第三話
早いもので前世の記憶が戻ってからもうすぐ一年である。 先月、誕生日を迎え無事に四歳となった。 そして来週はカイル兄さんの誕生日という事で本日王都より父が領地へ戻ってきた。
そう、カイル兄さんは七歳になるためついに精霊契約を行うのである。
「カイル、アレン久しぶりだが元気にしていたか? シルビア留守の間迷惑をかけた。」
久しぶりに会う父は一人一人力強く抱き締めた。 そして母と熱烈なキスを交わす...。
(元日本人としては、両親のキスシーンを見せられて、どういう顔をすればいいかわからん...。)
父は真っ赤な髪色で、さすが軍を率いているだけあり引き締まった筋肉で背も高い。 ワイルド系のイケメンである。 母は栗色の髪を腰まで伸ばし、ほんわかした雰囲気で背は平均的だがスタイルのいい美女である。 この二人の子供なら将来に期待がもてそうである。 ちなみにレイン兄さんは赤みがかった金髪で、カイルに兄さんは父と同じ赤髪、俺は母さんと同じ栗色である。
「カイル、剣の稽古はしっかりしているか?」
父は、兄の頭を撫でながら優しく尋ねる。
「父上、剣の稽古は毎日しております。 今はケインとの模擬戦をおこなっています。」
「カイルは、剣の才能があるからな。 頑張れば近衛騎士団に入る事も夢ではないな。」
そう、ケイン曰くカイル兄さんはどうやら剣の才能があるようだ。 実際午前中の稽古の際ケインとの模擬戦を見学してみるととても六歳児とは思えない動きをする。 体格や力の差で正面から受け止める事こそできないが、うまく受け流したり回避したりと体さばきが非常にうまい。 将来は近衛騎士団を目指しているが、王族の警護が任務であるため、貴族特有のコネなど通用せず完全実力主義のようだ。
「アレンも剣の稽古はどうだ?」
今度は俺の番である。 毎日素振りはしているが、はっきり言って自分には剣の才能はないと思う。 しかし稽古は真剣に取り組んでいるので素直にそう答える事にする。
「父上、今は毎日素振りをしております。 カイル兄上ほどうまくは振る事ができませんが、少しずつ上達していると思います。」
「そうか。 素振りや型の稽古とはいえ真剣に取り組む事でとっさの時の体さばきに繋がる。 アレンはまだ四歳ではあるが努力を怠らないようにな。」
父は満足そうに頭を撫でてくれる。 精神年齢的に非常に恥かしいが、愛情が伝わり良い父親であるなと感じる事ができる。
「あなた、アレンは本を読む事が好きで物覚えも良く、もう文字も結構読めるのですよ。」
「そうか。 アレンもレインのように頭が良いのかもな。」
なかなか会えない息子の成長を聞けて父の機嫌がよくなる。 レイン兄さんは剣の才能は並みではあるが、頭の回転が早く優秀である。 将来は父の補佐官をしながら軍について学び父の後を継ぐだろう。
それからカイル兄さんの誕生日まで家族団欒を楽しんだ。
そして一週間が過ぎ今日はカイル兄さんの精霊契約のため、精霊教会へと向かう日がきた。 父と母とカイル兄さんと馬車に乗り領内の精霊教会に向かう。 今まで幼いから屋敷の外へ出た事が無かった為、馬車の中から初めて町並みを見る。 石作りの家が並び整えられた町並みは美しく感じた。 そうしてひときわ立派な建物につく。 見た目は前世の教会のようではなく神殿に近いような建物であった。 馬車を降り教会内に入ると、法衣を着た人々に迎えられた。 その中でも一番豪華な法衣を着た老人が一歩前へと進んできた。
「シーヴァス様、ようこそおいでくださりました。」
「うむ、司祭殿。 今日は息子のカイルの精霊契約を受けにきた。 よろしく頼む。」
「畏まりました。 それではカイル様ご案内させていただきます。」
「はい、よろしくお願いします。」
カイル兄さんは緊張しながら案内に従い奥へと進んで行った。 どうやら契約の際は一人で向かうようだ。
「それでは、精霊契約が終わるまでお待ちいただく部屋へご案内させていただきます。」
一人残っていた女性の案内で待機部屋へと案内される。 精霊契約とはどれくらいかかるのだろうか。
「今日初めて屋敷の外に出ましたが、色々なお店があり人々で賑わっているのですね。」
「そうか、アレンは初めて町を見たのか。 シーヴァス領は王都からは離れているが、他国である帝国や聖国との交易をむすぶ都市の為、他の都市よりも栄えているのだ。」
シーヴァス領は帝国と聖国からの街道と王都からの街道が交わる点であり、交易拠点として栄えているようだ。
「そうなのですね! あとで色々見てみたいです!」
「そうだな、精霊契約は浄めの儀式など時間がかかるから護衛をつれて近くなら見てきてもかまわないぞ。」
「よろしいのですか? それでは少し街を見てきたいと思います。」
待っているのも暇だと思ったがチャンスである。 お言葉に甘えて少し見学をしてこようと思う。 気分は観光旅行だ。
「それでは行って参ります。」
教会の外へ出て護衛の兵士二人と街をブラブラ探索する。 雑貨屋のようなお店や武器屋など見ているだけでも楽しく充実した時間を過ごせた。 一時間ほどブラブラし教会へと戻る事にする。
教会へと向かう途中、何気なく路地を覗いた時、少し先の方に人が倒れているのが目についた。 思わず護衛の兵士に声をかける。
「ねえ、あそこの奥に人が倒れているみたいだから様子を見てくれないかな。」
「畏まりました。 アレン様は万が一の為、後ろにいてください。」
兵士の言葉にしたがい、素直に後についていく。 奥へと向かい近くで確認する子供のようである。
「おい、大丈夫か?」
声をかけるとわずかに身動きをしている。 どうやら生きてはいるようだ。 暗くてよく見えなかったが近くにきたことで、はっきり見えた。
倒れているのは女の子のようだ。 女の子のようではあるのだが...。 真っ白な髪をした頭から耳がはえている。 犬耳のような耳である。 そして同じ色の尻尾もはえている。
初めて見るがどうやら獣人のようだ。 年は自分と同じくらいに見える。 さすがにこのまま放置する事などできるはずもない。 兵士に抱えてもらい教会へと戻る事にした。