涙目幼女はクリスマスにくたびれサラリーマンサンタとの再会を諦めない
私は昔、サンタに会った事がある。
髭もない、白髪頭でもない、赤い服も着ていない。
くたびれたスーツを着た、くたびれたリーマン男のサンタ。
サンタは泣いていた私にふわふわうさぎのぬいぐるみをくれた。
このうさぎのぬいぐるみは今も私が持っている。
もう洗い過ぎてふわふわは蘇らないけど。
この話を施設の先生に話しても、「うさぎは預けられた時に持っていたものだ」と言って誰も信じてくれない。
悲しかった。
くたびれサンタは絶対いたのに。
神さま、お願いです。
あのくたびれサンタにもう一度会わせてください。
毎年、願いを込めてツリーの一番上に星を乗っけ続けた。
サンタとツリーは絶対セット、これマメよ。
「もーお義父さん、起きてよー!」
願い続けて、私は16歳。
お義父さん、お義母さんとは血の繋がりはない。
義理だけど、実子と同じ扱いの特別養子縁組だ。
最近のお義父さんの趣味はweb小説を読むこと。
特に異世界転生?とか言うのが好きだ。
だから毎日、夜遅くまで読んで朝、起きられない。
ケモ耳の良さを説明されたけど、全然わからない。
むしろキモい。
そんなクリスマスイブ、ケーキのいちごがちょっと足りなくてスーパーに買いに出たら、自転車で事故ってちっこい神様に会った。
「君のサンタに会わせてあげる。毎年星をくれたお礼にね」
はいよろこんでぇ!
ついて行ったら、管にまみれた私の側でわんわん泣いてるお義父さん。
違うよ、お義父さんだって言ったら、神様は「自殺したから君と血の繋がりは切れたけど、魂だけはまだ繋がってる君の本当のお父さん、それがサンタの正体。ほら!」
神様は星明かりの入ったランタンでお父さんを照らす。
みるみる輪郭は溶けて、あの時のくたびれサンタが泣いていた。
すごい執念だねぇ、死んでも生まれ変わって君の側にいるなんて。
君もすごいねぇ、何言われても信じ続けたんだから。
だから早く戻りなよ、暫くは痛いかもしれないけど、と神様は私の背中を押した。
痛い、いだい、ぃったーーい!!!
あっちもこっちもあらぬところも痛くて目が覚めた。
あまりに痛くて笑ってしまう。
「笑ってるけど、異世界にでも行ってきた?」
泣き腫らしたひどい顔で、行くならお父さんも一緒に連れて行けと言った。
やっぱりキモい。
まあでも、ちょっとくらいキモくても許してあげる。
だって死んでも私の側に舞い戻ってくる、自慢のお父さんだから。