第1話 開幕 憂鬱な青年
諸事情のため編集しました。
タイトル旧“臆病な青年”、“転生、憂鬱な青年”
世界の名は『ファンタヘルム』。魔法、他種族、モンスター、自身の状態を数値化と文字化して確認できるステータスウィンド等が存在する世界。文化的発展は地球と比べてかなり劣っているが、それらを駆使してこの世界だけの生活をしている。
ファンタヘルムは大きく5つの大陸に分かれている。それぞれ『イースト大陸』、『ウエスト大陸』、『サウス大陸』、『ノース大陸』、そして『センター大陸』と名付けられていた。どの大陸もそれぞれの特有の地形や環境があり、それもまたこの世界での醍醐味である。
舞台はウエスト大陸の最端にある小さな村、『ペレーハ村』。人口は約200人。王都、即ち都会の地からかなりの距離はあるが、美しい自然に囲まれ緑に恵まれている。住民はほとんどが農民でほのぼのしており、苦労や苦悩がなく平和に暮らしている。この村なら大丈夫だろうと考えた転生の神はある1人の魂をこの村に転生させた。
コンッコンッ
「アスタ、お母さんだけど・・・ちょっといいかしら?」
とある一軒家にて、1人の女性が扉をロックして中の人を呼び出す。
ガチャッ
「はい。・・・何ですか、母さん?」
名を呼ばれて1人の青髪の少年が部屋から顔を出す。そう、彼こそが神によって転生した者である。後にこの者が果てしない遠い将来にて、人族史上初の『魔王殺し(ディザスタースレイヤー)』という栄光の称号を手に入れることは、誰も予期していなかった。それまでの苦難が続く運命もまた、神すら予期していなかった。
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<アスタ視点>
星暦2019年、夏の31日、光の日、朝
俺の名前はアスタ・サーネス。先々週ほど前に7歳になった、花屋を経営しているサーネス夫婦の間に生まれた1人息子。
前世は有野桂一として別の世界、地球で生きていたけど若くして他界してしまった。だけど転生の神様のおかげでこうして異世界で第2の人生を送れるようになった。いざこの世界に生まれた時は赤ん坊ということもあり、何が起こるのか不安と恐怖で心底怯えていた。だけど住めば都とはこのこと、この世界の生活は日本と文化の違いだけで、意外にも充実した日々を過ごしている。
「母さん、話って何ですか?」
「下に行ったら話すわ。お父さんも待っているし、早く行きましょう。」
ある日、何故か突拍子もなく母さんが2階の俺の自室に訪れてきた。その表情は怒っているとは言わないけど、決して明るいとも言えない。とりあえず母さんの言う通りに自室から出て、一緒に階段で1階に降りる。階段から降りるとすぐに居間に着き、テーブルには母さんの言っていた通り父さんが自分の席について俺を待っていた。
あれ、今まだ午前中だよな・・・2人とも仕事は?この時間はまだ店を開いているはず。昼ご飯にしては早すぎるし、どうしたんだろう・・・。
「アスタ、ちょっとそこに座りなさい。」
父は俺が降りて来たのを気付くと、そう言って対面して話せるようにテーブルの反対側の席に移動して座った。というよりここがいつもの俺の席だ。
「・・・アスタ、少し話があるんだが・・・。」
この人が俺の父親、ポスロ・サーネス。ここ『花屋サーネス』の店長をしている。髪の色は俺と同じ色の濃い目の青色で、体格は過去にボディービルダーをしていたのかというくらいのたくましい体をしている。父さん曰く働いているうちについたらしい。お店に来るお客様と家族にはいつも笑顔で接してくれるいい父親だが、こんな真剣な表情で父さんと話すのは初めてだ。
そして父さんの隣の席に座った女性が俺の母親、ヨスナ・サーネス。とても7歳の子供を持っているとは思わないくらいの若々しい容姿をしている。そして茶色の髪を持っており、その容姿にとても合っている。母さんもまたどんな人に対しても優しく話すいい母親だけど、その表情は父さんと同様に真剣であった。
えっ、もしかして2人とも怒っている!?俺、何かしたっけ?お店の手伝いもせず部屋にこもっているのが原因か?いやでも、2人が手伝わなくていいって言ってし、それはないか・・・。ヤバい、本当に心当たりがない・・・。
「アスタ、正直に答えてくれ。・・・もしかして、誰かにいじめられているのか?」
・・・はい?いじめ?何で、どういうこと?
「あなたここ最近ずっと部屋にこもっているじゃない?だからお父さんもお母さんも心配しているの。何かあったのなら相談して。」
・・・あぁ~なるほど、大体理解した。多分この2人は俺がまだ子供なのに他の子と同じ様に外へ遊びに行かずに、部屋にずっと閉じこもっていることに不安を感じていたのか。そりゃあそうだ、子供が閉じこもったらどんな親だって心配するよな。自分がまだ子供だってことをたまに忘れてしまう。
「・・・別にいじめとか受けていません。俺が外に出ないのはただ本を読むのが好きなだからなんです。遊ぶより読書そっちの方が楽しいので。心配してくれてありがとうございます。」
まあ正直に言うと、精神年齢27歳にもなって子供のように無邪気に外で遊ぶのは気持ち的にちょっとなぁ・・・。それに前世の記憶のせいか自宅にいるほうが落ち着くという習慣も原因かな。まあそれらが外出をしない一番の理由じゃあないけど・・・。
「本当?いじめられていないのね?」
「本当に大丈夫ですよ、母さん。俺がただ家に居たいだけです。」
「・・・本当に?」
意外に母さんがしつこい。それほど俺のために思ってくれているのだろう。別に鬱陶しいとは思っていない、むしろここまで大事にしてくれて嬉しく思う。
「そうか、ならいいが・・・ちなみにどんな本を読んでいるんだ?」
今まで読んできた本は主にファンタへルムに関すること。常識的な知識や生活は両親から聞き、この世界の文化については本で学んでいた。この世界には俺たち人族をはじめ、巨人族、獣人族、妖精族、魚人族、鬼人族の種族が暮らしている。昔はどうだったのかよく知らないけど、現代では他種族同士で対立することはない。街によっては他種族共同で住んでいる所もあるらしい。
更に本で学んだのはこの世界には魔法も存在という事。この世界、ファンタヘルムには光・闇・火・水・土・木・氷・雷・風・無の10個の初級魔法を基準に多くの魔法が存在する。魔法は生活から仕事まで幅広い場面や状況で活躍しており、言わばこの世界にとっての必需品という扱いである。ちょうど今、目の前で父さんが魔法を使い始めた。
【水魔法:ザ・ウォーター】
コーヒーを飲むため父さんがコップの上に指を置き、指先から水を出した。しかもホットにして飲むため熱湯。この世界の魔法は俺が想像して以上にだいぶ使い勝手がいい。ファンタヘルムに生まれた誰もが体内にある魔力という、体力とはまた違った内に秘めた力を宿している。魔法はその魔力を消費して初めて発動できる。当然この世界に生まれた俺にも魔力はある。
そう考えると魔力がある限り水には困らないということか?本当に都合のいい世界だな・・・。
話を戻すと、俺が読んでいる本は以上の内容だ。母さんの趣味が幸運にも面白そうな文学本や図鑑を集める事だったため、家の3階の屋根裏には大量の本が置いてある。少し変わった趣味だが俺的にはかなり助かっている。他にも様々な分野の本があり、そこから本を借りている。読んでいた本の内容を大体説明し終わると、父さんはコーヒーを片手に少し考える。
「ほぉ~、なるほどねぇ。・・・アスタ、そんなに勉強して楽しいのか?勉強なんかいいから外に遊びに行け、外に!俺がアスタくらいの歳の頃はよく外でぶらぶらと遊んでいたもんだぞ!」
父は笑いながらそう言った。まさか親の立場から勉強を否定されるとは思いもしなかった。必死に勉強してきた前世の俺の人生を否定された気分。これには苦笑いで返すことしかできない。
「そうよ。まあ、勉強することは良いことなのだけど・・・たまには外に出て遊びなさい。このままじゃ根暗になっちゃうわよ?」
うわぁ・・・今の母さんの言葉はグサッと心に刺さったなぁ。前世の生活がほぼ根暗みたいだったから何とも言えない・・・だけど、確かにそうだな。せっかく生まれ変わったのに前世みたいな生活を送るわけにはいかない。それに・・・。
両親の顔を見ると、2人は本当に心配している表情だった。これ以上この2人に不安な思いをさせたくない。
「・・・分かりました。丁度今日は晴れているので、今から少し外に行ってきます。」
「うん、そうしなさい。せっかくの光の日だ、遊んで行きなさい。」
・・・忘れていた。今日の曜日は光だったのか。だからお店を閉めているわけか。
ファンタへルムの曜日は全部で10個。光・闇・火・水・土・木・氷・雷・風・無、の順に繰り返して1週間と数える。これらは初級魔法の10個に置き換えており、光の日は基本休日である。そして、ファンタへルムの1年は400日である。月日の区切り方は1月・2月・3月ではなく、春・夏・秋・冬の4つに区切られおり、1季節100日となっている。
しかし遊ぶとは言ってもどうしようかなぁ・・・この村で同い年の子とはあまり仲が良いわけではないし。テキトーにそこら辺でも散歩しようかな?もう少しで昼食だしそれでいいか。
「そうだわ!アスタ、せっかくだからナエナちゃんと遊びなさい!」
・・・えっ?
心配がなくなったのか母さんは良い笑顔でとある提案を出す。聞き間違いだと思い俺は呆然とした表情で母さんを見る。
「最近ナエナちゃんあなたに会えなくて寂しがっていたわよ。久しぶりに外に出るんだから一緒に遊びなさいよ。」
「おお、いいじゃないか。ナエナちゃんとは仲がいいからな。」
更に母さんが言うと父さんもその提案に便乗する。2人が言うナエナちゃんとは、うちの近くにある一軒家に住んでいるマーシェナ家の1人娘のこと。俺とは同い年の幼なじみという関係で、幼少の頃はよく遊んでいた。しかし2人の言う通り、その子とは数日間会っていない。
って2人とも勝手に話を進めないでほしい!久しぶりの外出と人との会話がナエナちゃんとなんて個人的にすごく嫌だ!どうにかして理由を作って断らないと・・・久しぶりだから1人で歩きたい?子供の発言ではないと思うけど・・・うん、たぶんいける・・・かも?
「・・・あのー、できれば今日・・・一人がぃ・・・。」
「お母さん丁度ナエナちゃんの家に用があったから今日遊べるか聞いてくるわね。」
「おう。いってらっしゃい母さん!」
バタンッ
言葉を言い切る前に母さんすでに外に出て行ってしまった。流れるように進む話題に全くついて行けなかった。
行動が早すぎるよ母さん!俺の意見は!?子供だから“うん”って言うと思ったの!?
「ん?アスタ、何か言ったか?」
「・・・いいえ、何でもないです。」
父さんの質問に対し首を横に振る。前世と一緒で言いたいことが言えない俺の悪い癖が出た。俺は小さくため息をつく。
ああ、どうしよう・・・。他の子供でも緊張するのに、よりにもよってナエナちゃんか。・・・いや、よくよく考えたら俺、ナエナちゃん以外の同い年で知り合いいないな。
「どうしたアスタ、顔が赤いぞ。はは~ん、さえてはナエナちゃんと会うのが緊張するのか?」
父さんはそう茶化しながら言うけど、あながち間違ってはいない。俺が外出しない一番の理由、それはナエナちゃんに会いたくないからだ。別に人として嫌な子ではない、むしろいい子だ。同い年からご老人まで、誰にでも明るく接するとてもいい子なのだ。現に引きこもっていたこんな俺でも遊びたいと言うほどだ。それでも俺は彼女に会いたくない。これには俺なりにちゃんとした理由わけがある。
コンッコンッ
「すいませ~ん、アスタくん居ますか?」
母さんが家から出て行って数十秒後、入り口のドアをノックする音と女の子の声が聞こえた。それが居間まで聞こえると俺はたちまちドアの方に振り向く。
ッ!!この声まさか・・・もう!ってか来るのが早い!?ヤバいヤバい、どうしよう!
「ハイハイ。今開けるよ~。」
ちょっと待って父さん!って言ってもそこまで来られたらもう無理かぁ。
父さんは席から立ち上がり入り口の方へ向かい、ドアノブを握ってゆっくりと開く。開いた先には女の子が立っていた。
「おお、ナエナちゃん!おはよう!」
父さんがその女の子に挨拶をする。角度的に丁度父さんと女の子がかぶってここからではその姿が見えない。だけど先の声だけでも俺はその女の子の正体を安易に見抜けた。
「おはようございます、アスタくんのお父さん!今日アスタくんと遊べるって聞いたんですが・・・あっ、アスタくん!」
女の子は父さんの体から頭をずらして家の中を覗き見ると、席に座ったままの俺を目視した。その瞬間、俺と女の子の目が合う。女の子は父さんの横を通りそのまま家の中に入って俺の方へ近づいて来る。
「久しぶり、アスタくん!」
「・・・久しぶり・・・ナエナちゃん。」
この子の名前はナエナ・マーシェナ。肩まで届く長い赤色の髪の毛が特徴の女の子。そして俺が外出したくない、いや、会いたくなかった相手である。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。