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4-2

役場に来た二人は受付と書かれたカウンターに向かった。


ここはジャニュリアにはなかった大きな建物だ。外から見たら5階建てのようだった。円形の広い空間に長椅子がいくつかあり、奥に受付がある。用件によって話をするところが分かれているようで、受付で登録を先にするらしい。受付の周囲には順番を待っている人もたくさんいて時間がかかりそうだ。

セープライは目立ちたくないのかフードを深く被って俯いていた。特に人の視線を集めている様子もないから問題はないだろう。


「おはようございます。どういったご用件でしょうか」


受付の女性がにこやかに問いかけてくる。仕事だからだろうがどこか笑顔が機械的で気後れする。ちらりと隣のブースも見るとそこに座っている女性も似たような笑顔を浮かべていた。ジャニュリアでは遠慮のないおばさんやおじさんしか役場にはいなかったから慣れない。


「あ、あの。近くの町とか村について知りたいことがあるんですけど・・・」


挙動不審さを隠せずもごもごと答える。セープライは斜め後ろに立ったまま黙っている。


「周辺地域についてのお問合せでしたら、地域管理課が担当となります。順番にお呼びしますので、こちらの番号札を持ってお待ちください」


「は、はい」


渡された番号札には23番と書かれていた。どのくらい待つのだろう。その場で固まっていると、後ろから袖を引っ張られる。受付の女性からの圧も感じた。


「向こう行くぞ」


「あ、うん。ごめん」


受付の前から移動する。建物の中を見渡すとこの町の観光案内だったり、歴史資料だったりと様々なものが置かれている。案内板のようなものもある。自由に見て回っても良いようだ。


「セープライ、見て。ここの地図がある」


観光案内の冊子が置いてある近くにこの町の全体が描かれた地図が掲示されていた。改めてみると広い町だ。あまり地図を見るのは得意ではないけれど、現在地程度は分かる。この役場は町の中では意外と東寄りに位置している。もしかすると他の場所にも役場があるのかもしれない。ここはジャニュリアの町に近いから昨日一日で辿りつけたのだろう。

地図は周辺にある他の町までは描かれていなかった。


「セープライはどこから来たの?」


無意識に疑問を口にしていた。言葉が零れ落ちてから聞いて大丈夫だったかと体を固くする。


「この地図でいうと北の方向だ。いや・・・北西の方向か。隣の村からさらに先、ここからは随分遠い。俺の生まれ育った場所は自然が豊かな場所だった」


何でもないことのように返事があり、拍子抜けした。表情を窺い見ると、ほんの少しだけ穏やかな気がする。


「北ってことは寒いところ?ここからだとどれくらい時間かかるの?」


「あぁ、冬は寒さが厳しかったな。この辺りよりは雪も多く降る。辺り一面真っ白になる。寒さにはもう慣れた。ここからだと・・・そうだな。歩いていくとなると急いでも1ヵ月か、それ以上かかるだろうな」


セープライは懐かしむように、思い出すように、話す。目を細めて故郷の風景を思い浮かべているようだった。


「そっか。この辺りはそんなに雪は降らないから見て見たいな。私はジャニュリアからほとんど出たことないから真っ白な景色は見たことないや。綺麗なんだろうね。セープライは随分遠いところから来たんだね。ここまではずっとひとりだったの?」


「あぁ、村を出てからはひとりだった」


切ない響きを含んだ声色にフェルベリアは何を言えばいいのか分からなかった。沈黙が落ちる。それでも宿を出てすぐの時よりも居心地は悪くなかった。

どちらからということもなく歩き出す。観光案内の隅のところ、そのまま通りすぎてしまいそうな場所に1枚のポスターが貼ってあった。


「ジャニュリアだ・・・」


内容はジャニュリアの花畑を紹介するものだった。色褪せている様子から最近掲示されたものではないだろう。内容もジャニュリアの花を描いた絵と短い紹介文のみだった。それでも何も情報がないわけではないと思えた。

受付から21番の方と呼ぶ声が聞こえた。もうそろそろ順番が回ってきそうだ。二人はいつ呼ばれてもすぐに分かるように受付に近い椅子に並んで座った。


「セープライの探している人はどうやって探すの?見た目の特徴とか・・・?」


地域管理課では分かってもフェルベリアの知りたい情報だけだろう。この広い町で人探しをする方法の検討がつかなかった。見た目の特徴でも分かれば人に聞いて回ることは出来るだろうが、それも途方のない話に思える。


「俺に見た目だけで探すことは出来ない。あいつは自分の姿を変えて見せる力を持っている。妖精の中でも希少な種族なんだ。性別は女から変えることは出来ないが、年齢はある程度変化させて見せられる。可能性としてあるのは危ない目に合わないために身を隠しているか、どこかの金持ちに捕まっているのか・・・」


話を続けようとしたところで23番の方と呼ばれる。


「俺の話は後でいい」


さっと立ち上がって歩き出すセープライの後を追って、急いで受付に向かう。


「あの、23番です」


「お待たせ致しました。地域管理課は2階になります。右の階段を上って、3つ目の扉になります。こちらの用紙を渡してお問合せ下さい」


一枚の紙を受け取る。ここで聞けるものかと思っていたが違うようだ。受付の女性にお礼を言って、地域管理課へ向かう。女性の言っていた通り3つ目の扉に地域管理課と書かれたプレートがあった。中は下の受付と同じようにカウンターがあった。


「23番さんですね。こちらにお座りください」


声を掛けてくれたのは中年の男性だった。訪れる人は多くないのかカウンターに座っているのは彼ひとりだけだった。


「あの、ここの隣にある村について知りたいんです。ジャニュリアっていう村なんですけど、ここ最近のこととか何かご存じですか?」


「ジャニュリアですか。小さな村ですね。ジャニュリアの花が咲く季節には観光案内の冊子だったりは稀に発行されたりしますが、それ以外の時期は特にお知らせできるようなことはないですね」


「観光とかじゃなくて、何か事件があったとか、火事があったとかそういうことはご存じないですか?」


何か情報をと思うあまりカウンターの上に乗り出す。その勢いに男性は引きつつも答えてくれる。


「小さな村ですからね。そんなに凶悪な事件があったとかは今まで聞かないですし、火事の情報も聞いてないです。この町の隣ですから何か大きな事件があれば情報は入ってくるかと思いますよ」


あんなに大きな火事だったのに何も知らないなんてことがあるのだろうか。疑問が湧き出てくるが知らないと言い切られてしまえばフェルベリアはそれ以上追求することは出来なかった。


「そうですか・・・。あの、ジャニュリアと交流のあるような方はいらっしゃいますか?」


「交流があるとすれば商人ですね。数は多くありませんが、取引している商人がいるはずです。誰と関わりがあるかとかそういうことは商会で聞いて頂くと良いかと思います。商会にも役場のような受付がありますので、そこで聞いてください」


他に何かありますかと聞かれたが、もう何を聞けばいいのか分からなかった。知らないと言っているのに火事の話を切り出すのは信じて貰えないような気がしてできなかった。


「いえ、ありがとうございました」



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