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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第2章 カナタ・タユーリ
82/96

第80話 総合適性の試験 開始

諸事情により編集しました。

旧タイトル“総合適正の試験 開始”

星暦2025年、夏の15日、土の日、昼


 休憩時間が終了した私たち冒険者登録試験の参加者、計123人は時間になると一度冒険者ギルド1階のフロントに集合して、そこからギルド職員の指示の下で王都メラルフの外へと移動する。移動する際、ギルド側から参加者1人ずつに背負いバックを支給してくれた。中身を確認すると、1ℓ程度しか入らない空の水筒、乾燥させて歯応えがあり過ぎるパンが2個、少し汚れた粗悪な寝袋、簡素な治療手段として1人分の包帯とタオル、そこそこ大きい麻袋が1つ、最後に何やら1枚の紙が入った謎の封筒が詰められてある。ギルド職員曰く、参加者の殆どはサバイバル経験がないためギルド側の配慮だそうだ。確かに、少なくとも私たちはそんな訓練したことがないため、そのような配慮は正直に言って嬉しい。遠慮なく使わせてもらおう。

 現在王都メラルフから出た私たち参加者は、ずっと歩き続けているせいか、それとも夏の日差しのせいか、参加者の数名が疲労の汗を流し始めている。防具だけでも十分重量感があるのに、それに加えて武器や先のバックのせいで体重は大きく増量している。普段着慣れていない人からしたら足が重くなるのも無理はない。しかし先頭には強面ギルド職員が率いるギルド職員たち、最後尾は先の試験に引き続き冒険者たちがいる。悪印象を見せまいとみんな必死に歩き続ける。それに比べて私のパーティーメンバーは、まるでピクニック感覚で楽しそうに談笑していた。


「アハハハ!楽しみ~!1度だけ野宿とかしてみたかったんだぁ~。・・・ってかクアルくん、何でバックを槍に通して持っているの?」


「翼があるから背負えないんだよ!ったく、余計な手荷物が増えたわい・・・。」


「はぁあ~~・・・超ぉねむぃい~・・・。」


「ほらケマくん頑張って。試験が始まるまでの辛抱だから。」


 他の参加者たちは緊迫した雰囲気や力んで肩に力が入っているというのに、打って変ってとても落ち着いている。これから一晩サバイバルするというのに全くもって頼もしすぎる。いや、あれはメンバーたちなりの緊張の解し方なのだろう。全員、表情や言葉はゆるい感じを出しているが、その眼は心なしか揺らいでいる。きっと心の内で多少なりの不安が募っているのだろう。当然私にもある。初めての野営、しかもそれが試験なのだからよけいにだ。だけどこのまま何も言わずにその不安を募らしたままにしてはいけない。私も談笑に混じって少しでもパーティーの士気を平常に保とう。



 王都メラルフから出発して1時間が経過した。運悪く雲1つの無い快晴のせいで、炎天下の下で歩く参加者たちは防具の下の服が汗で濡れ始めている。私のパーティーメンバーたちも同様だ。どんなに体力や気力があっても熱さだけはどうしようもない。参加者たちがもう限界を迎えて弱音を吐こうとすると、目的地が見えてきた。


「見えてきた、あそこだ。諸君らが一晩サバイバルを行う場所である。」


 先頭にいる強面ギルド職員はそう言いながら、前方の崖の下にある広大な森に指をさす。そこは太い樹木が生え渡り、視界に入る色は淀みのない緑、離れた個所で太陽の光に反射する長くて幅のある川、耳をすませば微かに聞こえる小鳥たちの鳴き声、そして果てしなく遠い所には一角の高山。どうやらここが総合適正の試験を行う『メラルフ高山』のようだ。

 強面ギルド職員はここで足を止めて、一度参加者一同を座らせた。休憩を兼ねた最後の確認をするのだろう。他のギルド職員や冒険者たちも参加者たちから距離を取って、私たちと強面ギルド職員で完全に孤立させた。


「それではこれより最終試験、総合適性の試験についての最終確認を行う。まず初めに諸君らにはこの森にて一晩過ごしてもらう。明日、正午6時にこの場から終了の合図を出す。それを聞き次第速やかに戻ってくるように。そして、明日の朝までに諸君らにはそれぞれ個別で依頼をこなしてもらう。その依頼の詳細は諸君らのバッグの中の封筒に記してある。個々にどんな依頼を配布したのかこちらは把握している故、誤魔化しても無駄だ。」


 どうやらあの謎の封筒は依頼内容についてのようだ。後でメンバーたちと確認し合わないと。パーティー内で何人か同じ内容だったらありがたいのだけど、それ程都合よくはないだろう。後で全員のと確認し合って計画を立てないといけない。


「“例のルール”は日が完全に落ちた夜から行う。我々のタイミングで勝手にやらせてもらうがため注意するように。」


 そう、この試験にはより本格的なサバイバル感を出すため、ギルド側でもう1つルールが設けられた。それは“盗賊の襲来”。盗賊とは、国によって定めた法や秩序を破り自由奔放に暴れまわるお尋ね者、簡単に言うと犯罪者のことだ。当然そんな者たちを入れる街町など存在せず、彼らは基本住む場所が無く洞窟や高山などで暮らしているそうだ。

 一見、冒険者側からしたら無関係にも見えるけど、実は彼らの存在は時によっては大きな死活問題でもある。その問題一例は、冒険者が依頼等の理由で野宿している眠りについた隙に、金品目当てとして盗賊たちに夜襲を仕掛けられる事。その時の冒険者は当然すぐに反応できずに一方的な暴力を受けて、最悪命を落とすような事件が少なくない。近年冒険者ギルド本部は、盗賊対策、盗賊と出会った時のための備え等の対抗策を講じ続けている。

 その一環及び新人育成を兼ねて、この総合適正の試験にその様なルールを組み込んだというわけである。つまり盗賊に襲われた場合でもどの様にして対応できるのか、それも試験内容というわけだ。設定としては、後方の現役冒険者たちが盗賊役として参加者が集めた依頼品目当てに襲って来る。参加者はそれを死守と同時に撃退する。因みに盗賊を撃退しても、依頼品の免除はならないらしい。つまりは戦う意味はない。私個人このルールが一番面倒くさいと感じているが、試験である以上仕方がない。

 強面ギルド職員がそのルールの再確認をすると、冒険者たちが“ふっふっふっ”と小さく笑い出した。参加者たちに恐怖感を抱かそうとしているのだろう。頑張っているところ申し訳ないけど、演技感が丸出しで全く怖くない。むしろ数名呆れている。もっと前もって練習してほしいものだ。


「尚、この高山には当然モンスターが生息している。事前に冒険者たちがある程度の討伐・後退をさせてはいるが、いつまたこの周辺まで戻ってくるのかは我々も予測不能だ。だからもしモンスターと出くわせた場合、速やかに逃げることを進める。」


 私はむしろ会って戦いたい。討伐すれば依頼品免除されるのだから。正確にはモンスター2体討伐に対して1人分免除になる。私たちの場合だと10体倒せれば良いと言うこと。細々と依頼品を集めるよりかは楽だ。


 訓練の一環で、キキラの街の大人たちと共によく魔獣を討伐してきたから、私たちはそれなりにモンスターと戦える自信はある。しかし逆に言うと私たちは砂漠地帯に生息するモンスターとしか戦ったことない。『メラルフ高山』には一体どんなモンスターが生息しているのか全く知らない。自信はあっても気は引き締めておこう。


「説明は以上だ。それでは冒険者登録試験の最終試験・・・総合適性の試験の開始だッ!!」


【泥魔法:コンバート・ワ・ブレイク】


 試験の最終確認を終えて強面ギルド職員がそう叫びながら力強く真下の地面を殴りながら、大規模な魔法を発動した。座っていた地面は瞬く間に泥へと変わり、私たち参加者一同は魔法によって造られた急な斜面を泥によって流されて崖の下へ落ちていく。さしずめウォータースライダーの泥バージョン。泥の濁流には誰一人抗えなかった。


「それでは諸君らの健闘を祈っている!」


 そう言いながらこの大規模な魔法を発動した強面ギルド職員は、下へと流れていく泥を蹴りながら悠然と上へ登り、他のギルド職員や冒険者たちと合流する。彼らが私たちから距離を取ったのは巻き込まれないためだったのか。流石の私でもこれほどの急展開には焦るしかなかった。


 ヤバいヤバいヤバいヤバいッ!!マジでかッ!?ここまでするのかッ!?なにが“我々は諸君らの安全を第一に考えている”んだ嘘つきー!!最悪これで死人出るよ!?一体何を考えているの、バカじゃないのッ!!


 ギルド側で事前に、これで怪我人が出るのかどうか冒険者の協力をしてもらい実証していた。結果は怪我人はなし。安全性はあると認知したギルド側はこれ採用した。つまりはこれで死人どころか怪我人は出ない。しかしそんな事、当然私たちは知るわけがない。参加者全員、泥に体を取られてただ流されるしかなかった。


「「「「「わぁああああぁぁぁぁ!!」」」」」


 勢いよく落下する参加者たちは大怪我覚悟で着地しようとする。何が何でも生き抜こうと決意する。

しかしそんな覚悟は無用だった。参加者を巻き込んで崖の下へと濁流する泥は地面に触れた瞬間、低反発の布団の様な質感へと変わり、参加者たちを落下の衝撃から守ってくれた。濁流が治まり私は自信が無事なことに安堵のため息をする。


 あぁ~ヤバい・・・本当に死ぬかと思った。地球のジェットコースターでもあんな臨死体験はできないぞ。・・・って他のみんなはッ!?


「い、生きてる・・・?」


「うぅ~・・・土で服の中がぁ・・・。」


「ばっきゃやろぉ!!死ぬところだったぞぉぉ!!」


「クアルくん落ち着いて。多分これも試験の一環じゃないの・・・いくら何でもやり過ぎだと思うけど。」


 パーティーメンバーの安否を確認するためすぐに泥から抜け出して、みんなを探し始める。4人とも私の周囲にいる。幸運にも先の説明の時、全員が密集していたおかげで離れずに済んだようだ。すぐにパーティーメンバーに声をかけて怪我の確認をしてもらう。全員怪我はなく、せいぜい服が汚れた程度。何度も何度もしつこく確認して、本当に怪我はないと理解すると安堵のため息をつく。


「他の参加者も無事みたいだね。この泥がいいクッションとして守ってくれたんだ。」


「まあ十中八九、ケガをしない計算であんなことしたんでしょうね。にしても1人であんな大規模な魔法を・・・やっぱり大人ってすごいんだ。」


「アハハハ!さっきは焦ったけど、今思い出すとドキドキして楽しかったねぇ~!」


「・・・今ので眠気が覚めると思ったけど、まだ眠いや・・・。」


「お前本当に逞しいなぁ。」


 突然の開始に合図だったけど、パーティーメンバー全員は気が多少の動転をみせるけど平常心を保っている。普通の子供ならここで多少の怯えや泣いたりするはず。そう考えると本当に私のパーティーメンバーたちは逞しく育ってくれた。始まりはどうであれ兎にも角にも、冒険者登録試験の最終試験である総合適性の試験がつい開始した。前方に何本も立ち並んでいる太い大樹たちを見つめながら、再度心の帯を締めなおす。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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