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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年後期(三王国時代 前編)

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所見

 それから数日間、ラミとカイは疫病に有効な薬が開発されることを目的とした情報交換を行った。それとともにラミは持参した白い医療用マスクをはじめとする医療器具を提供し、代わりにカイは稀少価値の高い薬草を提供した。


「では、また何か情報が入り次第、伝えに来るわね。岩山へ戻る前に一目ヒロに会いたいのだけど、あの宰相は快く思わないでしょう。だから、あなたがこの書庫にこっそり彼を連れてきてはくれないかしら? やっぱり無理?」

 ラミは書庫から借りていく書物を紐で纏めてから、カイに謙虚な姿勢を見せてお願いした。


「アラミスはこの時間、執務室にはいないよ。ヒロの亡くなった母親の墓石に供える為の花を摘んでいるんだ。知っている限り、一日たりとも欠かしたことがない」

 カイはラミが提供した試作品の白い医療用マスクがいたく気に入っているらしく、被ったマスク越しにそう言った。


「まあ、それは好都合だわ」

 ラミは嬉しそうに本を抱えて、ヒロに会うために書庫から出て行こうとした。


 すると、

「その前に、ひとつ聞きたいことがあるのだけど」

 マスクを脱いで、カイはぼさぼさになった頭を左右に振りながらラミに話しかけた。


「何よ。ヒロに会える時間が少なくなるじゃない。先入観の塊みたいな宰相が戻ってきたら面倒なことになるでしょ?」


「大丈夫だよ。当分は帰ってこないから。アラミスとヒロの母親は幼馴染で、精神的な繫がりがある関係だったのではないかと俺は思っている。だから彼は長い時間、悲しみに浸っているんだ。それよりも、彼女を診察した時、どうして驚いた顔をしたの?」


 薬師として動揺を悟られまいと振舞ったつもりだったが、見透かされていたのかと、ラミは同業者であるカイのことを侮れない相手であると改めて思った。


「平静を装っていたつもりだったけど、無理があったのね。もし教えてほしいなら、逆に私もあなたに聞きたいことがあるの。あの口が軽そうな弟は、最後まで白状しなかったわ。私の目力に怯えてしまって」


「テルウは勘が鋭いから、君に何か読み取られるのを恐れたのだろう。彼に口を割らせるには、食い物か女の子を使わないと」


 交換条件を持ち出してくるなんて、あざといやり方な気もするが、カイはあまり悪い印象には取っていない。それよりもヒロの事に対する好きな気持ちを表す態度や、ラミが持つ生き抜くための強さのようなものは、逆に清々しささえ感じさせた。




「白い姫って誰? ヒロの特別な人?」


 ラミはカイに近付き、大きな目でカイの顔をじっと見ている。

 微妙な表情の変化や仕草から本音を読み解く心理学でも学んでいるのだろうか。

 さっきのは撤回。

 博識のシキといい、小聡明いラミといい。ヒロは冴えないくせにどういう訳か、こういう知性のある女性にモテる。


「俺の口からは何とも………」

 ラミに悟られないよう、カイはそれしか答えられなかった。


「ふ~ん。二人して、よほど隠し通したい相手のようね。でも言えないってことは、上手くいっていない関係だって示しているようなものよ。まあそれだけ分かれば充分だわ。心置きなく傷心の彼を慰めることが出来るから。そしてロジの権力など使わずとも、私の方を振り向かせてみせるわ。ロジはヒロのことが大のお気に入りなの。今後も惜しむことなく援助するようにと言われているし。いいわよ、あの眼帯の子の目に隠された秘密を特別に教えてあげる」


 ラミは書庫の本棚に向かい、精密な人体解剖図を一冊手に取った。そして椅子に座って目の構造について書かれた頁を広げている。

「私の所見によればね。彼女の眼球そのものに異常は見られなかったわ。でも厄介な問題があってね、目の角膜によく見てみると模様のようなものが付着しているの。何かを吹き付けたような、焼かれたような、赤い無数の血痕みたいな」


「それが視力を失った原因なのか?」


 ラミは真正面からじっとカイの方を見つめている。

 そして真剣な顔つきになって、「それも可能性の一つでしょうけど、私も体験したことない、稀な症例とでもゆうか………。信じ難いけど、眼窩と眼球の大きさや形が微妙に合っていないのよ。視神経も繋がっていないし」


 その診断結果は胸が深くえぐられるような衝撃をカイに与えた。


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