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禁色

「あの方向に、微かに岩山が見える! 全員がしのげる場所を探すんだ! 急げ、嵐に飲み込まれるぞ!」

 ヒロが指し示す岩山の方向に一行は向かったのだが、切り立った岩山には風を凌げるような洞穴は勿論、出っ張った岩すら見当たらない。

 徐々に視界が失われていく中で、避難場所を探して奥に奥に進むと山道が徐々に細くなり、ようやく洞穴らしきものを発見した。


「あそこに洞穴がある! あと少しだ、みんな頑張れ!」


 身体ごと持っていかれそうになりながらも、何とか洞穴まで進む。

 そして間近で見上げると、その洞穴が一般的な洞穴ではない事に気が付いた。

 そそり立つ岩山に等間隔に並ぶ穴は自然の洞穴ではなく、明らかに人工的に作られたものだったのだ。


「ヒロ、ここで行き止まりだ!!」

 テルウが振り向いて叫んだ。

 背後から迫りくる嵐に、行き止まりの山道。

 洞穴へと続く入口も見つからぬままの最大の危機を迎えた時の事である。



 シュウ、シュウ、シュウ、シュウ。シュウウウウウウウウ。



 奇怪な音とともに、辺り一面濃い緑色の煙に包まれた。

 鼻の奥にツンとした違和感を覚え、身体がフラついて平衡感覚を徐々に失っていく。


「これは睡眠薬だ! みんな、外套で鼻を塞げ!」


 しかしヒロがそう叫んだ時には、もう兵士たちはその場で崩れ落ちている。

 そして最後まで抵抗していたヒロとテルウも、為す術もなく、ついには脚に力が入らなくなり、パタッと倒れてしまった。






 薄暗い洞穴の中で、二人の男が蝋燭の灯りを手に持ち、扉の前に現れた。

 男の一人が食事を差し入れる小窓から中の様子を確認している。



「間違いなく、発熱症状は誰一人現れていないんだな?」

「ああ、全員確認したから間違いない。ラミの言った通りに、除菌作用の高い薬草を焚いて全身除菌は済ませてある」


「じゃあ何故、全員起きない?」


「この、手前で寝ている、青いの二人が最後まで手古摺らせやがった。だから更に強い睡眠薬を追加したからだろう」

 覗き込んでいる男の横から、邪魔をするよう半ば強引に小窓に近づいてきたもう一人の男が指を挿しながら言った。


「どの青だ?」


 見辛い角度から再度覗き込むと、もう一人の男が言った通り、青い上着の青年二人が折り重なるように寝ている。

 普段なら気にも留めないであろうその紫がかった深い青色が、噂で聞いたことのある王族以外身に着けることができない禁色ではないかと疑った男は、みるみる顔が青ざめていった。


「………これは、まずいな。どうして、彼がこのような岩山に?」

「何だよ! 何がまずいって?」

「俺じゃ確信が持てない! 脚の悪い彼には申し訳ないが、急を要するからとロジを呼んでこよう! ロジに確認して貰う」

「だから、何事かと聞いている。勿体ぶらないで教えろよ」


 暗闇の中、蝋燭を手に持った男はその蝋燭を目の前まで持っていき、動揺した目つきでもう一人の男に言った。


「深い青色の方は、薬草王国の王太子かもしれない………」


「ええええええ!? どこから見ても、何処にでもいる至って普通の青年だったぞ。威厳や風格が全く感じられなかった」

「普段から感じられない人物らしい。長らく行方不明だったようだから、庶民的とも言うか。もしも本物なら、何かあって軋轢が生じる前に手を打たねばならぬ。怪我などさせていないか、念の為ラミに診てもらうぞ」


 蝋燭を持った男たちはそそくさと、洞穴の更に奥へと小走りに歩いて行った。


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