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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第1章 アスタ・サーネス
3/96

第2話 ナエナ登場

諸事情のため編集しました。

旧タイトル「ヒロイン登場」

「ずっと外に出ないから心配していたんだよ!今まで何していたの?ていうか髪の毛伸びた?アスタくん短い方が似合うから切ったら?ねぇねぇ、ねぇ~ってば!」


 相変わらずのすごい質問の量・・・。聞いているだけで疲れてきた・・・。


 ナエナちゃんは唯一俺と話してくれる同い年の女の子。彼女の両親は2人とも冒険者という仕事をしていたらしく、かなり稼いだいたそうだ。今は引退して故郷である『ペレーハ村』で畑を耕しているが、その現役世代の貯金のおかげで彼女の家は村一番のお金持ちである。現在彼女の服装も他の住民と比べて少しおしゃれである。


 こうしてナエナちゃんと話すのは本当に何日ぶりだろう。・・・ってか何で光の日になのにナエナちゃんもまだ家にいるんだ?すぐうちに来たってことは家に居たってことだよな?この子の性格上、1人でも外で遊びに行くはずなのに・・・。

 まあ、俺が気にすることではないか。とりあえず席から降りて話すか。・・・ヤバい、緊張してきた。口臭大丈夫かな・・・。


「ねぇねぇ、今までずっと家から出ないで何していたの?」


「・・・勉強してた・・・ごめん。」


 適当に内容で返答するが、その口元は上手く話せなかった。ただへさえ人と話すのが不得意なのに、その相手が可愛い女の子だけでも緊張してしまう。前に遊んだ時は普通に話せられたけど、久しぶりのせいか緊張が込み上がってくる。


「すご~い、勉強なんてしているの!私だったらすぐに飽きるのに。ねぇねぇ、他に何かやっていたの?」


 すごいグイグイ来るなこの子。いやまあ、そういう性格だったな。そんなの聞いて何が楽しいんだ?


「へいへい~御二人さん。今日はこんなにもいい天気なんだから、話すなら外で話したら。」


 いつの間にかナエナちゃんの背後に立っていた父さんが外出するようにと提案をくれる。話題を変えてくれた父さんに心底感謝するけど、同時に少し複雑な感情になる。


 ナエナちゃんの質問攻めを止めてくれて嬉しいけど・・・結局2人っきりになるんだよなぁ。父さんも付いて来て・・・くれないか。


「分かりました。それじゃあ、行ってきます。」


「は~い!じゃあアスタくん行こ!」


「えっ、ちょっ!?」


 笑顔で返事したナエナちゃんはそのまま俺の手首を掴むと、入って来た出入り口の方に向かって引っ張って連れて行く。しかも意図的なのか、逃げ切れないようにかなり強めに掴む。子供の力だからそれほど痛くはないけど、彼女に掴まれているという恥ずかしさはあるからすぐにやめてほしい。


バタンッ


 家から出るとナエナちゃんから手首を離してもらい、次にどこへ行くのか考え始める。とりあえず家から出たけど、当然この後のことは何も考えていなかった。


「ねぇねぇ、どこに行こうか?」


「・・・俺は・・・どこでもいいよ。」


 俺は基本受け身な性格。これは前世と同じで、よほどの自分に不利な局面じゃない限り、自分の意思や意見を強く出さない。はっきり言ってこれも俺の悪い癖だ。これのせいで前世では色々な面倒ごとをさせられた記憶しかない。


「う~ん、そうだねぇ・・・。じゃあ、草原に行こうよ!前みたいに遊ぼう!アスタくんもいい?」


 まあ、遊ぶ場所はあそこぐらいしかないし、予想通りだな。俺は首を縦に振って承諾する。


「じゃあどっちに先に着くか競争ね!」


「えっ、いや、何で!?」


「よ~い、ドン!!」


 そう言いながらナエナちゃんは1人だけ走る用意して、そのまま草原に出る村の西門の方へと走り出した。置いて行かれた俺は少し呆然とする。


 えっ、えっ、えっ?勝手に行っちゃった・・・追いかけた方がいいよな?走るの、引きこもりの俺が?全く身体を動かしていなかったんだよ?まあ、いい運動にもなるし、別にいいか・・・。


「はぁ・・・。」


 小さくため息をついた後、ナエナちゃんに遅れて俺も走りだす。2人の差はそれ程大きくひらいていなかったから、すぐに追いつけると思った。俺に他の人のような平均的な体力があればの話だが。



 ペレーハ村は木の策でぐるっと一周して囲まれており、村の出入り口である門は2つある。1つは他の村や町へ行き帰りに使われる北東門と、もう1つが村の隣にある草原に繋がる西門である。動物が入ってこないように、両方の門の前には門番が交代で四六時中立っている。村の資金はそれほど多くないので憲兵は雇っていない。門番は基本村の住民がやっている。


 俺の家は村のやや中央寄りの東側に位置する。村自体それほど広くないから西門までは子供の足でもそれほど時間はかからず着いた。だけど久々に外出のせいなのか、それとも準備運動もせず走ったせいなのか、思わぬ問題が起きた。


「あはははは!アスタくん、走るの遅~い!」


「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・。」


 先に西門の前に着いたのはナエナちゃん、それに遅れて俺も着いた。同じ身長のはずなのに何故か走って行くうちにナエナちゃんとの差はどんどん広がっていった。しかも先日雨だったせいか村の中に水たまりが多く出来ており、それを飛び越えたり避けたりして余計な体力を使い、到着した時には俺は息切れして肩で呼吸をしている。今にも倒れそうだ。


 いくら何でもこの体力の少なさは流石にヤバい!明日からちゃんと外に出よう・・・。


「ハハハ、久しぶりだねアスタくん!元気にしていたかい!」


 門番の人が声をかけてきた。村の人口が少ないせいか住民のほとんどが顔見知りで、部屋に引きこもっている俺でも今日の門番の人の顔くらいは知っている。一度呼吸を整えてから返答する。


「・・・おはようございます。一応・・・元気です。」


 また人と話すのに緊張してしまい、少しおかしな話し方になってしまった。でも少しずつだが良くはなってきている気がする。


「うん、元気ならよかった!ナエナちゃんから聞いたよ。これから草原で遊びだってね?いいかい、遊んでいいのは草原まで!奥の森まで行っちゃだめだよ!」


 これは村の掟で、15歳未満の子は大人と一緒じゃないと草原の奥にある森には行ってはいけないことになっている。理由は単純、凶暴な動物が出るからだそうだ。一体何か出るのかは分からないけど多分熊とかイノシシとかだろう。でも逆に動物たちは俺たち人族が怖くて草原までめったに出てこないそうだ。


「分かっているよ、そんなこと!もうそんなに子供じゃあないから!じゃあ私たち行ってくるね!」


「おう、いってらっしゃい!気を付けるんだよ~。」


 俺と門番の人が話している中、横からナエナちゃんがまた俺の手首を掴んで門番の人の横を通って村の外に出た。今回は疲れていることもあって、恥ずかしさより掴む力がとても強く感じる。俺が非力だからそう感じているのだろうか。


 ってか走るのが速い!これじゃまた息が切れちゃう!?


 貧弱な俺には先導して走るナエナちゃんについて行くので必死だ。だけどナエナちゃんはお構いなしにいい笑顔で走り続ける。


 村を出てすぐに草原に着いた。ここの草原はかなり広い、少なくとも村以上の広さはある。ここには建築物は何もなく、ただ緑色の草だけの景色が視界に入る。草原にはすでに他の子供たちやご老人たちが遊びや散歩で先に来ている。村の住民は草原をよく公園感覚で来ている。


 ナエナちゃんに目的地を聞こうとするけど付いていくのに必死だったため何も聞けないままひたすら走り続ける。彼女は俺を引っ張りながら緩やかな斜面を上り、草原の中で一番高い丘に到着する。着いたと同時にナエナちゃんは俺の手首を離してくれた。息切れしていた俺はすぐさま崩し四つん這いになって荒立てた呼吸を整える。


「もうダメ・・・もうダメ・・・もうダメ・・・。」


「アハハハハ!アスタくん全然体力ないじゃん!」


 そんな俺の姿を見てナエナちゃんは腹を抱えて爆笑する。彼女からは滑稽な姿に見えるのだろう。

そんな楽しそうに笑う彼女とは逆に、俺は自のこの状態に情けなく感じる。


 ヤバいッ・・・ヤバいッ・・・本当にヤバいッ・・・!!こんなに体力がないなんて思わなかった!明日から本当に外に出て走ろう・・・。


 そう思いながら俺は呼吸を整えて、その場から立ち上がる。今になって気付いたけどここは草原の中で高い丘、太陽の光によって鮮明な緑色の草が一望できる場所である。奥の森から強い風が草原の隅々まで渡り、草は波打ちように揺らぎ、そして風が俺たちの所まで届いた。体に当たり心地よく感じる。


「アスタくんとここに来るの久しぶりだね~!」


「うん、そうだね・・・。」


 本当にここに来るのも久しぶりだな。・・・こんなにもきれいな場所だったんだ。本当に自然に恵まれたところに転生したんだなぁ・・・。


「それでナエナちゃん・・・ここで何する?」


 久々の草原の景色を見たあと、ナエナちゃんに質問をする。ずっと一緒のいたせいか緊張もなくなり、先と比べてかなりマシになって話せられた。


「ふふ、アスタくん。昔ここで何して遊んだか覚えている?」


 質問を質問で返された。ここは俺たちがまだ4、5歳の頃に何回か一緒に遊んだ場所。遊んだというか、今回のように俺が連れて来さされたという方が正しい。当時も確かこんな風に引っ張られたと思う。

昔からナエナちゃんはやんちゃであった。


「ほら、昔ここから下まで転がって遊んだじゃん!覚えていないの、あれ!」


 ナエナちゃんの言う“あれ”とは、緩やかなこの坂を前転して転がってはまた上がり 転がってはまた上がりの連続の遊びのこと。確かにその時俺もここにいたが、転がるナエナちゃんが心配で俺は走って追いかけていただけだ。どうやらその時のナエナちゃんは俺も転がっていると勘違いしていたらしい。注意しようとも思ったが、その時も自分の意見は言えなかった。そういえば今思えば、あの頃の方がまだ体力あったんだなあ。俺は“あの”遊びかと問い返す。


「そうそう!昔みたいにまたやろう!」


 ナエナちゃんはいい笑顔で坂に指をさした。その坂は昨日の雨のせいで少し濡れており、しかも点々と水だまりもできていた。


 絶対にいやだッ!


 理由は2つ。まず1つ目が、絶対に疲れるから。正直に言ってこれ以上疲れるのは嫌だ。それに見た目が子供でも精神はもう大人のせいか、あの遊びの楽しさが分からない。そして2つ目が、こんなびしょびしょな坂で転がりたくはない。もしこんな状態で転がったら間違いなく服が汚れるだろう。そしたら両親に怒られる。だから嫌だ。


 ここはうまくごまかして、別の遊びにしてもらおう。・・・いや、ナエナちゃん相手にそれは無理な気がする。


「じゃあ どっちが先に下に着くか競争ね!」


 そう言いながらナエナちゃんはまた1人勝手に座り込み前転の準備を始める。この子は基本返答待ちとかないようだ。


「よ~~~い、ドン!」


 掛け声と同時にナエナちゃんは転がり始めた。予想通り彼女の服は転がり続けることに、その綺麗な服は汚れ続けた。勿体ない。ちなみに俺は汚れるのが嫌だから走って追いかけた。彼女は真剣に転がっているから俺がズルしているは気付かない。申し訳ないけど服は汚したくはない。しかしここで不運が起きる。走るときに踏んだ草が濡れていたせいで、俺は豪快に滑って倒れた。


「グヘッ!!」


 そしてそのまま転び始めた。


「ぅうわあああぁぁぁぁ!」


 ナエナちゃんの前転に対して、俺は横になって転がっている。おそらく汚れる面積は俺の方が多いだろう。地面に何度も跳ねながら転がり、俺の服は直実に汚れていく。もうここまで来たら手遅れだ。そう諦めた俺はそのまま流れに身を任せ転がり続けた。


・・・あぁ、もういいや・・・。



 しばらくして坂を下り終わった俺はうつ伏せになった。横になって転がったせいで頭がくらくらする。吐き気はしないが、かなり気持ちが悪い。そして予想通り、かなり疲れた。長い坂を転がっただけで体力はほとんど持っていかれた。今は確認できないが、おそらく服は相当汚れているだろう。


「アハハハハ!アスタくんすごい汚れている!」


 先に下に着いたナエナちゃんは俺の格好を見てまた爆笑をする。気持ち悪さが無くなり落ち着いた俺は起き上がってその場に座り、自分の服を確認すると土や砂などが付いてかなり汚れていた。確かにすごい汚れている。そして彼女も俺ほどではないが汚れていた。


「・・・ふふっ。」


 ナエナちゃんの笑いにつられたのか、それとも純粋に楽しかったせいか、俺の表情に笑みが浮かび上がった。


「ねぇねぇ、もう1回やろう!もう1回!」


 ・・・えっ!?


 ナエナちゃんはまたいい笑顔で坂の上に指をさす。彼女はまた俺の手首をつかんで座っている俺を引っ張って起こし、また坂を上がり始めた。正直に言ってもう勘弁してほしい。


・・・やっぱり、似ているなぁ。


 手首を引っ張るナエナちゃんを見ていると、いつも思い出してしまう。何故俺がそんなに彼女に会いたくなかった理由、それはナエナちゃんの容姿と声色だ。似ているんだ、とても。今のナエナちゃんは前に会った時と比べて大きくなり、より似始めてきている。前世の有野桂一が人生で一度だけ好意を抱いたあの女性ひとに。幼馴染のあの女性ひとに、本当に似ている。性格も幼い頃と全く一緒。ナエナちゃんも大きくなったらあの女性ひとみたいに綺麗な人になるのだろう。

 そう考えるとどうしても意識してしまう。意識するとなぜか緊張してしまう。そして、前世での辛い思いを思い出してしまう。あの時の記憶を思い出すと俺は心が痛くなり気が滅入ってしまう。だから俺はナエナちゃんに会いたくなかった。彼自身、彼女個人には関係ないのは分かっているが、俺はもうあの記憶を思い出したくない。

 ナエナちゃんの笑うその顔を見て、ふとあの女性ひとの面影を思い出してしまった。そのせいで前世での嫌な出来事を思い出してしまい、いつの間にか先まで浮かんでいた俺の笑みがなくなっていた。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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