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【第14話】ひまわり号について



「ご飯美味しかったなぁ。めっちゃボリューミーで」


 佳織は、水色のベンチに座る梨絵に話しかけた。単線のホームはがらんとしていて、蜃気楼で線路の先が少し歪んで見える。屋根に遮られていても、熱がこもっている分、暑さは収まらない。

 自動販売機で買ったミネラルウォーターを一口飲んでから、梨絵は答える。


「私たちが食べ終わる辺りから、お客さん何人か来始めてましたもんね。席もけっこう埋まって。地元の人に大事にされているお店なんだって伝わってきました」


「せやなぁ。地方のお店の理想形、いう感じやったね」


 話していても、滞留する暑さに変わりはない。二人ともすっかり参ってしまって、どちらからかは分からないが、口数も減ってきていた。スマートフォンを持つ手も、ほんのりと湿っている。電波状況が悪いのか、画面はロード中のままだ。

 梨絵はハンカチで、額の汗を拭った。何か帽子を被ってくればよかったと、切に思う。出かける前に塗ってきた日焼け止めが、効果を発揮してくれることを祈るばかりだ。


 列車はわりあい早く訪れた。

 アナウンスに佳織は立ち上がり、到来を待つ。入線する列車がMRT300系であることは、すぐに分かった。ここまで乗った二両は、白地に水色と青のラインが引かれていたが、今度は正面が水色一色に塗られている。


 目の前に停車した列車を見て、梨絵は思わず、腰を上げた。

 側面に向日葵の絵が描かれていたからだ。簡素化されて影になってしまっているが、大輪の向日葵が二輪描かれていて、両者が茎でつながれている。誰に言われなくても分かる。

 飲食店の女性が言っていた「ひまわり号」だ。


「なんですか、これ。可愛いじゃないですか」


「分かる?こないな列車って、旅にちょっとした彩りを、加えてくれんねんなぁ。思わず嬉しなる」


「こんな珍しい列車もあるんですね。これはわざわざ見る価値があるかもしれないです」


「この『ひまわり号』は、MRT系六両中四両あるから、水鉄からしたら、あまり珍しないんやけどな。ほな、もう出てまうし乗ろか。ドアのとこに段差あるから、気ぃつけてな」


 佳織に続いて、梨絵も列車に乗る。なるほど確かに段差がある。これは初見だと、躓きかねない。

 車内を見渡すと、天井に扇風機はなく、床の模様は体育館のようだった。窓は黒い桟で仕切られていて、ロングシートの正面にクロスシートがある。その奥にもクロスシートが連なっていて、長距離を走る列車みたいだ。

 「この座席の形式は千鳥配置いうんよ」と佳織が聞いてもいないのに、梨絵に教える。


 二人は、入り口から一番近いクロスシートに座った。喋るなら、向かい合ったほうが楽だ。車内には二人の他には簡単に数えられるほどの乗客しかいない。前のロングシートに座った男性が、本を読んでいる。シートの座り心地はややゴワゴワしていたが、座っていくうちに慣れるだろう。

 佳織は窓際にあるテーブルに、スマートフォンを置いた。


「どないする?カーテン閉めた方がええ?」


「いや、このままで大丈夫です。こちら側の車窓は、行きの時に見てないですし、車窓も鉄道旅の一部、ですよね」


 佳織は小さく頷いた。入ってくる日光は眩しかったが、眠るのでなければ何の問題もない。梨絵はテーブルの上に飲みかけのペットボトルを置く。日光が屈折して、空席を照らしている。


「ところで、この後どうするんですか。倉敷市駅に戻ってからの予定が、どうなるか分からなくて」


「決めてへんで。呉線には乗ろう思てるし、宿は広島の方に取うたるから、今日中にそこまでは行くけど、まあ言うてみれば暇やね」


「いつもそんなざっくりとしたプランで、旅してるんですか」


「せやで。ぎちぎちに固めてもうたら、おもんないやろ。こないなんは余裕が大事やからなぁ。にしても、どないしよ。倉敷の駅前にある美観地区を散策しても、だいぶ時間が余ってまうしなぁ」


 その間際、梨絵の頭は閃く。

 確かあれは三年前の映画。東京オリンピックの開会式に関連して、ちょっと話題になったアニメーション。確かあの映画は、前半は岡山を舞台としていたはずだ。高台から見下ろす瀬戸大橋。

 スマートフォンを出して調べてみる。ここからは片道一時間はかかるけれど、舞台も集中している。


「あの、門司さん」


「どないしたん?」


「ちょっとこの辺りが舞台になってるアニメを思い出しまして。その舞台に行ってみたいんですけど、時間って大丈夫ですか」


「別にええけど、それってどこにあるん?」


児島(こじま)です」


 踏切の音が、過ぎ去るように流れた。



(続く)

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