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ひとつの時代が終わりを迎えて数ヵ月が経った。
人の手で強引に幕引きされた時代はひどく荒れた最後だった。
多くの悲しみと絶望は人と国を弱らせた。
大切なものを失った世界は優しさを忘れた。
私が最初に失くしたのはお母さんだった。元々体が弱かったらしい。3歳のときに病気で亡くなったと聞いた。幼すぎた私はもう顔も思い出せない。写真も残ってはいない。
次に失くしたのは友だち。失くしたというのはおかしいかもしれない。元々持っていなかった。
どうしてか自分では分からない。私は好かれない人間だった。一緒に遊んでいたはずなのに気がつけば独りでいた。彼らは言った。
「お前と遊んでてもつまらない」
「何を考えてるか分からない」
「もう来ないで」
ただ私は普通に友だちと遊んで過ごしたかった。何が駄目だったのだろうか。何度も考えたけれど答えはでなかった。嫌なことをしてしまったら謝りたかったのだけど、理由を教えてくれる人はいなかった。
そして今、お父さんと家と、住んでいた小さな町を失いそうになっている。隣町におつかいに行っている間に何があったのか。
炎で赤く染まったジャニュリアの町を呆然と見ていた。
お父さんはどこだろう。お母さんが亡くなってから私を育ててくれた人。多くを語らないし、時々冷たい目で私を見ていたけれど、私にとっては唯一の家族なのに。
町の入り口から家の方へと走る。パチパチと火花が弾ける音が耳の近くで聞こえる。煙で息が苦しい。
「お父さん!」
まだ火が来ていなかった家の扉をあける。リビングでお父さんと呼びかけるが反応はない。家のあちこちを見て回ったけれど、お父さんの姿はどこにもなかった。
「どこに・・・。なんでこんなことに・・・!」
何が起きているのか分からない。家に辿り着くまでに誰にも会わなかった。町の人はどこにいるのだろう。小さな町ではあるがこんなに人がいないなんておかしい。
不安で、不安で、どうしたらいいのか分からない。どれくらい家のなかでひとり固まっていたのだろう。外で何かが崩れる大きな音がして、逃げなくてはと思い出す。家の中にあるお金と大切なもの、食料を詰め込められるだけ入れた鞄を持って家を飛び出した。
「どうしよう・・・どこに・・・」
熱さと煙でぼうっとしながら、炎から逃げて町の西側にある川へと走った。そこに辿り着くまでもやはり人には会わなかった。
川の側に座り込んで町が燃えていくのをただ見ていた。町は一晩中燃え続けていた。
私はこうしてひとりになった。
炎が消えた町に戻った。そこにはなにも残っていなかった。あちこち歩いてみたけれど、人の姿はなかった。瓦礫だけがあった。夜のうちに涙は渇いた。父を探そうという気持ちは持てなかった。見つけたとしてどうしたらいいのか分らない。愛されていないから。彼は母しか愛していなかった。生きていたとしても私のことを探してはいないだろう。薄情なことだと思いながらも父に関してはもう会うことはないだろうと思った。
現実味のない現実にぼんやりする。靄のかかった頭の中に一つの疑問が浮かんだ
この小さな田舎の町に起きた大火事。学のない私にも分かる不自然さがあった。
火の回りの速さ。田舎なだけあってそれぞれの家は間隔がある。一軒燃えたからといって町の全てが燃えるはずがない。
そして、ここにいたはずの町の人がいない。いくら友だちがいなくて孤立していた私にも顔見知りぐらいはいる。彼らはどこに消えたのだろうか。火の消えた今も誰一人見かけないのはおかしい。
外から攻撃を受ける理由もない。他所の人が欲しがるような資源も財源もない。名の知れた有名な人もいなかった。
いくら考えたところで私には分からないだろう。何も知らない。
「これからどうしよう・・・」