第4話 冒険者と魔法
諸事情のため編集しました。
「大きくなったな、アスタ。叔父さんのこと覚えているか?」
・・・すいません。全く、覚えていません・・・。
俺は人の顔を覚えるのはそれほど得意ではない。しかしこの人、見たことがある気がする。この世界に転生して7年、俺は叔父さん?との目線をそらし思い出そうとしていた。
「覚えているわけないじゃない。最後に顔を見たの1歳か2歳の時でしょ。アスタ、この人はお父さんの弟のクミル叔父さん。」
洗い場にいる母さんがフォローしてくれた。そんな幼い頃はさすがに覚えていない。確か赤ん坊だった当時の俺は、常識が分からない異世界に怯えていちいち一人一人の顔を覚える余裕はなかった。母さんに言われて改めて叔父さんの顔を見てみる。
ああ、確かに父さんと少し似ているような・・・面影あるな。それにこの人も俺や父さんと同じサーネス家特有の濃い青色の髪を持っている。母さんを疑っているわけではないけど父さんの弟ってのは本当みたい。
ファンタヘルムの住民が地球の住民と違って様々な髪色をしているのは理由がある。例えばナエナちゃんの髪が赤色なのは火魔法に特化しているから、母さんの髪が茶色なのは土魔法に特化していると言ったように、この世界の人々の髪色は各初級魔法の属性に影響されている。髪色でその人の特化した魔法を示しているともいえる。うちの家系の場合は水魔法に特化しており、家系図では血を受け継いでいる者の大体は青色の髪の毛らしい。だから俺も母さんのように茶色の髪ではなく青色の髪で生まれたというわけだ。
「そんじゃまあ、ちゃんと挨拶するのは初めてというわけだな。俺はクミル、冒険者をしている。よろしくな、アスタ。」
「えっ、あっ、アスタ・・・です。はじめまして。」
クミル叔父さんは一歩俺に近付いて丁寧に挨拶をする。それに対して俺は礼儀良く一礼しながら挨拶を返す。俺は頭を上げた途端、クミル叔父さんの先の言葉に少し引っかかった。
えっ、今、なんて言った!?冒険者ッ!?これが・・・って、これがって言い方は失礼か。
冒険者とは、住民の支援からモンスター討伐まで幅広い尚且つ仕事量が多い職業。異世界ならではの仕事で、夢見る多くの者が憧れる仕事。しかし当然仕事によってはかなりのリスクがあり、場合によっては命も簡単に落としてしまうこともあるらしい。確かナエナちゃんの両親も引退した理由が、ナエナちゃんの誕生と同時にこれ以上危険を冒す必要がないと判断したから。
「いや~、本当に大きくなったな。時間が経つのは早いもんだなぁ。」
クミル叔父は還暦ぶったセリフを言う。その20代前半くらいの見た目にはとても似合わなかった。
「アスタ、朝ご飯用意するから席について少し待っていなさい。」
母さんに言われて俺は叔父さんと一緒に自分たちの席に座った。席に座ると時間を確認しに来たことを思い出して壁にかけてある時計を見た。
えっと時間は・・・10時前。
普段は6時半ぐらいに起きて両親と朝ご飯を食べているが、今日は確かに起きるのが遅い。きっと昨日のナエナちゃんとの遊びのせいだろう。筋肉痛や間接に痛みはないけど、思い出すだけでまた疲れが出てきそうだ。
◇
食事を終え食器を片付けた俺はテーブルに座ってまた本を読んでいるクミル叔父さんに歩み寄った。この世界に来て初の現役冒険者との対面。聞きたいことがたくさんあった。
「・・・ぁ・・・。」
「ん?どうしたアスタ?」
クミル叔父さんの席の隣まで歩み寄ったのは良いが前世からのコミュ障のせいで中々言い出せなかった。逆に俺に気付いてクミル叔父さんの方から声をかけてくれた。
「えっと・・・叔父さん・・・冒険者・・・ですよね。・・・魔法・・・使えます・・か?」
カタコトだが聞きたいことを聞けた。自分の中では頑張った方だと思う。
「一応使えるぞ。でも俺は剣を使って戦うから、あんまし使わないがな。」
そう言いながら叔父さんは、横に置いてあった剣を手に取り見せてくれた。鞘はシンプルな造形だが、初めて見た剣に俺は心躍らせていた。そして柄には強く握った跡がある。素人の俺でも使い込まれていることが伝わってくる。
「ん?まさかアスタ、魔法見たことないのか?」
「攻撃魔法は・・・見たこと・・・ない・・・です。」
攻撃魔法を見れていないのは、俺が自室に引きこもっているのも原因だがそれだけではない。この村自体あまり攻撃魔法を使う必要がないからである。
まずこの世界の魔法は攻撃魔法と補助魔法の2種類がある。攻撃魔法は殺傷性に優れており、その名の通り相手を攻撃するための魔法。補助魔法は簡単に言うと攻撃魔法以外の魔法の事で、誰でも使える安全で私生活を支える魔法。そしてこれらの魔法には1つ1つ名前があるが、基本無詠唱である。覚えている魔法を発動したい時、心の中で詠唱することで発動することができる。攻撃魔法と補助魔法との見分け方は発動してからじゃないとわからない。
そしてこの村自体が想像以上に平和である。少なくとも俺が外出した時には猛獣が侵入して来たことがなかった。だからの村人たちが攻撃魔法を発動している機会が見当たらず、その代わり俺の両親も含め村人が補助魔法を使うところはよく見かける。
だけど何と言うか・・・かなり地味。指の先からシャワー状の水を出して花を育てたり、手から弱い風を出して洗濯物を乾かしたりしている。最初見たときはすごいって思ったけど、思っていた魔法と違って派手ではなかったのですぐに見飽きた。
「そうかぁ、ないんか・・・見たいか、攻撃魔法?」
「えっ、いいんですか!?」
突然の叔父さんの提案に俺は驚いた。確かに見てみたいという好奇心はある。しかし親の立場的に母さんは許してくれるのだろうか。
「おう、もちろん!義姉さん、アスタを狩りに連れ行ってもいいですか?」
「大丈夫なの?」
「はい、少し離れた場所にいる低級モンスターしか出ないはずなので大丈夫ですよ。夕方までには帰ってきますんで。」
「・・・分かった、いいわよ。あんまり無茶なことしないでね。」
母さんは簡単に許可をくれた。俺は嬉しさのあまり性格に合わず小さくガッツポーズをとった。
ようやく派手な魔法を見られる。俺は自室に戻りすぐに身支度を済ませて外に出ようとした。
「あっ、アスタ、出かけるついでに店の表にいるお父さんにこれを渡してきて。」
これは・・・花瓶の中に埋めているやつだったけ?
母さんは俺を呼び止めて魔石を5、6個渡した。うちの花屋は花の鮮度を保つために、花瓶や花壇の中に土と一緒に木の魔石を入れている。しかもそれだけではなく木の魔石の効果で花の綺麗さも増すのだ。そのおかげでうちの花は近くの町から言い値で買われている。
「分かりました。では、行ってきます。」
家とお店が繫がっているので、お店の入り口でそのまま外に出ようと考えた。店番をしている父さんの横に近づき、軽く一礼した。
「父さん、おはようございます。」
「おはよう。今日はずいぶん遅かったな。」
父さんも母さんと同じことを言ってきた。叔父さんはすでに外で待っているので、急いで用事を済ませようとした。
「これ母さんからです。」
「ん?・・・あ~、これか!ありがとう、ちょうど欲しかったところだったんだ!」
俺は頼まれていた魔石を父さんに渡した。父さんは受け取ると早速商品棚に置いてある花瓶の中に1個づつ入れ始めた。
「父さん、叔父さんと一緒に村の外に出かけてたいのですが、・・・良いですか?」
母さんから許可をもらったが、一応父さんにも聞いてみた。
「クミルと?・・・分かった。気をつけるんだぞ。」
少し間があったが許可をくれた。よほど叔父さんの信頼が厚いという事なんだろう。
「では、行ってきます。」
俺はお店の入り口から外へ出て、待っている叔父さんと合流して村の外に出た。
◇
夏の32日、闇の日、昼
村の北東門から出て2時間ぐらい歩き、俺たちはいま森の中を歩いていた。今にも魔物が出そうな雰囲気だ。とても子供を連れて入るような所ではない気がする。道中叔父さんは俺に冒険者についていろいろ語ってくれた。
名誉、お金、スリル、冒険者をしている人達はそれぞれの理由でなったそうだ。当然命に関わる危険な仕事はあるが、普通に生活しても感じられない何かがあるらしい。ちなみに叔父さんはお金のためになったらしい。大金があれば綺麗な女性が寄ってくるという下心丸出しの理由であった。それでも俺は叔父さんをすごいと思う。恐らく叔父さんは今いるこの森以上の危険な場所に行って冒険しているのだから。叔父さんは話の度々決め顔をして、俺は笑みをこぼし森に入った時の不安が少し緩んだ。
ガサガサッ、ガサガサッ
そんな話をしばらくすると、少し離れた草むらが何かに当たって音を出した。それに気づいた俺たちは、叔父さんが先頭でその後ろに俺がついていく隊列になってゆっくり前進した。音がした草を回りこむように歩くと、音を出した何かが見えてきた。音を出した何かの姿を確認した俺たちは、ばれないようにその場の草むらに座り込んで観察をし始める。
黒い・・・犬?いや・・・狼か?
「アスタ、あれが魔獣だ。名前はブラックウルフ。・・・1匹だけなんて珍しいな。」
叔父さんは小声で教えてくれた。
魔獣は文字どうり獣の魔物。人型を保った魔物とは全くの別種で、その種類によって性能が違うらしい。そして何より異なっている点は、いま確認されているほとんどの魔獣の肉は調理して食べれるらしい。叔父さんは俺に魔獣について教えた後、その肉の旨さを長々と教えてくれた。どうやら叔父さんが北東門から出た理由は肉の確保のためでもあったようだ。西門には魔獣が近寄れない魔石が置いてあるのでやめたそうだ。
「さて、おしゃべりもここまで。アスタ、俺の横に来い。今からあいつを魔法で倒すから、よ~く見とけよ。」
叔父さんは後ろにいる俺を隣に呼び、討伐宣言する。ここからブラックウルフまで少し距離がある。とてもじゃないが普通では攻撃する前に気付かれてしまう。しかし叔父さんには謎の自身があった。叔父さんは右手の親指と人差し指を立てて拳銃のような形にし、ブレないように左手で右手首をつかむ。片眼をつぶって人差し指をブラックウルフに向け、静かに深呼吸をした。俺はどんな魔法が出るのか今から心が躍り始めた。やっぱり叔父さんもサーネス家の人間だから水魔法を使うのだろうか。
「・・・うまく当たるかなぁ・・・。」
今一瞬、不安な一言が聞こえたような・・・。
【水魔法:アクア・ピストル】
そう考えているうちに叔父さんの人差し指から水の弾が出て、ブラックウルフの頭を貫き仕留めた。ブラックウルフは声を上げる暇もなく、撃たれた衝撃で横に倒れた。予想していた通り水の魔法だったが、それよりも発動した魔法に対して驚いている。派手さはなかったが、それ以上の迫力にやっと魔法らしい魔法を見れた気分だ。
「ふぅ~、当たってよかったぁ~。」
横で小さくため息をする叔父さん。不安だったのなら、さっきの自信ある宣言は何だったのだろうか。俺は死体を見ようと立ち上がろうとすると、叔父さんが俺の肩をつかみ動かぬよう押さえた。
ガサガサッ、ッガサガサッ
「やっぱり群れだったか。さっきのははぐれていたやつか。」
今度はブラックウルフの死体の向こう側の草むらから音がして、そこから更にブラックウルフが5匹現れた。叔父さんはブラックウルフが群れで行動するのを知っていたようだ。だから俺を立たせないようにしたのだろう。しかし残りのブラックウルフの視線が明らかにこっちに向けている。しかもガルルルルと威嚇の声も出している。
ヤバい、かなりのご立腹だ・・・。これ絶対に場所バレているよな・・・。
「・・・アスタ、悪いがあいつらにはこれで倒させてもらうぞ。さすがにあの数を魔法だけで・・・。」
叔父さんは腰にある剣と手に取り笑いながら提案してきた。それに対してすぐさま首を縦に振った。俺のわがままで2人仲良く魔獣に食べられたくない。
「よし!それじゃあここにじっとしとけよ!」
【スキル:俊敏化】
そういうと叔父さんは柄を握り静かに剣を抜いて、叔父さんの周りの空気の流れが変わる。その瞬間、叔父さんは俺を置いて草むらから飛び出した。ブラックウルフに向かって走りかける叔父さんはとても速く、眼で追うのが精一杯だった。突然の登場に驚いたブラックウルフたちは四方八方に散ったが、運悪く先頭にいたものは呆気なく叔父さんの剣に餌食になった。的確に首元を切られた。
・・・すごい。あれが、冒険者・・・。
呆然と俺はそのまま叔父さんの戦いを見ているうちに、いつの間にか5匹のブラックウルフを倒していた。立ち向かうブラックウルフに対し、叔父さんは豪快に力強く剣を振って切り倒した。しかもすべて的確に首元を狙ったため一撃である。改めてすごい叔父を持ったと自覚した。
「ふぃ~、大量大量!よ~しアスタ、これ持って帰るぞ!今日はごちそうだ!」
剣を鞘に納めて嬉しそうに叔父さんは俺を呼んだ。呼ばれて叔父さんとブラックウルフの死体に近づくと、これをどうやって持ち帰るのかと疑問に思った。
・・・まさか手で持って帰るの?
血で汚れたこの魔獣の死体を見て明らかに嫌な顔をするが、叔父さんの前では我慢した。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。