれほどこっぴどく振られたのに、また会いに行って求婚するのか?」

 テルウは長椅子で横になって安静にしていたが、あまりにも予想外のことをヒロが口走ったので、頭痛に苦しみつつも尋ねた。


「前は彼女の立場とか複雑で……」

「実際、バミルゴの神だった訳だしな。接触しただけで俺たちは殺されかけた」


「彼女が女王として人前に出ているなら、良好な関係が築けるのではないかと思っている。それに最近彼女と会ったというグラデスの甥御殿から、今も俺のことを想ってくれていることを伝え聞いたんだ。だから、今からでもやり直せないかな」


 テルウは椅子を大きく飛び越え、ヒロのところに駆け寄ると、次は彼の髪をもしゃもしゃにして「良かったなあ!!」と自分のことのように喜んだ。


 そんな二人の様子をカイは一歩引いて見守っている。


 シキは以前のように国家の言いなりとなって塔に閉じ込められている不遇な姫ではない。

 自らが先頭に立って戦い、エプリトの軍神を手に入れ、南一帯を支配するほど勢力拡大を遂げた。


 我が国の利益となり、国民の誰もが納得するヒロの相手。


 西の大国、カルオロンの皇帝の妹に匹敵する唯一の相手かもしれない。

 そうなるとバミルゴと手を組み、西の脅威に挑むのも一策である。

 懸念材料があるとすれば、東側の連中が南との関係を極力嫌っていることと、エプリトとミルフォス、そして孫を溺愛している族長ロジがそれを良しとするかどうかだ。


 そして何より、グラデスとの初夜を飛び出したヒロの気持ちを考えれば、それが最良の選択のように思えてきた。


「そうだね。立場は違っても四人で過ごした、あの楽しかった時に戻れるといいだろうね」

 穏やかな陽射しが降り注ぐ中、開いた本に目を落としながら、カイは笑っていた。


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