第7話 旅占い師ロップとの対面
諸事情のため編集しました。
薄めのブロンドの髪色を持ち、マントの中に革の防具を着ている獣人族の女性ロップさんが自己紹介をしてくれた。俺らも続いて自己紹介をるす。
「私ナエナ!ナエナ・マーシェナ!こっちは幼馴染みのアスタくん!」
「・・・どうも。」
俺はしてもらったと言った方が正しいか。軽く自己紹介が済み、俺ら3人はその場に座り会話を始めた。
「わぁ~~、獣人族だ!初めて見た!ねぇねぇ、その耳触ってもいい?」
「ふぉっふぉっふぉ、ええぞい。ほれ!」
ナエナちゃんはロップさんの横に移動し耳を触らせてもらった。気持ち良さそうに触っている。先まで睨んでいたのが嘘の様に彼女は上機嫌になる。初めて見る獣人族に興味を示していた。そしてそれは俺も同様だ。ペレーハ村は人族しか暮らしておらず、他種族の容姿を見られる機会などなかった。早く見てみたいとは思っていたのだけど、まさかこんなにも早く他種族に会えるとは思わなかった。
「もふもふ!・・・キツネさん?」
「そうじゃ、わしは狐種じゃ。」
そういえば獣人族は人種が分かれていて、耳の大きさや形も異なっているんだったな。改めて見ると、ロップさんの耳はキツネのようにとがった形をしている。
「あ、あの・・・。」
ナエナちゃんに耳を触らせている中、俺はどうしてもロップさんに言いたいことがあった。彼女が触り終わってから言うべきだろうが、俺は早く言いたかった。
「さっ・・さっきは・・・すいませんでした。勝手に・・・怪しいと決めつけ・・・逃げようとして。」
今までの会話の中でロップさんは良い人だと分かった。特にこれと言った理由や証拠はないが、直感的にこの人は大丈夫だと俺の心は思った。だから俺はロップさんを侮辱した発言に対して、謝罪がしたかった。おそらく嫌われているのだろう。それでも俺は謝りたかった。
「ふぉっふぉっふぉ、気にすんな気にすんな。もう過ぎたことじゃ。」
不気味な、いやおかしな笑い声上げ許してくれた。表情はまた笑っていた。その笑顔を見た俺は、本当に気にしていないと心底理解した。
「怒って・・・ないんですか?」
「ん、怒ってないぞ?もしさきの行動を気にしておるのなら、むしろわしはおぬしに感服しておる。」
俺に感服?・・・言っている意味が分からない。
「おぬしらは知らんと思うが獣人族は基本五感が良いが。わしの場合は耳じゃが、先ほどのおぬしらのやり取り、しっかりとこの耳に入っておったんじゃ。」
それは俺でも知っている。獣人族は索敵のエキスパート。聴覚だけじゃなく嗅覚や視覚など、人種によっては様々な分野に長けている。だからこそ分からない。あの会話を聞いてなぜ、ロップさんは俺に感服しているのかが。
「自分たちの身の安全を考えたうえでのあの発言、とても若人には思えなくてのう!わしは感心したと同時に感服したじゃ!おぬし、なかなか賢いのう。」
どうやらロップさんは、俺の自衛能力を高く評価してくれているようだ。だけど俺はそれを素直に受け入れられなかった。
・・・違う、違うんだロップさん。俺はあなたが思っている程、優れた人間じゃない。現にあなたが迫ってきた時、俺は怖気づいて動けず、結果的にナエナちゃんに助けてもらったみたいなもんだ・・・。
「ねぇねぇ、そういえば何でロップさんはあっちから来たの?あっちは森だけで何もないって聞いてるよ?」
俺とロップさんが対話している中、いまだにキツネ耳を触っているナエナちゃんが別の話題を振ってきた。確かにその件については俺も気になっていた。森の向こう側は崖になっている。
「いや~説明しても良いが、ちと長くなるぞ?それでもええか?」
「うんうん、教えて!」
興味津々にナエナちゃんは首を縦に振った。耳を触るのをやめてその場に座り話を聞いた。
話を聞くと、ロップさんは旅占い師だそうだ。文字通り一つの場所にとどまらず、点々と旅をして占いをしている。前に行った村から次の村に行く道中、運悪くゴブリンの群れに遭遇し、命からがら逃げきれたそうだ。しかし逃げ切ったその先は崖でどうするべきか迷った。引き返すわけにもいかないのでそのまま崖に沿って移動してきた。そしてロップさんが持っているスキル“索敵”で魔物の数が少なかった森に着き、そのまま森の中をまっすぐ突っ切って歩いているといつの間にか森を出て、元気のいい少女に声をかけられ、今に至るというわけだ。
これは予想できるわけがない。まさか崖に沿って歩いてくる人がいるとは。魔物から逃げ切れたとか、スキルを使って安全確認と普通に言っているが、この人おそらくかなりの実力者だろう。腰にある剣も納得ができる。
「ねぇねぇ、それじゃどうやってアスタくんの後ろに一瞬で着いたの?」
「おお、あれか?あれは土魔法の『土中移動』じゃ!わしのオリジナル魔法じゃ!すごいじゃろ?」
オリジナル魔法?!そんな魔法初めて聞いた!
母さんの本は様々あるが、オリジナル魔法と記された物はなかった。興味がわき、俺も続いて質問した。
「あの・・・オリジナル魔法って・・・何ですか?」
「ん?あ~、ある程度使いこなした魔法属性と自分が持っているスキル等を、どんな魔法にしようかと想像しながら統合して創る・・・平たく言うと、自分だけの特技みたいなもんじゃな。」
ロップさんは難しそうな顔をしながら説明してくれた。どうやら冒険者なら誰しも3つや4つ以上は持っているそうだ。そしてロップさんは、この魔法のおかげで魔物の群れから逃げ切れたという。流石に魔物の群れからそう易々と逃げ切れるわけではないそうだ。帰ったら調べてみよう。
「ところで、お嬢ちゃんたちは・・・。」
「お嬢ちゃんはやめて!ちゃんとナエナって呼んで!」
そんな食い気味で訂正しなくても・・・そんなに名前で呼ばれたいのか?俺はどっちでもいいけど。
「おっと、すまんすまん!ナエナたちは何でこんなところにおるんじゃ?」
「アスタくんについて来たらここに来た。」
訂正して今度はロップさんの方から質問してきた。それに対してナエナちゃんが紛らわしい返答をする。それだと俺がここに連れてきたようと誤解される。俺は慌てて返答した。
「え、えっと・・・散歩をしていて・・・気づいたらここに。」
「・・・ナエナを連れて?」
カタコトで話し、さらに誤解を生むようなことを言ってしまった。早く訂正しないと。
「ううん。私が村から出るアスタくんを見つけて、こっそり後ろからついていったの。驚かせようと思って!」
隣のナエナちゃんが代わりに訂正してくれた。やはり俺を驚かせようとしてついてきたのか。うすうすは気づいていたけど。ロップさんの“ふ~ん”と言い俺を見ている。少し失望されたか。それもそうだろう。自分が感服した者が、やはりまだ子供と思われるような行動をしているのだから。俺はロップさんとの視線をそらし、ただ黙った。
「・・・そうじゃ!これも何かの縁じゃ、わしが2人を占ってやろう!」
唐突にロップさんは声を上げた。肩にかけてあるカバンに手を入れて、古典的な占い師が持ってそうな水晶玉を取り出し、俺たちに見せた。
「きれい・・・。」
隣にいるナエナちゃんが純粋な感想を言う。確かに綺麗だ。玉は水色で、太陽の光で輝いて見える。
前の世界で水晶玉なんて見たこともなかったから俺も初めて見た。俺もナエナちゃんもその水晶玉に釘付けである。
「わしの占いはよく当たるぞぉ。さあ、どっちが先にやりたい?」
ロップさんは自慢げに語って俺らに順番を決めさせた。1人ずつしかできないようだ。
よく当たるということは占いで不幸な将来が見えたらその通りになるということなのか?占いに興味あるが、もしそうなったら・・・・・嫌だな。
「アスタくん、私が先で良い?」
俺が考えている中、ナエナちゃんが要求してきた。好奇心旺盛な彼女だからそう言うと思っていた。
「いいよ・・・先にやってもらって。」
「やったー!ありがとう!」
俺が承諾するとナエナちゃん満面の笑みで喜んだ。どうやら俺以上に興味があったそうだ。先でも後でもあんまり変わらないから俺はどっちでもよかった。ロップさんはナエナちゃんの前に水晶玉を置き、両手をその上に置いた。
「それじゃあ始めるぞ・・・。」
ロップさんの表情が真剣になり、水晶玉が徐々に赤色に光りだした。置いてある両手を撫でるように水晶玉にを触り、光は一定の輝きを保ちながら玉の中の模様がうっすらと渦巻いているように見える。ナエナちゃんは水晶玉に惹かれ、前屈みになって見つめている。そんなに近づくと目が悪くなりそう。
「・・・ふむふむ・・・ほほ~?」
ロップさんは水晶玉を見つめ何やら独り言を言いだした。どうやら何かが見えているようだ。
「ナエナ、いま何か頑張っていることはあるか?」
「えっ、頑張っていること?」
何か悟ったような顔を見せたロップさんは、ナエナちゃんに質問した。突然のことに驚いたのか、ナエナちゃんはすぐに返答ができなかった。
「・・・あ、私いつも勉強してる!あと剣の稽古とか魔法の修行とか!」
ナエナちゃんは自分の日課を思い出し、声を上げ返答した。それを聞いたロップさんは占いを続けた。
「ほほ~すごいのう。ナエナ、おぬしは将来すごい剣士になれるじゃろう。誰もが憧れる強くて可憐な剣士にじゃ。そのためにも、いま頑張っていること、これからも続けるんじゃぞ。」
「ほんとう!」
「ああ、ほんとうじゃ。頑張るんじゃぞ。」
「うん!これからも頑張る!」
ナエナちゃんは嬉しそうな表情を見せる。それもそうだ、ナエナちゃんの夢は両親みたいな強い冒険者になることだから。自分の努力が将来報われるのだから誰だって機嫌は良くなる。
誰もが憧れる強くて可憐な剣士かぁ・・・。この占いは多分当たるだろう。ナエナちゃんは意外に真面目な子だし、この先も勉強も修行も頑張り続けるのだろう。そして、俺は彼女が将来どんな女性になるのか知っている。いや、予想ができるといった方が正しいか。
「よし、次はアスタじゃな。よっと。」
「はい。よろしくお願いします。」
ロップさんは水晶玉を俺の前に置き、ナエナちゃんと同じように占いを始めた。水晶玉はナエナちゃんの赤色に対して、俺には青色に光った。
髪の色に関係しているのか?不幸な将来じゃありませんように・・・。
「・・・んッ!?」
ロップさん真剣な表情が急に変わった。眉間にしわを寄せ、何かに驚いているように見える。不安に感じた俺は、思わず視線を水晶玉からロップさんへ変えた。
えっ、本当に不幸な将来でも見えてるの!?
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。