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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年後期(三王国時代 前編)

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緊張状態

 アーロンはすぐに敵の状況を確認するよう、実弟であるタリードを偵察に向かわせた。

 フォスタはヒロたちが暮らしていた山脈の麓にあり、川と山の恵みで栄えた自然豊かな国である。

 周囲を山々に囲まれ、運が良ければ濃い霧が巨大な城を包み込むのを眺めることができるため、別名「霧の国」と呼ばれている。


 幸か不幸か、その昔ヒロたちがペンダリオンと出会った国であり、風光明媚な観光地としても知られていた。

 しかし西の軍事大国の脅威に晒された国家は、次の攻撃対象となることを危惧し、ついに防衛対策に乗り出したのである。

 サーミットと同様、バミルゴが持つ武器類に目をつけ、手っ取り早く奪い去ろうと総攻撃開始を決断したのだった。


 数日後、タリード達は偵察から帰ってきた。

 現在はフォスタとバミルゴの中間地点に位置する山の中に数千の兵を待機させている。



 これは戦略を慎重に検討しなければいけない。

 何故ならば、フォスタはバミルゴやサーミットよりも人口が遥かに多い。


 この数千の先陣だけでなく、その後の兵が続々と乗り込んできたりしたら、手も足も出なくなってしまう。

 バミルゴの僧兵を実戦で使うには時期尚早だった。


 何としてでも、山の中に陣営地を構えるフォスタの兵が乗り込んで来る前に討ち取りたい。

 シキとアーロンは兵を率いて早朝出陣した。


 僅かばかりのバミルゴの兵士、武力に秀でた民間人、そしてアーロンが領から連れてきたエプリトの兵士。

 彼らは決して優れた能力を持っているわけではなく、兵力数が勝っているわけでもない。

 圧倒的な指導者のもと、小さな力を寄せ集めることで大きな力になる事を期待し、北西へと兵を進めた。



 二日後、シキたちは敵の陣営地から離れた山の入り口付近に到着した。

 敵の情報の収集にあたったタリードの話によれば、フォスタの兵たちは周りを高い山々に囲まれたすり鉢の底のような小盆地に無数の天幕を張り、陣を構えているということだ。


 指揮しているのはつい最近、王位を引き継いだばかりの新しい君主。

 五十を少し過ぎた実戦経験こそ少ないが実力は折り紙つきの武将であり、この襲撃で功績を残すことを目論んでいた。

 彼らはこの小盆地に辿り着いてから停留を余儀なくされている。



 これはアーロンの戦略によるものである。

 偵察に向かったタリードは兄の指示通りに川の一箇所を堰き止めた。

 堰き止められた水はすり鉢の底のような小盆地に溜まり、そのまま水の中に兵たちを沈めるつもりであった。

 しかし山を知り尽くした国王は咄嗟の判断で、人海戦術により流れ込んできた水を別の川へ流すルートを作り上げてしまう。


 加えて季節の変わり目に降る長雨の影響を受けていたためである。

 こういう時は、雨が止むのを待つ。これに尽きる。

 さらに長引けば持参した食料も底をついてしまうため、恐らく次の機会を狙ってバミルゴへの侵攻を開始することであろう。



 アーロンは隈なく大気の状態に目を配っている。

 数では圧倒的にフォスタの方が上である。エプリトから引き連れてきた兵を足しても遠く及ばない。アーロンは万が一の可能性に賭けることが勝利への道だと確信していた。

 降り続く雨が止んだ後も、両陣営は一歩も動かず数日が過ぎようとしている。



 シキは身を潜めている洞穴の中で、リヴァに守られうたた寝をしていた。

 眠りから覚めると、目の前で蜘蛛が糸を綺麗に張っているのである。

 幻想的な色に輝く蜘蛛の糸。

 しばらく黙ってその様子を見ていたシキが小声を出した。


「………私ったら、いつの間にか眠ってしまったみたい」

「緊張状態が続いているのです、眠れるときに眠っておかないと」



 疲れが溜まっているのか、いつもより白く見えるシキの顔色を見て心配になったリヴァがそっと頬に手を当てると、彼女は彼の手のひらの温もりを確認するようにその上から手を重ねた。



「アーロンは、どこにいるの?」


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