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「三、二、一、スタート!」
愛光の声で織姫と終夜の試合が始まる。
開始早々終夜は黒刀を顕現させる。
その黒刀は禍々しいオーラを漂わせており、見るものに恐怖を与えるような刀だった。
そして刀を片手に駆け出す。
ここまでわずか二秒。
今までとは少しだけレベルを上げたその動き。
だがそれだけあれば織姫が催眠をかけるには充分すぎるほどの時間だ。
「おやすみ」
その霞んで消えるような声を織姫が放った途端、終夜はぐらつき倒れ掛ける。
しかし、すぐに持ち直し再度駆け出す。
その常人から軽く外れた動きに織姫は僅かに戸惑いを見せた。
二人の距離がみるみるなくなっていく。
そして刀の届く距離になった瞬間、終夜が刀を縦に振り下ろす。
黒の一画目だ。
織姫が相手でもその遊ぶスタンスは変えないみたいだ。
織姫はそれを横に跳ぶことで回避しようとする。
だが、それを見越しての終夜の斬撃は織姫の腕を少し掠めるだけにとどまった。
織姫が再度催眠を掛けようと口を開くが先ほど同様少しの時間しか稼げず、反撃に黒の二画目を受けた。
このままだと織姫に勝つ方法はない。
もう一つの能力を使う。
それだけが唯一の可能性がある選択肢。
さて、どうする織姫。
*
「はぁ…」
面倒臭すぎて溜息が出る。
何が面倒くさいかというと目の前の男との試合だ。
名前は覚えてない。
これまでの試合は一言で催眠がかかって終わらせることができた。
でもこの男は私の催眠を跳ね除けた。
その可能性もこの男に関しては考えていたが、いざそうなったら面倒臭すぎる。
この男が厄介だと思っていたのは試合の不自然さからだった。
その不自然がどこからのものかは分からなかったが。
催眠をかけられないだけでも面倒臭いのに攻撃の技量もある。
仕方ないから短剣での戦闘に切り替える。
予め腰に下げていた短剣を一気に引き抜く。
短剣を逆手に持ち、容赦なく首を狙う。
不意の攻撃だったが避けられてしまう。
そして三回目の攻撃を受けた。
私も本気を出していないが、この男も本気を出していないのが垣間見える。
他の能力を使えば本当の獲物を引き抜けば、勝ち目はあるかもしれない。
だが、あくまでも可能性があるだけだ。
可能性を高めるなら本気で戦わなければいけない。
ほら面倒くさい。
こんな考え事するだけでも面倒くさい。
決勝まで来たから模擬戦には出れる。
私は早く帰って寝たい。
そのために私は…
*
織姫はここまでに三画の攻撃を受けた。
残り十画で決着がつくと思われる。
ここまでの流れを見るにやはり両者とも強者だ。
織姫がここまでの近接戦闘の技術を持っているとは思ってなかった。
体術や短剣での技術。
そのどちらにも常人とは一線を画す能力を持っていた。
だが、短剣にはどことなくぎこちなさが残っていた。
微々たるものだが。
恐らく、主力の得物は短剣ではない。
しかし黒刀はその織姫の攻撃を容易くあしらっている。
その証拠にまだ黒刀と描くのをやめていない。
今も織姫が短剣を振り下ろしたのを回避し、その勢いのままの回転蹴りを左腕で受けた。
その後に死角で左手に持ち替えた短剣の完全な不意打ちも刀で受け流し、反撃に四画目を決めた。
織姫は大きく後ろに跳んだ。
終夜は逃げの織姫を逃しはしない。
足のバネを全力で使い距離を詰める。
その勢いのまま黒刀を織姫に向かって振り下ろす。
五画目の軌道通り、刀を縦に振り下ろす。
そんな黒刀を目の前にして何を思ったのか眠ったように動かない織姫。
目を閉じたまま、口を開いた。
「降参…」
織姫の回避を想定した終夜の刀は勢い余って織姫に致命傷を与えるかに見えたが寸前で止まった。
元々怪我しても決闘場の中なので問題はないが。
このタイミングでの織姫の降参は恐らく、本気を出すか、面倒臭いからやめるかを天秤にかけた結果後者が勝ったのだろう。
この一時間で見えてきた織姫という人間らしいといえば織姫らしいが。
「羽衣石さんの降参によって、決勝を制したのは終夜くんです!健闘を称えて拍手!」
そう愛光が元気いっぱいに宣言すると、決闘場にいるクラスメイト全員が大声で歓声をあげ、乾いた拍手の音が鳴り響く。
終夜は突然の降参に戸惑いを見せていたがすぐに笑顔を浮かべ手を振り始めた。
織姫はもう舞台から降り始めている。
「じゃあ模擬戦に出る三人は私と終夜君と羽衣石さんに決定します!」
当然異論を言うものはいない。
後ろから歩いてきた織姫が声をかけて来るのを待つ。
「疲れた…」
「お疲れ。もう一つの能力は使わなかったのか?使えばもしがあったんじゃないか?」
「面倒臭かったしあれ以上の戦闘は意味もない…」
「そうか。それ程まで終夜との差があったように見えなかったがな」
「本気…?」
「あぁ勿論」
嘘だ。
「あの黒男強い…多分あなたと変わらない…」
素晴らしい観察眼だ。
織姫と刀の技術だけで渡り合えるとは思っていなかった。
俺と同等と言っても過言じゃない。
「そうか。織姫が強いと言うなら本当なんだろうな。俺と変わらないと言うのはよく分からないが」
「いつまで惚ける…眠い帰る…」
「そうか、じゃあまた明日」
「ん…」
そういって織姫を見送る。
光になってその場から消えた。
クラスメイトも次々に消え始めている。
「で、お前は何か用か?」
「初めましてだっていうのに、不遜な態度だなぁ。まぁいいけど」
背後に声をかけると楽しそうな笑いが混じった声が返ってくる。
振り向かずともわかるが振り向いて認識する。
そうふざけた口調で言ったのは先ほど織姫に勝ちを収めた終夜 黒刀その人だった。
「何か用かって聞いたんだが。用がないなら帰るぞ」
「なんでそんなに嫌われちゃってるのさ。初対面のクラスメイトとは仲良くしようよー」
「そんなの必要がない。お前は俺を知っている。正確には俺の過去を。違うか?」
そう言うと、終夜は一瞬動きを止めた。
その愛想よく微笑む笑顔が凍りつく。
「やるじゃん」
先程とは違う演技っぽさが消えた笑いをする。
「そうだよ?氷焔の死神さん。僕はあなたを知っている」
「どこで知った」
「ひ、み、つー。でも確かな情報筋なんだよね」
「別に興味もないが、俺にはこの高校でなすべきことがある。邪魔をするんだったら消すぞ」
「ひゃー怖い。安心してよって言いたいところだけど保証はできないなぁ」
「…」
無言で先を促す。
「僕は殺し合いが好きなんだ。今のところ話を聞く程の強さを君に感じていない。強いのは分かるんだけど。ちょっと誇張されてる部分があるんじゃない?もしくは、君が弱くなったとか。例えば、大切な人を失ったとかね」
瞬間終夜がその異能である黒刀を振る。
しかし押し負け吹き飛ぶ。
「イテテ、いきなり何するのさ」
終夜のこの一連の行動は俺が氷の塊をぶつけたことによるものだ。
「邪魔なハエを潰そうとしただけだ。飛んでるだけなら見逃すつもりだったが、まとわりついてくるみたいだからな。潰しておくことにした」
終夜は凄まじい勢いで壁に飛んでいったが外傷はなさそうだ。
恐らくその身に纏っている黒いモヤのような物が原因だ。
黒刀の能力の一つだろう。
黒刀が発するモヤを体に纏う、もしくは操る能力。
「それは無理なんじゃない?流石にこんだけ派手にやったらみんな気づいちゃってるよ。直ぐに飛んでくるんじゃないかな」
「残念だったな。観客席に被害を与えると他の人間は離脱するようになっている。誰も来ないぞ」
緋色との決闘で実証済みだ。
「セリフが完全に悪役のそれだねぇ。怖いなぁ。でもさ、今滅茶苦茶楽しいんだよ。君となら本気の殺し合いを楽しめそうだ。噂は事実みたいだね」
「楽しむ暇もなく一瞬で終わらせる」
「でもそうはいかないみたいだ。残念だけど僕は帰るよ。説明は任せたよ。じゃ」
「まて!」
畳み掛けるように喋り光になって消える。
数秒後に終夜の言葉の意味がわかった。
落ち着いて冷静さを取り戻すと、後ろに気配があることに気付いた。
後ろを振り返ると愛光がいた。
冷静さを失うとやはりいけないな。
「どうしたの!?大丈夫!?氷我君」
「すまない。異能の訓練をしていたら調整を間違えてしまった。愛光こそ何をしてたんだ?」
「私は舞台で訓練してたんだけど、轟音がしたと思ったら急にみんながいなくなって音の原因探しにきたの」
舞台にいると離脱の対象外になるみたいだ。
そこは盲点だった。
「氷我君、嘘ついてない?」
「嘘?ついてないぞ」
「そ、っか。うん!分かった!」
一瞬悲しそうな表情をしたが直ぐに笑顔を取り戻した。
「でも、何かあったら教えてね。相談に乗るから。友達としての約束だよ?」
友達か…
「あぁもちろん。頼らせてもらう」
「じゃあ氷我君帰ろうか」
「あぁそうする」
終夜を仕留めるのは次の機会だ。
次は必ず。
特に書くことないっすね。
だから(脈絡なし)、
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