茨の道
彼女が脱いだ服を綺麗に畳んでいたリヴァは驚いてバサっとその場に服を落としてしまい、すぐベッドで横になっているシキのもとに行き、読んでいる本を取り上げた。
「い、今……何か重い物が上から落ちてきたような衝撃が……。聞こえてはいけない言葉を聞いてしまったような気がします。気のせいですよね?」
「あん」と言って本を取り上げられてしまったが、気を取り直してシキはベッドの上に起き上がり、空いた口が塞がらないリヴァの首に手を回して上目遣いをした。
「気のせいじゃないわ。考えてもみて、あなたが最後まで勝ち残り、協力を要請したいと申し出て、それが主の従者だったら、特権階級の権力を振りかざしていると思われても仕方ないわよ。これは私が最後まで勝ち抜くことに意味があるの。ふふん、しばらく公務続きで身体が鈍っていたから、前みたいに手合わせよろしくね。先生」
これはさすがに反則だろう!
可愛いおねだりポーズで、人を惑わして丸め込もうとするなんて。
「たいした御方だ、貴方は。こちらの気も知らないで。これにぴったりの言い回しがあります」
リヴァは自分の首に回しているシキの手首を掴んで動きを封じ、
「色仕掛けというのですよ。でも今回だけはおねだりしても、厳命しても絶対に許しません。あの酒場にいた男たちを覚えていますか?」
と詰め寄った。
「覚えているわよ。図体ばかり大きくて、力任せに攻撃してくるタイプね」
「まったくもってその通り。そんな男たちとの勝負に臨まなければならない。しかも普通の武闘大会じゃないのです」
リヴァは手首を下し、シキの唇についていた髪をそっと耳にかけてあげた。そしてそのまま彼女の頭を撫で、おでことおでこをくっつける。
「これは危険なデスマッチです。そんな大会にあなたを出場させるなんて出来やしません。万が一のことがあってからでは遅いのですよ」
と心配そうに顔を覗き込んでいた。
心配を掛けていることは十分に承知している。
リヴァがどんなに大切にしてくれているかも。
不安がらせるようなことはしたくないけど、国を背負っている以上、それが最良の方法だと信じるしかなかった。
「いつも心配してくれてありがとう。でもこういう時に備えて、血の滲むような思いをし、幼い頃から剣の腕を磨き続けてきたのよ。私の実力で結構いい線いけることは、あなただって指導者としてわかるでしょ。それにいざとなったら、あの力を使えばいいのですもの」
安心してと言わんばかりに、シキはくっつけている額をより強く押し付け、リヴァの手を優しく握りしめた。
ああ、どうしてこの御方は、茨の道を突き進んでしまうのだろう。
美しい肉体の深いところまで傷つけられても、決して歩くのをやめることはない。
閉ざしてしまった世界から、抜け出すにはそれが唯一の方法であると、その先にあるものを無意識に追い求めているからか。
「……あの力はフィオーの言っていた気と血と水のバランス調整が上手くいかなくて、以前よりも身体に強力な跳ね返りが来ているじゃないですか。この私が知らないとでも? とはいえ貴方の性格からしてここまでくると、納得するまではそう簡単に引き下がらないでしょう。出場を認める代わりにいくつか条件を出します」
「本当!! 条件って?」
「私が用意した防具を付けること。それと、もし何か起こりそうなら、多少卑怯な手段だと言われても、貴方を救出いたします。これだけは譲れません」
やった! と嬉しそうに抱き付いてくるシキを愛おしそうに見つめながら、リヴァはしぶしぶ条件つきで承諾するのであった。




