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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年後期(三王国時代 前編)

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大きな代償

「ちょ、ちょっと、カイ!? 彼女は嫌がっているよ。無理強いすることないじゃないか?」

 いつもの調子で、穏便に解決しようとヒロが間に入る形で口を出した。



 すると、「ヒロは横から口を挟まないで!! いいわよっ、受診するわよ! 受診すればカイは満足するのでしょう?」

 ヒロを一喝してから、ユイナはキッとカイの方に顔を向けて歯を食いしばるようにしている。


 カイは鈍く光る裸眼だと、何か特別なものが見えるのではないかと疑っている。

 不信感を持っている彼が原因を突き止めたいと思うのは当然のことだろう。

 それにどうせ薬師が診たところで、術師が入れ替えたことなどわかるはずもない。

 静寂に包まれた王座の間でハア、ハアとユイナの叫んだあとの息遣いだけが響いていた。



 ラミはヒロの横で、くっきりとした大きな目を向けて、言い争う二人の様子をじっと見つめていた。

 心理学的な観点からすれば、興味がある相手に対して、何度も目で追ってしまうことは多い。

 弟は彼女が王座の間に入室してから、絶えず気にかけ、ちらちらと確認している。

 もしかしたら、本人も全く無意識の内に行っているにもかかわらず、素直に認めたくない気持ちもあり、それが言動となって現れるのではないのかと冷静に分析していた。


 その後、ラミの指示により暗室状態となるよう王座の間に暗幕を張りめぐらし、ユイナの目の診察をすることになった。


 カイはユイナの手を引き、その部屋の中央に設置された椅子に座らせる際、顔を至近距離に近づけてから、「ごめんね、気が進まないのはわかっている。でもね、何から逃げているのか知らないけど、一日中、部屋に閉じ籠っているのが見るに忍びないんだ。いつか君を陽の下に連れ出してあげたい。そして眼帯を外し暖かい陽の光が降り注ぐ中で微笑む顔が見たいんだ。だから大人しく診察を受けて原因を探ろう。傍にいてあげるから」

 そう言って、手をぎゅうと握りしめてから、光源となる蝋燭に火を灯した。


 ヒロたちは邪魔にならない離れた場所からそっと見守り、カイは久しぶりに眼帯を外したユイナの表情が、今にも壊れてしまいそうな危うさを秘めた表情だったことに胸が締め付けられた。


 暗闇の中、ラミは顔を覆っていたヴェールを捲り上げ、光源の灯りをもとに自作した眼底鏡でユイナの目を熱心に診察している。時にはカイに指示して、光源を移動させ、眼球が光に反応するのかみている。

 そして、次第にラミはこれ以上開かないと思えるほど、大きな目を見開いたような驚いた表情に変わり、口は何かを言いかけたまま固まっていた。




「………終わったわ」

「どうだった?」

 診察が終わり、カイは間髪入れずにラミに検査結果を聞いた。


 ユイナが眼帯を付けるのをラミは手伝いながら、「眼球そのものに異常は見られなかったわ。………いつから、どういう状況で見えなくなったのか、……その、聞いてもいいかしら?」

 とかなり慎重な言い回しで訊ねた。


 ユイナはそのまま黙り込み、下を向いてしまう。

 ラミはそんなユイナの複雑な事情を察知して、肩にそっと手を当てる。


「しばらく様子を見る必要がありそうね。ある日突然視力を失ってしまったのなら、また視力を取り戻すかもしれない。今日は疲れたでしょうから、そこの彼に部屋まで送ってもらうといいわ」


 ラミの粋な計らいにより、ユイナはカイに部屋まで送ってもらうことになった。


 二人で城の廊下を歩きながら、繋いでいる手にユイナはもう片方の手を当てて、

「あ、あの………。カイ、御免なさい。さっきはキツイ言い方をしてしまって。そんなふうに私のこと気にかけてくれていたのね、ありがとう………」

 と素直に感謝の意を伝えた。


「別にたいしたことじゃないよ。俺は中間子だから、常に周囲の様子が気になる、面倒くさい性格なんだ。でも見えるかも知れない可能性があってよかったな」


「ふふっ、ふふ。そうね」

 上品で軽やかな笑い声を立てながらユイナは手を引くカイの後ろを歩いている。

 カイは笑い声を聞いて驚き、気にするように何度も後ろを振り返った。


「カイ。私ね、もしも願いが一つだけ叶うなら………」

 そこまで言いかけ、ユイナは残りの言葉をグッと心の中に飲み込んだ。


 裸眼で診察を受けている間、ユイナはこっそりラミの心の中を覗いてしまった。

 ラミは驚きとともにかなり動揺し、眼底鏡を持つ手がカタカタ揺れていたのだが、薬師らしく平静を装っていた。

 そして、これはもう手には負えないのではないかと焦っている気持ちが、ひしひしと伝わってきたのである。



「な、何だよ、気になるなあ、最後まで言えよ」

「ふふふ。別に何でもないわ」





 あゝ、ジェシーアン。


 あなたにだけは知っていて貰いたい。

 私は今になって、自分の行動がいかに浅はかな行為だったかということに気が付いたの。

 あの時、あなたの忠告に従うべきだったのかもしれないと。

 自分たちを陥れた大人たちへの復讐心に駆られ、スピガと契約を結んだことは、あまりに大きな代償を払うことになってしまった。

 真っ暗な暗闇から飛び出して陽の下に立った時、私はスピガが放った烏に発見されることとなるでしょう。



 そして、その時にすべて終わりを告げる。

 あなたに贈ってもらった守り刀で、自らの胸を刺し貫いて契約を反故にするの。


 だから、せめてもう少しだけ、この優しさに触れることを許してください。

 いつかおとずれる、その時までは………。



 惚れ薬を嗅いだわけでもなく、カイの胸がザワついているのも知らずに、ユイナはにこやかな笑みを浮かべ彼の手を確かめるように握りしめて部屋へと向かった。


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