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デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~  作者: 華田さち
青年後期(三王国時代 前編)

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神に好かれる男

 ロジがヒロに熱い期待を寄せている頃、この二人は宴までの間、反省会の真っ最中である。


「もう、ヒロの馬鹿、馬鹿!! 相手は族長だぞ、もう少し言葉を選べよ。寿命が縮まっただろう! こっちは僅かな手勢なんだ、族長を怒らせでもしたら、あの屈強な男たちにすぐやられちゃう。しかも犬児って! 確かに似ているけど。今回は運が良かったとしか言いようがない。こうして宴まで開いてくれるのだから」


「だろう? 昔、迷い込んできた山犬の仔犬にそっくりだった! 見たか、特にあの目!!」

 ヒロは鼻息荒く興奮した様子で言った。



 まだ彼らが幼かった頃、母屋から離れた山脈の薬草園に、群れから離れて捕食者に襲われたと思しき瀕死の重傷を負った山犬の仔犬が一匹迷い込んできた


 小さな目に、穏やかな顔。

 ボロボロの布みたいになっている仔犬に子どもたち四人は薬草で治療したり、食事を与えたり、いろいろと世話を焼き始めたのである。

 ダリルモアは昔から、自然界の掟には、人間は決して介入してはならいと繰り返し言い聞かせていた。

 彼らの住まう山脈を間借りしているに過ぎず、適度な距離感を保ち見守るべきであるのだと。

 そのため、子どもたちは薬草園でこっそりと保護していた。


 やがて、彼らに情が芽生える。

 弱々しく尻尾を振り、食事を求める姿が愛おしくて堪らなかったのだ。



 しかしそれから数日後、急に仔犬の姿が見当たらなくなり、四人で捜索していたところ、母屋の横を流れる川の畔で寂しそうに佇むダリルモアがいた。

 仔犬は何処へ行ったのか、父に聞きたかったが、現実を知るのが恐ろしくて誰も口を開かなかった。


 体力が回復して山へ帰っていたのかもしれない。

 傷が悪化しそのまま死んでしまったのかもしれない。

 手負いの獣は危険だと判断したのかもしれない。

 餌を与えて貰った野生動物が再び野性に戻ることはないと思ったのかもしれない。


 人は生きている命を頂くことでしか、命を繋ぐことができない。

 狩りで生き物を殺めるのに子どもたちの心理的な影響を懸念してのことだったかもしれない。


 手に掛けたという根拠も証拠も何もないが、その時ダリルモアが見せた、何とも陰りのある表情が、乱世や自然を生き抜く厳しさを物語っているようで、子どもたちは以前にも増して、遊びと名のつく剣術の稽古に励んだのだった。



「じゃあ何か? ただ単に、ヒロはあの時の仔犬に似ていると思っただけなのか? 心理戦を仕掛けたわけじゃなく」

「あったり前だろう。他に理由なんかあるか。怖そうな獅子よりは、仔犬だと思った方がこっちも精神的に楽になる」


 この時、なんだかんだで、このやらかし殿下は強運の持ち主なのだろうとテルウは思った。

 上手くいかないことの方が圧倒的に多いが、彼の前向きな姿勢のようなものが、運を引き寄せるのか。 

 それとも、本当にササの加護や守護神であったシキの力が働いているのか。

 何はともあれ、神に好かれる男は、やはり持ってる男なのである。



「でも、あんなに勇んで飛び出したんだから、疫病について手土産代わりに何か持って帰らないとまずいんじゃない? カイにどうやって言い訳するの?」

 テルウに指摘され、ヒロは本来の目的である疫病に対する薬の開発に何の成果も挙げていないことに気付く。


 道が寸断されているとはいえ、呑気に宴で御持て成しされている場合ではない。

 これでは疫病の現状調査どころか、他民族との異文化交流会なのである。


「そうだった………。このまま手ぶらで帰ったら、カイにどやされるに決まっている。いますぐにでもここを発つぞ!」

 ヒロがそう言って、立ち上がった時、


「それは駄目。宴の準備が出来たのよ。皆、あなたが来るのを待っているわ」

 絶妙のタイミングで現れたラミが扉から顔を覗かせ、少し恥ずかしそうに此方を見ている。


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