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序章


 エスフィータ エスフィータ

 こどもたちに口づけを 幸せだった日々を思い出し涙するだろう

 エスフィータ エスフィータ

 亡き魂に花束を こぼれる涙を胸に抱き明日を見つめるだろう

 エスフィータ エスフィータ

 輝く王冠に祝福を 赤い月夜の晩に彼方のまばゆい光を掴むだろう

 エスフィータ エスフィータ

 鏡の中で踊り続け 永遠にほほ笑み続けるだろう

 エスフィータ エスフィータ

 ファ オ デルタトロス




 ダリルモアの剣は皇帝ヒュウシャーの体を貫いた。

 寝ているところを襲われた彼は、上質のガウンを羽織る間もなくその上から刺されたため、瞬く間にガウンは血で染まっていく。


 小国の一つに過ぎなかったカルオロンの礎を築き、栄華を極めた男。

 その男が今、自ら招いた行いのために裁きを受けようとしている。


 彼は決して愚王ではない、いやむしろ、賢王と言ったほうがいいかもしれない。

 何よりも彼が力を注いだのは軍事力の強化だ。

 国のためというよりは、飢えを凌ぐため兵を志願するものも多かったが、そうするとどうしても士気が下がり兵力は弱まる。そこで、才能があるものは積極的に採用し、功績を挙げたものには高い地位を与えた。

 貴賎の別なく、能力だけでのし上がり地位を築き上げるものが出てくることで、高い軍事力を維持することができたのだ。

 しかしこの男の欲望は留まるところを知らなかった。


 兵自身に着目し、感情に左右されず自らの思い通りに動く兵士。つまるところ、操り人形を生産することに乗り出したのだ。

 この男の欲望によりダリルモアはかけがえのない大切なものを失った。

 そして今に至るわけだ。

 これで最後。もう終焉を迎えると思っていたダリルモアにヒュウシャーはとんでもない言葉を口にした。


「残念だな。ダリルモア。私を倒しても、世の中は何も変わらんぞ」


 意表を突かれたダリルモアは思わず握っていた剣をさらに深く突き刺した。

 ヒュウシャーから流れる血は、剣身を伝い鍔からしたたり落ち床へと広がっている。


「お前は自分が何をしたのかわかっているのか?」

 ダリルモアの問いかけにも動じずヒュウシャーは不敵な笑みを浮かべた。


「じきにあの子たちが誕生する。長年待ち望んでいた子たちだ。そして、世の中は混沌とするだろう。待ち受ける未来が希望か絶望か、誰にもわからない。さあどうする? 剣士ダリルモア!」

 ヒュウシャーは最期に謎かけのような言葉を残し絶命した。


「何も変わらんだと……?」

 ダリルモアは剣を抜き取りうつむきながら呟いた。


 曲がりなりにも大陸一の剣士と称され、若い頃は、数々の戦で名を馳せてきた。

 今は一線を退き、久々に剣を取ったが、ヒュウシャーの最期の言葉はそんなダリルモアの心を突き刺したのだ。


 窓辺へ向かい外を眺めると、石が敷き詰められている城の広場には非常事態に兵士達が集まってきていた。

 城内の至る所で篝火が焚かれている。


 じきにここにも多くの兵士が踏み込んでくるであろう。

 いち早く城を後にした方がいいのはわかっている。しかし、感情がついていかず次に行動が移せない。


 今まで一体何をやってきたのだろう? 剣は身を立てるとすべてを捧げてきた。

 その代償に失ったものも数多くある。

 それなのに、すべて無駄だったというのか?


 そんなことを考えながらぼんやりと空を眺めていると、見上げた東の空に赤く光る星がある。

 闇夜に浮かび上がるその星は、太陽かの如く力強く、明るく、そして美しく輝いていた。

 星は更に大きくなり、赤く輝きだす。

 まるでその赤星に惹きつけられるように、あの光る星の方角に行けば、何か答えを見つけられるような気がした。


 ダリルモアはさきほど息絶えたヒュウシャーの元へと向かった。

 彼の右手親指には指輪がはめられている。

 帝王の印章が刻印され、まわりには霊力がやどるとされる貴石が鏤められた、まさに皇帝を象徴する指輪。

 もう二度と同じような惨事を繰り返さないためにも、ダリルモアはヒュウシャーにはめられている指輪を外し、懐へと仕舞い込み城を後にした。


 ドアを破り、兵士達が皇帝の部屋へと突入してきた時、ダリルモアの姿はもうなく、残されたのは無残な姿で横たわっている皇帝の亡骸だけであった。


 城では皇帝が崩御したことを伝える鐘が、真夜中にもかかわらず鳴り響く。

 その鐘の音を哀しく聞きながらダリルモアは東へと馬を走らせた。


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