第5話 魔獣の肉
諸事情のため編集しました。
ブラックウルフの死体をその場で血抜きし、俺は1匹で叔父さんは2匹を担いで持って帰っている。今の気持ち話はっきり言うと、獣臭がかなり鼻につく。ちなみになぜ3匹かというと、流石に俺たちだけで6匹まとめて持って帰るのは無理と判断して3匹にした。本当は俺にもう1匹持たせたかったようだが、俺の負担を考え1匹にしてくれた。
俺の非力さのせいで・・・、叔父さんに申し訳ないと思った。
そして残した3匹は道具で火をおこし燃やした。一応火事にならないよう考えて、草木がない平地まで運んでからである。燃やす理由を叔父さんに聞くと、何でも魔獣の死体はそのまま放置するとアンデッド化してさらに狂猛な魔獣になるだそうだ。だから魔獣を倒した冒険者は責任取って処理するという暗黙のルールがあるらしい。冒険者もただモンスターを退治するだけではないようだ。
「アスタ大丈夫か?無理しなくても良いんだぞ?」
息を荒立てて運ぶ俺に叔父さんは気を使ってくれた。子供体型のせいなのか俺より大きさのブラックウルフを重く感じる。だけど妥協して1匹にしてくれた叔父さんにこれ以上の迷惑はかけられない。
「・・・大丈夫です。俺も・・・男なんで。」
「えらい、よく言った!頑張って運ぼうな。こいつの肉は本当にうまいぞぉ!」
叔父さんは笑顔でほめてくれるが、俺にもっと力があればと考えてしまう。俺たちはゆっくりと森の中を歩き、村に帰った。
◇
星暦2019年、夏の32日、闇の日、夕方
俺が歩くのが遅いせいで村の北東門が見えるまでこんな時間になってしまった。道中魔獣には出くわさなかったが、俺の体力がないせいで休憩を5、6回ぐらいした。昨日のナエナちゃんとの遊びといい、連続で体を酷使している。もう膝を伸ばすのもつらい状態だ。
「ふぅ~、ようやく村に着いたなぁ。アスタ、よく頑張ったな!」
叔父さんはまた俺をほめてくれた。なんだかその言葉を聞くと、すごくうれしく感じる。門番の人に魔獣の死体だと確認してもらい、俺たちは数時間かけてようやく村に着いた。
家に着くと、ちょうど父さんがお店を閉めていた。父さんが俺たちに気づくと歩み寄り、俺が抱えているブラックウルフを持ち上げた。
「おかえり、アスタ。お疲れ様。」
俺の疲れた顔で悟ってくれたようだ。背中にあった重りが無くなり体が軽くなった。
「兄さん俺には~?」
「はいはいおかえりなさい。・・・全くいい年になっても甘えてきやがって。」
「おいおい、俺も家族だぜ。そのおかえりの一言で生きている心地がするんだよぉ。」
これ、甘えているのか?
横にいる叔父さんが笑いながら迫り、それに父さんが返答する。叔父さんの意外な一面を見た。父さんはそのまま肩でブラックウルフを担ぎ、俺と手をつなぎ家に帰った。疲れているせいか、父さんの手が温かく感じる。
◇
星暦2019年、夏の32日、闇の日、夜
家に帰ってまず俺は母さんに帰宅の挨拶をした。父さん同様に疲れた俺に察してくれたのか、母さんは褒めてくれた。そしてその後母さんの指示ですぐに風呂に向かった。風呂場の水はすでに満たされており、後は火の魔石を奥だけだった。
「おうアスタ!俺も入れてくれ~。」
魔石を置いた時風呂場の扉が強く開き、叔父さんもお風呂に入ってきた。うちのお風呂はそこそこ広く、子供と大人が1人づつ入ることができる。当然拒否する理由はなく、俺は叔父さんと共に湯につかった。
お互いの背なかを洗い合って風呂をすませて、俺たちは服を着て食卓に向かった。俺たちが食卓に着くと目を疑った。そこには今まで見たことがない肉料理の山盛りがあった。前の世界でもこれほどの量の肉料理を自分の目で見たのは初めてだ。
まさかブラックウルフ3匹分使ったのか?
「おお~、うまそう!アスタ、料理が冷めちまう前に早く座ろうぜ!」
そう言いながら用意されていた来客用の椅子に座っている叔父さんが座った。父さんもその隣に座っており母さんももうすぐ料理が終わりそうだったので俺も自分の席に座った。母さんは最後にもう一皿分の肉料理を持ってきた。俺の隣に座った母さんにこの量の料理を聞いてみる。
「クミル叔父さんがどうしても全部食べたいって言うのよ・・・。それに今日はアスタも頑張って運んだみたいだし、たくさん食べるでしょ?」
どうやら叔父さんの提案らしい。今日何回もうまいうまいと連呼していたな。よほど食べたかったのだろう。しかし俺もたくさん食べる前提で作ったのは納得ができない。別に肉料理が嫌いなわけではない。だけどこんなに多い肉料理は食べたくない。見ているだけでお腹いっぱいになりそうだ。
「そんじゃあみんな揃ったわけだし、いただこうか!」
パンッ
「「「「いただきます。」」」」
1つのテーブルにいる三人の大人たちは箸で肉を取りうまそうに食べた。俺もまずは一口と肉を取り食べる。
パクッ
「・・・おいしい!?」
思わず口で言ってしまった。癖のない味に俺はもう一度肉を食べた。
うん、おいしい!母さんだからうまいのか、ブラックウルフの肉だから旨いのか・・・。理由はどうであれ本当に、おいしい!
「クミル!お前その肉の取りすぎだ!」
「いいじゃないか!狩ってきたの俺だぜ!」
「やかましい!宿代としてこの肉か金どっちか寄こせぃ!」
「弟から金取る!?」
父さんと叔父さんは一つの部位を取り合っていた。どうやらあれが一番うまい部位らしい。まあ俺はどれもおいしく感じるからどこでもいいけど。
パクッ
うん、おいしい・・・。異世界での初めての肉、・・・おいしい。こうして俺たちはブラックウルフの肉を淡々と食べ、いつの間にか無くなっていった。
◇
「・・・ごちそうさまでした。」
食事を終えて満腹になった俺たちはしばらく食休みがてら世間話を始めた。主に叔父さんは明日どうするかという話だ。それ以前にまず何故叔父さんが急に家に来たのか俺はまだ知らなかった。話の腰を折って聞いてみる。
「たまたま近くに通ったから。」
だそうだ。何でも冒険者ギルドの依頼で、魔獣討伐のため隣の町まで来たらしい。仕事を終えてギルドがある都市に帰る前に立ち寄ってくれたそうだ。当時は仕事仲間と来たらしいが、先に帰ったそうだ。叔父さんが言っていた町は確かにこの村の隣だが、大人でも歩いて半日かかる距離はある。身内に会いにためとはいえすごいと思う。
俺の質問は終わり叔父さんの明日について話を戻すと、どうやら明日の早朝に家を出るらしい。来るのも急であれば去るのも急である。明日の昼頃に都市行きの馬車が隣の町にあるからそれに乗って帰るらしい。一応この村にも都市から往復する馬車はあるが、次その馬車がここに来て出発するのは三日後だからそれだと遅いらしい。それに冒険者という仕事はたった数日でも休むやけにはいかないし、他の仕事仲間を待たせるわけにはいかないだそうだ。
叔父さんの仕事仲間か・・・てことは当然冒険者だよね?一体どんな人たちだろう・・・。他の冒険者も見てみたいなぁ・・・。
世間話が終わると4人は各々の自由にした。父さんは仕事の資料に目を通し、母さんは皿を洗い、俺は皿を運んでテーブルを雑巾で拭いた。叔父さんは朝と同じ本をまた読んでいた。少し気になった俺はテーブルを拭きながら覗き込んだ。
いったい何の本を読んでいるんだろう?・・・『ウエスト大陸 英雄詩』?いかにも中二病が考えそうなタイトルだな。ウエスト大陸って確かこの大陸のことだよな・・・。本になっているから昔英雄がこの大陸にいたってことか?そもそも英雄ってまた冒険者とは違う職業ってことか?
屋根裏にある母さんの本には英雄に関するものなんてなかったから俺はあんまり知らない。俺も読んでみたいが、今は叔父さんが集中して読んでいるからまた別の機会に読ませてもらおう。
「アスタ、テーブルの掃除が終わったら部屋に戻っていいわよ。」
「分かりました。」
叔父さんの本に気を取られていたせいで俺は掃除の手を止まっていた。母さんの一言のおかげで俺は掃除を再開しすぐ終わらした。
「ふぅ~、・・・終わりました。」
「ありがとう、もう部屋に戻っていいわよ。その雑巾も洗うからお母さんにちょうだい。」
母さんに言われ雑巾を手渡し、俺は部屋に戻ろうと階段に向かった。階段を上がろうとするがその前に言わなければいけないことがある。
「もう寝ますので、おやすみなさい。」
「おう、おやすみ。」
叔父さんに軽く頭を下げた。叔父さんに続いて両親にも言い頭を下げ、俺は階段を上り部屋に戻った。部屋に入ると俺は昨日と同じようにベッドに入った。
今日は本当に疲れた・・・。いや、今日もかぁ・・・。
ベッドに入って仰向けになると昨日と同じように今日動いた分の疲れが一気に来た。だけど今日は外に出てよかったと思う。だってようやく魔法らしい魔法が見れたのだから。
それに叔父さんの剣を使った戦い・・・あれも見れてよかった。両方ともファンタジー感あってカッコよかった。疲れるのは嫌だったけど、それでも今日はその甲斐はあった。・・・にしてもここの世界の人間はあんなに速く動けるなんて。冒険者だからか?それともあれも魔法を使ったのか?・・・分からないことを考えてもしょうがない、今日も本当に疲れたしそろそろ寝るか。
そう思った最後に俺は睡魔に襲られ、徐々に眠って行った。
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星暦2019年、夏の33日、火の日、早朝
早く寝たおかげか早朝に目が覚めた。カーテンを開けて、今日の朝日を見ながら今日はどうしようか考えた。早起きは三文の徳という言葉が前の世界にあったが、この世界の子供は特に役割がない。毎年春の10日で10歳になった子供が王都にある教会に集まり、神の恩恵を受けて初めてそれぞれの進路が決められる。恩恵を受けた子供はとあることができるようになる。うちの両親は10歳までのお楽しみと言って教えてくれないが、残念ながら屋根裏の本で俺はすでにそれを知っていた。とにかくこの世界で早起きしても特にやることがないのであまり意味がない。
そういえば叔父さん今日の早朝に家を出るって言っていたな。家を出る前に別れの挨拶がしたい。まだ家に居るといいんだけど・・・。
俺が部屋を出て一階に行くと、叔父さんはまさに家を出ようとしていた。
「おおアスタ!早いなあ、もしかして起こしちまったか?」
叔父さんは申し訳なさそうに言うが、当然違うから俺は首を横に振った。一階には叔父さんだけ、テーブルには置手紙のようなものがある。起こすのも悪いと思って静かに出ようとしていたようだ。
それにしても今そんなに早い時間なのか?一階にある時計を見ると、5時前・・・確かに早いな。
「・・・こんな時間からもう出るのですか?」
「まあな。流石にスキル使ってもこの時間からじゃあないと間に合わないからなあ。」
ん、スキル?・・・そうか、この世界にはスキルというのもあった!?
スキルとは無魔法のことである。無魔法は人族なら誰しもが使える魔法。主に身体強化、状態異常などの補助魔法がほとんどである。一説によると、これといった目立った攻撃魔法がないため魔法と呼ぶのは不適切と言われスキルと言い換えられている。
これは本で知っていたが、魔法に気を取られていたせいで全然気付かなかった。叔父さんに教えてもらったが、どうやら昨日のあの速さはスキルによるもののようだ。確かにそういわれると納得できる。
「・・・なんて言うスキル?」
「『俊敏化』だ。魔力を使い続けることで速く動けるスキルだ。」
名前からしてすごい使い勝手がよさそうなスキルだな。俺もぜひ覚えたいな。使う機会が見当つかないけど・・・。
「んじゃ俺は帰るわ。じゃあな。」
そういうと叔父さんは玄関のドアノブを握って出ようとした。別れる前に俺は叔父さんにどうしても言いたいことがある。
「あ、あの・・・。」
「ん?」
緊張してまた言葉が詰まった。次会えるのはいつか分からない。叔父さんは良い人、もっと話がしたい。だから今、言わなきゃ。
「・・・また・・・き、来て・・・くれます・・・か?」
不慣れな言葉を言って恥ずかしくなった。顔が熱い、たぶん赤くなっているのだろう。だけどこれを言わないと次いつ叔父さんが来てくれるのは分からない。
「おう、また来るぜ!そん時もまた二人で出かけような!」
俺の頭を撫で、それを言った叔父さんは最後に家を出た。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。