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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第1章 アスタ・サーネス
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第3話 前世より

諸事情のため編集しました。

星暦2019年、夏の31日、光の日、夕方


 時間を忘れて草原で遊び続けていた俺たち、日が落ちて空の色が変わっていることに気付いた。周りを見渡すと草原にはもう俺たち以外の人はいない。みんなもう村に帰ったのだろう。俺達も今日はもう遊びはここまでにして、丘の上から少し休憩してから帰ろうとした。


「う~~~ん、楽しかった!2人とも服汚れちゃったね!」


「・・・特に俺がね。」


 横で背筋を伸ばし楽しそうにナエナちゃんはそう話した。ナエナちゃんの言うとおり今の2人の服や顔は土や砂、しまいには草で汚れている。まさにボロボロ状態、体力もボロボロだ。体力が回復すればまた遊び、そしてまた回復すればまた遊びの繰り返しだった。一瞬だけど遊びではなく一種の訓練かと感じてしまった。


「・・・今日はありがとう。俺なんかと遊んでくれて。」


 1日中一緒にいたせいか、今朝あった緊張が少しほぐれていた。まだ言葉にぎこちなさがあるが、今朝と比べればまだマシな方だ。


「全然いいよ!だってお留守番していても退屈だったから。」


 ん、お留守番?どういうこと?


 話を聞くとナエナちゃんの両親は朝から用事で出かけていたようだ。ナエナちゃん自身特に予定がなかったからお留守番を頼まれていたらしい。


 ああ、だからナエナちゃん家に居たんだ。・・・ん、待てよ。お留守番していたのなら、家に出ちゃまずいじゃないのか!?


「それ、大丈夫なの・・・お留守番?」


「大丈夫!アスタくんのお母さんが代わりにやってくれるって言ったもん!」


 ナエナちゃんが言うには、今朝ナエナちゃん家に来た俺の母さんにお留守番をしていることを言うと“代わりにお留守番をしてくれる”と言ってくれたらしい。ちょうどその時、お留守番の退屈さを知って時間を持て余していたようだ。確かに俺の母さんは人柄が良いと村でも評判である。でもだからといって他人に留守番をしてもらうというナエナちゃんの行動に俺は驚いた。子供とは言えもう少し警戒心を持つべきと思う。


「はぁ・・・今日は本当に疲れたぁ・・・。」


「あははは、アスタくんの体力がないからだよ!でもこれから光の日は私と遊ぶから体力つくと思うよ?」


 ナエナちゃんの中ではもうすでに毎週一緒に遊ぶことになっているようだ。勘弁してくれと思いながら小さく笑うだけでその先は何も言おうとも思らなかった。要ったら絶対に面倒くさい子供の口論になることを容易に想像したから。ただへさえ疲れているのにこれ以上無駄な気力は使いたくはない。


「もう空も暗くなってきたし、そろそろ村に戻ろうか。」


 そう言いながら俺はその場から立ち上がろうとした。地球での子供の夜遊びは禁止という常識はこの世界でもあった。俺達それぞれの親が心配する前に、そろそろ帰った方がいいだろう。


「うん、そうだね・・・あっ!そうだ!ねぇねぇアスタくん、ちょっと待って!」


 ナエナちゃんは何かを思いついたかのように大きな声を出し、立ち上がろうとした俺の服の袖を掴み再び地面に座らせた。彼女が急に大声出すのは別に珍しい事ではない。ただこのタイミングでの思い付きだからか俺は何を言い出すのか予想できずに若干不安になる。


「な、なに?どうしたの?」


「ふっふっふっ、アスタくんに見て欲しいものがあるんだ!見てて見てて・・・。」


 そう言いながらナエナちゃん自身の人差し指を立て、指先に何か念じる様に強く睨み始める。一体何をするのか不安から興味へと変わり、彼女の様に俺もその指先を見つめ続けた。無意識に彼女の指先に顔を近付いてしまう。


『火魔法:リ・ファイア』


 ナエナちゃんの指先から小さな火が点火された。本当に小さい、そこら辺に落ちてあるどんぐりと良い勝負だ。しかし指先に顔を近づけていた俺には急に出てきたその火に対して大きく驚いてしまった。


「うわぁッ!?」


「あははは、大丈夫アスタくん?」


「び、びっくりした~・・・ま、魔法?」


「うん。この間出来るようになったの。ねぇねぇ、どう?すごいでしょ?」


 ナエナちゃんは少し自慢げに魔法習得できたことを報告する。彼女は俺とは違って見た目だけではなく中身も子供。何かができる様になったら自慢したくなる年ごろなのだろう。俺は自分でそう子供の心理を理解した。


「うん、すごいね。流石はナエナちゃん。とってもきれいな炎だね。」


これはお世辞でも何でもない。

周りが暗くなっているおかげでナエナちゃんの魔法は一段と綺麗に光を放している。

暑い夏の季節とは関係なく彼女の火は鬱陶しく感じず、ただ温かかった。


「えへへ、ありがとう!でもアスタくん、これ炎じゃなくて火だよ?そんなことも分からないの?」


「えっ、そ、そうなんだ・・・。」


 どっちも似た様ものだと思うけど・・・何が違うんだ?使い手にしか分からないものなんだろう。



 ある程度体力が回復した後、俺達は門をくぐり村に帰った。お互いに服に付いた土や草を掃いながら歩き、今日の出来事を振り返る様に談笑をする。その時のナエナちゃんの表情は本当に心の底から楽しんでいだ。きっと四つん這いになる俺の姿を思い出したのだろう。よほど滑稽だったのだろう。そしてしばらく歩くと俺達の家が見えてきた。


「あ、パパだ!」


 ナエナちゃんは急に声を出し、自身の家の前を指をさす。そこには彼女の父親がいた。


「じゃあ私はここで!バイバイ、アスタくん!また遊ぼうね!」


 ナエナちゃんは父親を確認すると、俺を置いて自宅に走り去った。俺はその場で手を振り見送った。


 ・・・バイバイって言えてなかったなぁ・・・。


 急な事態に対してすぐに対応できない、これも俺の悪い癖である。俺はまた一つの後悔ができたと思いながら自宅に向かう。


ガチャ


 自宅に着いた俺はドアを開けて両親がいる居間へ向かう。そこには母さんは夕食の準備をしており、父さんはその夕食を席について待っていた。2人は俺が家に入ったことに気づき、顔を驚いた表情に変えて料理の手を止めて俺の方へ近づいた。


「・・・ただいま。」


「アスタ、どうしたのその服!すごい汚れじゃない!顔もそんなに汚れて!」


「・・・ごめんなさい。久しぶりの外出だったので、・・・ついはしゃいでしまって。」


2人は俺の体の汚れに驚いた。当然だ、息子がボロボロの状態で帰宅したのだから。頭を深く下げて両親に謝った。心の中から本当に申し訳がないという気持ちでいっぱいだった。少し間があくと、父さんは俺の頬を触り顔を上げさせた。


「そうかそうか、よかったよかった!てっきりいじめられたのかと思ったぞ!」


「もう~本当に心配したんだから!ご飯の前に先にお風呂に入っときなさい。」


 2人の表情は笑っていた。どうやら許してくれるようだ。意外な対応に呆気を取られた。そして、2人の笑顔につられて俺も笑った。


「・・・ありがとうございます。じゃあ俺、お風呂に入りますね。」


 一度頭を下げて、2人を走り抜き風呂場へ向かった。



 異世界のお風呂は俺の前世の世界と違い、魔法でお湯を沸かす。正確には火の魔石を使う。魔石とは、その名の通り魔力が込められた石のこと。魔石は10種類あり、その種類によって異なった働きをする。


 俺の家のお風呂の見た目は前の世界と同じ一般的な長方形型。しかし使われている材料は、魔石とはまた別の特殊な鉱石を使われている。そして見た目こそ一緒だが、四つ角の一つに魔石を置けるようボッチがあるなど微妙に違った。そこに火の魔石をはめると、お風呂の水の温度だけを上げてお風呂自体熱くならない仕組みになっている。かなりお手楽なのだが、水は前の世界と一緒で水道を使って入れるので少し待たなくてはならない。ちなみに俺の家のお風呂は庶民的な物で、貴族や王族などのお風呂は何か効能がある魔石を使うらしい。



 体を洗い、ゆっくり湯に浸かって、俺はお風呂から出た。風呂場の出入り口に俺の新しい下着と服が置かれていた。両親のどちらかが用意して置いてくれたのだろう。


 服を着て食卓に着くと、父さんはいつも通り明日の仕事についての資料の紙に目を通し、母さんはまだ料理をしていた。俺の分の料理を作ってくれている。


「母さん、お風呂から出ました。」


「あら、今日はずいぶんゆっくりしていたのね。今出すから自分の席に着いててね。」


 母さんの言うとおり今日はいつもより長くお風呂にいた気がする。疲れた体を癒すため無意識に長く浸かっていたようだ。それほど自分の身体が軟弱ということ、そしてナエナちゃんの遊びがハードだったということを改めて実感した。



 食事をすませた俺は食器を洗い場に持っていた。もちろんすべてきれいにいただきました。

母さんの手料理は何でもおいしい。残すなんてもったいないことはしない。


「母さん、ごちそうさまでした。」


「ありがとう。食べ終わった食器はそこに置いておいて。」


 母さんが指示した場所に食器を置き、俺は自室に向かうため階段を上った。


「アスタ、おやすみ。」


「おやすみなさい。」


 階段を上る俺の姿を見た父さんはおやすみと言ってくれた。それに続いて母さんも。いつものやり取りだ。


「父さんも母さんも、おやすみなさい。」


 軽く一礼をしながら言って俺は階段を上った。


ガチャ


 自室に入った俺は、いつもなら母さんの本を読んでからベッドに入るのだが、今日はナエナちゃんと遊んだせいで心身ともにくたくたでそのまま無意識にベッドに入った。ベッドの柔らかさを感じながら寝返りをして、部屋の天井見ながらふとあることを思った。


 ・・・俺は良い子に見えているのかなぁ。


 俺は生前からのある悩みがあった。内心は善人なのか、または悪人なのか、周りから見て俺は良い人なのか、嫌な人なのかと。俺は周りからの視線や印象などが気になってしまう性質なのだ。これが一番の悪い癖だと自覚はしている。しかしそれが気になってしょうがなく、直したくても直せないのだ。両親に対して敬語を使っているのも自分が良い人だと認識してもらいたいがためにやっているのだ。表面では良い人と思われようと猫を被り、内面ではこのようなことを考えてしまう、俺はどうしても自分が善人だと思いきれない。


 こんな考えがいつから始まったのかはわからない。きっと何かきっかけがあってこうなったと思い頑張って思い出そうとするが、なぜか思い出せない。こういったことが前世から続いた俺の悩みである。こうしていろいろと考えていくうちに、いつの間にか俺は眠っていった。


 俺の夢の中でとあることを思い出した。それは、転生の神様からのメッセージである。俺が生まれて数か月の赤ちゃんの頃、前世の記憶と転生する理由を記憶として思い出すように頭の中に入ってきた。


 まず、何故転生の神様が俺に2度目の人生を送れるように転生してくれたというと、とある神様が転生の神様に頼んだから。そのとある神様とは、運勢の神様という。運勢の神様は名前の通りすべての生物の幸福や不幸を均等にしてその人生を過ごさせるという使命がある。波長の波のように幸福があれば不幸を、不幸があれば幸福といったバランスを保たせる。しかしごく稀に、運勢を均等にできずに不幸の連続で余生を過ごさせてしまい、そして死んでしまう者が複数同時に出てくる。それが俺らしい。


 そして謝ってその様な人生を送った者の魂が天国に来た場合、運勢の神様は毎回転生の神様に頼んでいるらしい。ちなみに何故転生場所が異世界かというと、神様の曰く一度天国に来た魂がもう一度同じ世界で人生を送ることは禁止されている。だから代わりに記憶を残したまま異世界で転生してくれるようだ。だから俺はこうして前世の記憶を持ったまま異世界で第2の人生を送れているのだ。


 以上が転生の神様が俺を異世界に転生させた理由である。俺はこの件に関して色々なことを思った。


 まず俺自身、それほど苦難が連続した人生ではないと思うが・・・まあ心当たりがあるし神様が言うのだからそうなんだろう。あと記憶の内容を読む限り少なくとも、もう1人転生者がいるということか?確かにあの時(転生直前)、『君以外にも転生する予定の人が後にいる』って転生の神様は言っていた。・・・少しは興味あるかも。その人がどんな不幸な人生を歩んできたのか気になる。他にも・・・。


 こうして夢の中で転生の事を振り返った俺は、さらに深く眠りについた。


星暦2019年、夏の32日、闇の日、朝


ピカーンッ


 うっ・・・まぶしい・・・!?


 カーテン全開で寝ていたせいで朝日の光が部屋に入って俺の眼に刺激を与える。目覚めた俺はベッドから起き上がり、時間を確認するため部屋から出て一階に降りた。この家は花屋と繋がっており、お店と家の一階の食卓に1個ずつ時計が置かれている。時間を確認するたびに一階に降りなければならないから何かと不便だ。眼をこすらせながら一階に着くと、いつも父さんが座っている席に知らない男の人が座って本を読んでいた。最初は驚いてその場で硬直したが、よく見ると見たことがある顔であった。


 ・・・誰だっけ?う~ん・・・名前が思い出せない・・・。


「あら、アスタおはよう。今日はずいぶん起きるのが遅かったのね。」


 洗い場から声が聞こえ、その方角へ顔を向けると母さんが皿を洗っていた。母さんの声に反応して男の人も俺に気づいた。


「おお~、おはようアスタ!大きくなったな~。」


「お、おはようございます・・・。」


 声をかけられた俺は緊張し、二人に軽く一礼をした。そして俺は頭を下げているなか、この人を少し思い出した。眼を泳がせながら、俺は内心焦った。


 確か俺の叔父・・・すいません、忘れました。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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