勝ったものが正義
どうせ、勝ち残るしか方法はない。
それならば不穏な動きを見せる者たちへ揺さぶりをかけるため、手っ取り早い手段がある。
シキはとりわけ動きの鈍い、恰幅がよく上半身裸にこげ茶のズボンを履く、一番の男に的を定めた。
敵に襲われたときに攻撃するのではなく、彼女自ら仕掛けるのは珍しいことだった。
背中を少し丸まるように防備を整える一番の男に向かい、走りながら剣を振るうが、体重差もあり躱されてしまう。それでも諦めずに、何とか付け入る隙を見つけるため、高速で回転する駒のように素早く斬りかかる。
「くっつ、くそおおおおーーーー! 舐めたことをーー」
猛攻を受けて劣勢に追い込まれていく一番に加勢しようと、木の仮面を付けた男も近寄ってくる。
シキはヘロヘロになっている、一番上半身裸の男の腹を飛び蹴りし、数メートル先まで飛ばす。そして、寄ってきた木の仮面の男に向かいスッと飛び上がり着地しながらことのほか重い剣を降り下ろした。
傍で見ていた刀傷の男は雷に打たれたように動かない。
他の選手たち、いや観客たちですらシキの一挙手一投足を追っている。
そして、あまりの華麗な剣さばきを目の当たりにし、静けさから一気に会場は大歓声に包まれた。
「いいぞーーー、十七番!!」
観客の声援を受けても、こんなことやって嬉しいわけがない。
シキがややうつむき加減で剣に付いた血を落としていると、例の如く役人のひく荷車が倒れている一番と十六番を迎えに来た。
しかし聞こえてきたのは、「ひいいいいー!」という恐怖から悲鳴を上げる役人の声だった。
見れば荷車をひいてきた役人の内、数人がその場で動かなくなっている。
その代わりに、倒れたはずの上半身裸の男が立ち上がり役人を手当り次第に襲っていた。
「地面に一度でも倒れた者は失格のはずだぞ!!」
そう叫んだ役人も呆気なく、男に叩き斬られてしまった。
「うるせーーー! こういう試合は卑怯な手段を使ってでも、勝ったものが正義だ!!」
観客の激しい非難の声を受けても、ものともせず、雄叫びのような声をあげて、シキの方に向かってきた。
顔をべっとり覆うほどの血を頭から垂らしながら、先程とは全く違う恨みにも似た気迫に迫った顔。
そして、そんな上半身裸の男に便乗する形で、凶悪そうな十二番刀傷の男もシキの方に近づいてくる。
遂に、憶測が確信に変わったと、シキは兜の中でニヤリと笑い、身体の左側で剣を構えた。
先ほど、シキを取り囲んだ三人は彼女を取り逃しても、残された三人では決して闘わなかった。
理由は明らかで、三人は結託している者たちということになる。
この三人個々の能力はそれほど高くないが、平凡な者でも三人寄れば互いの足りない部分を補い、まあ何とかなるとでも思ったのだろう。
「うおおおぉぉーーー!!」
一番、上半身裸の男がシキに向かって剣を振り下ろした瞬間、彼女は地面で伸びたままの十六番を引っ張り上げて盾にして、下から上半身裸の男の腹を思いっきり突き刺す。
血飛沫が飛び散る中、盾にした男をその場で上半身裸の男に向けて投げつけ、後から向かってきた凶悪そうな十二番の首を締め上げ、喉元に剣を突き立てた。
「動くな、すぐに剣を手放せ!! そなたたち三人が結託していることはわかっている。恐らく金で雇われて、他の選手を残らず倒せば上乗せするとでも言われたか? 残念ながら、その前に潰されることになるだろう。それが証拠に、こうして窮地に立たされても、黒幕は助けにも来ないではないか」
男の顔はみるみる青ざめていった。そしてギョロッとした目を怯えさせ、「お、お前、まさか………お、おん………」とシキの声色を聞いて何か言いかけた。
しかし、チクっと刃先が喉に当たるのでそのままゴクリと唾液と一緒に言葉を飲み込み、言われた通りに剣を手放した。
「それ以上言わない方が身の為だ。こちらは急所を押さえている。それよりこちらの質問に答えろ。あの酒場で待ち合わせしていた相手は残っている三人のうち誰だ? そなたが、ル ヘン公と呼んでいた人物は?」




